【 小池博史ロングインタビュー最終回】
かつて率いたカンパニー、パパ・タラフマラのメンバーへも力づくだったという小池さんは、
「昔は表現の向上を強要したんだよね“お前、ここまでいけるなら、もっといけるはずだから行けよ”って。でも、それで持ちこたえる人間と持たない人間がいるんだっていうことがわかってきた。でも俺の美意識って、ここまでやります、最後までやりますっていうところからはじまっているんだ。基本的に俺は人に対して全面的に責任を負います、と言ってやってきた。でもそれはいろんな人と関わっていると特殊な考え方なんだとやっとわかってきた。」と話していた。
どんな人にも掛けてきた言葉「やるなら最後まで完璧にやれよ」
聴く側にすれば、逃げ場のない強烈なもので、途中で挫折したり、弱音を吐いてほしくない。完成させないでプロセスを評価してほしいなんて甘いんだよという鋭いメッセージだ。
小池さんの「方法論」が正しいか、正しくないか。例えば社会の中の組織において。それをここで取り上げたいということではなく、これがこの人の生き方だとまず、受け止めてみたいと思いながら聞いた。
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「異なるものの調和、共有の場をつくらないと。そう思いながらやってきたんだ。
パパ・タラフマラがもてはやされた時代は、80年代終わりから90年代だった。大きな記事にもされたし、海外にも一気に出ていった。経済は頂点に達し、その後バブルは崩壊。2000年に入ると一気に下降線を辿り、2005年の『Heart of GOLD~百年の孤独』をやった頃は、もはや時代は大きな物語を描くのではなく、小さなコミュニティに生きるような時代になった。俺の作る作品と時代が求めるものの間に乖離が生まれるようになっていた。
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俺のように日本も世界も関係なくやってきた人は、例えば単に日本でも海外でも公演をやるとか創作するとか言うことじゃなく、あらゆる意味での境界線を消していくような作業をする人はあまりいないと思う。それは唯一無二なのかもしれない。
だから一緒に創作するにはフレキシブルで頭が柔らかいことが条件なんだ。そしてお互いがお互いをリスペクトできる関係性。ところが公文書を破棄するような世の中になってしまった。世界が終るなんて思っていなかった『百年の孤独』の孤独を作った時代とは違い、俺には今、焦りがある。この社会をどうするのかという問題が明らかになってきたから。
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『W.D』は、2000年と2001年に掛けて制作した4部作で、20世紀を再検証し、21世紀への橋渡しとして制作した作品だった。第一部は第一次世界大戦まで、第二部は第二次世界大戦まで、第三部がそれ以降2000年まで。四部は21世紀を展望した。ここで描こうとした21世紀はその後見事にそのとおりの世界になった。もとから社会と芸術という観点、社会は芸術によって変えられるかという視点で作っていたけど、現代は俺の予感していた通りになりつつある。
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2003~2004年には『ストリート・オブ・クロコダイル1&2』を制作した。世の中の人々が行く先に対して不安を覚え、迷路に入り込んだ如くの状態になり、なんでも見えるものが“矢印”に見えてきて、それに従ってしまう人々を描いた。
“私”というものが保てない時代になった。不安が背中合わせに張り付いている恐怖の時代。もちろん今までもそういう時代だらけだったけれど、新たなフェーズに入り込み、次第に人間の手にあまるようになってきた。新たな知が求められ、価値観を変革が必須の時代になった。もはや“矢印”に従っているだけでは破滅が見え、強く“人間とはなにか?”が問われる時代になった。
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人間がね、未踏の地に冒険をしなくなったということは、精神の退廃なんです。いままでなかったものに向かって生きていければ、人間はいきいきとするんです。不安もあるけど楽しさも希望もあるものなんだ。私には“世界はどう動いていくのか”“私たちは世界とどんなかかわりがあるのか”が大きなテーマだった。長くそれが目に見えにくい状態だったが、今はクリアになって誰もがわかりやすい問題としてとらえられるようになってきた。それは私にとってはプラスに働く可能性があると思っている。つまり小池作品が今、とても“わかりやすく”なってきたということだから。
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マハーバーラタっていうのは、やはり今でないとできなかったと思うんだ。それは今までの積み重ねがあってこそだからねえ。何十年間も開拓し続けた、その結果だから。『WD』『百年の孤独』をやって来て、その広がりがあってこそ世界各国のパフォーマーやスタッフとの信頼関係が築け、そして作品となる。それがなかったら連中だって安心できないと思うんだよ。信頼だったり可能性だったりを広げることによって、みんな協力的になっていく。そしてやっぱり、いかに調和世界を築き、団結が図れるかが問われる時代に突入したってことなんだ。」
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インタビュー中、小池さんが長年制作を務めているスタッフに何度も呼びかけている姿があった。互いが、ひとつの身体の中の器官や組織のように呼応しているように見える。長い時間をかけてきた者同士にしか、わからないやりとりがそこにあるようだった。
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