
「見知らぬ地に根を下ろした希望――ミナリ」
●サンダンス映画祭はじめ世界の観客賞を総なめ
昨年の『パラサイト』の米国におけるアカデミー作品賞受賞に続いて、昨年末から米国ではインディーズ映画である『ミナリ(MINARI)』(チョン・イサク監督→ホームページ)がたいへんな話題作となっているという情報を聞いて、どうしても早く観たかったのですが、今になって何とか米国ルートで観ることができました。韓国では3月に劇場公開が予定されていますが、待ちきれなかったですね。感動でした!ヾ(≧▽≦)ノ"♪
『ミナリ』は、韓国系米国人であるチョン・イサク監督の自伝的映画であり、1980年代の米国中南部アーカンソー州の田舎に移り住んで農場を始めた韓国人移民者家族の話を描いた、いわゆる『大草原の小さな家』的な作品です。
「ミナリ」というのは韓国語で野菜のセリのことですが、映画の中では家族のお母さんのお母さんが韓国から種を持って来て、家族で食べるためにその地に植えて増やします。セリは韓国人のキムチや鍋料理に入る材料であり、おかずとしても欠かせない植物でありながら、汚れた水辺でも元気に育ち、汚い水を浄化するのだといわれます。そうして2度目の収穫のほうが味がよくなるともされていて、米国移民第2世代に託す夢も掛けているようです。まさに見知らぬ土地に植えられたセリのような姿で頑張った5人家族の、涙なしには見られない、温かくもつらい、つらくも温かい奮闘の姿が題名にはっきりと象徴されています。
ブラット・ピット設立の映画制作会社「プランBエンターテインメント」の制作で、映画『バーニング』にも出演していた韓国系俳優スティーブ・ヨンが総括プロデューサー兼主演を引き受け、このブログでも何度も紹介している、私も大ファンの魅力的女優ハン・イェリさんがお母さん役を演じ、韓国が誇る大ベテラン女優であるユン・ヨジョンさんがそのお母さん役を演じています。
昨年末から世界中の各種映画祭と批評家協会で、今日までにすでに74回のノミネートを経て合計31の賞を受賞しているわけで、それ自体は『パラサイト』を超えており、特にユン・ヨジョンさんに対する評価が高くて、1人で12の賞に輝いています。ただし地元米国では、実際に米国映画でありながら、台詞の大部分が韓国語であるということで外国映画として分類される微妙な立場にあり、そうでありながら第36回サンダンス映画祭で最高賞である審査員大賞と観客賞を受賞したということです。すごいですね。
●韓国の純正ウェハルモニが皆の心に根を下ろす
メインのテーマは家族の紐帯であり、構成員のうち、ハルモニは韓国しか知らず、夫婦は韓国と米国の両方を知り、子供二人は米国しか知らないという中で、特にハルモニを「グランマらしくない」と否定していた孫たちが、やがてその韓国のハルモニの愛を受け入れていく、ハルモニの心がしっかり二人に根を下ろしていくさまが感動的でした。
ただ、はっきりいって韓国での話だったとすれば、最もふつうの韓国的な美しい独立映画となっていたことでしょう。特にすごい作品だという評価にはならなかっただろうという意味です。しかし、そのごくふつうの韓国の家族、特に韓国の純正ハルモニが、米国の地に植えられた時に、ちょうどミナリのような独特の癖のある香りと歯ごたえを放つことで、そこにもっと大きな感動をつくり出しているわけです。
娘のため、鞄いっぱいに秘密兵器のような赤い唐辛子粉やミョルチを詰めてくるのも、まさに情深い韓国のハルモニであり、子供相手に花札をしながら最強ラッパーのような悪口をいい続ける姿も、なぜか楽しそうに男の子のおちんちんをからかう姿も、孫から信じられないような悪事を働かれても、自分はそれが楽しかったのだから孫を叱るなと無条件にかばう姿も、教会の礼拝で信仰深い娘が献金した大金をそのままスッと抜いて持ってきてしまう姿も、まさにすべて韓国のハルモニのそれなのです。
そしてさらにいうと、それは実は「ハルモニ(お祖母さん)」ではなくて「ウェハルモニ(母方の祖母)」の愛です。日本の韓流ブームが、実は2004年の『冬ソナ』より先に、2002年日本公開の映画『おばあちゃんの家(집으로)』のヒットで始まっていたという時に、その「おばあちゃん」が「ハルモニ」ではなくて「ウェハルモニ」だったということと重なっているわけです。すなわち韓国では、「ハルモニ」は家系の立場で息子の跡取りとして孫をみるのですが、「ウェハルモニ」はただ娘がかわいいという思いだけで、「母の母」として母の無条件の愛が2倍になったような愛で外孫を愛するわけです。その「ウェハルモニ」がまさに最も韓国的な愛として、韓国人の誰もが胸に抱いている、最も甘い愛の原風景だということになります。
●最も韓国的な根幹の文化による韓流ブームか?
まさにその「ウェハルモニ」の愛を中心として、米国の地で韓国の家族間の情緒や上下関係、子供の教育などの最も根幹の文化が展開するのが最高の魅力なのであり、それがおそらくは世界的にも大きな評価のポイントになっているのだろうと思います。
たとえば、映画のポスターをご覧になると、孫である男の子が木の棒をこちらに持ってきているシーンです。ふつうの人にはまったく謎ですよね。これが何を意味するのかは映画の中で明らかにされますが、これは実は「フェチョリ(회초리)」という、韓国で昔から親が子供を叱るためのムチです。韓国ではそれを子供に直接、持ってこさせるわけです。それと共に、正座をして両手を頭の上に高く上げさせる反省のポーズ、お父さんが叱る言葉をいわなければならず、お母さんはその後ろで見守り、ウェハルモニはおろおろして孫をかばおうと娘夫婦のほうを叱るという、まさにそれこそが韓国の愛による訓育の原型ですが、特に「フェチョリ」などは韓国人じゃないと分からない世界でありながら、それを堂々とポスターに描いたことに感動しましたね。さらにはその木の太さと子供の表情にも深い意味が込められていると思いました。
あとは、キリスト教ともいえないような、心霊的な宗教の話も絡んできますが、それもまた実に韓国的なテーマでした。そういう中で、話のクライマックスに向けて、せっかく始めた農業にさまざまな困難が訪れ、家族が現実的に最も追い詰められた時に、最後の思いもしない大事件が起きます。それはあまりの衝撃かもしれませんが、しかし、最も大きな絶望の状況が今の全世界的なコロナ事態と重なりながら、それが最も大きな希望の発見ともなるのだ、ということ、それがこの映画の最大の価値でしょう。
まさに米国の映画として見るからこそ感無量な、韓国の最も一般的な家族の映画でした。私としては昨年の『パラサイト』以上のホンモノの韓流が、とうとう米国で高い評価を受け出した、という感動です。すでに日本でも3/19より全国公開されることが決定しているそうですが、これは無条件、お勧めですね!♪ヽ(´▽`)/
【あらすじ】 見知らぬ米国のアーカンソー州へと移り住んだ韓国人家族。家族に何かを成し遂げた姿を見せたいお父さんジェイコブ(スティーブ・ヨン)は自分だけの農場を始め、お母さんモニカ(ハン・イェリ)も再び働き始める。まだ幼い息子のためにモニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)が共に住むことにし、鞄いっぱいに唐辛子粉、ミョルチ干し、韓薬、そしてミナリの種を入れたハルモニが到着する。二人の子供、心臓に病気を抱えたいたずらっ子の弟デイビット(アラン・キム)と、家族のために大人のように聞き分けよくふるまう姉アン(ノエル・ケイト・チョ)は、ふつうの米国のグランマらしくないハルモニが気に入らない。一緒なら新しく始められるという希望に、一日一日を根を下ろして生きていく、ある家族のとても特別な旅程が始まる。






















映画『ミナリ(MINARI)』(チョン・イサク監督)予告編。
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