スタンペディア社の機関紙「フィラテリストマガジン」39号が刊行され、「郵趣界重大ニュース」のトップにJPS(公益財団法人日本郵趣協会)の経営刷新が採り上げられていました。この点に関し、以下に私見を述べます。
記事によると、JPS創業者にして初代理事長である水原明窓氏の長男、落合宙一氏が理事を退任した由。
これは、役員候補として提案された落合氏を評議員会が不適任であるとして否認したことによるものか、はたまた本人の自己都合による退任なのかは判然としませんが、いずれにせよ過去15年に亘って私が指摘していた、公益財団法人としてのガバナンス/コンプライアンス上の懸念事項に関係していた人物が役員から外れたことは事実です。
今回の刷新は、会員組織であるJPSの経営正常化に向けた第一歩として、まずもって前向きに評価できることであるといえましょう。
そもそも郵趣団体としての公益法人であるJPSは、従来からわたくしが指摘しているように、会員ひとりひとりの会費拠出と有償ボランティア・ベースでの付加価値創造がなければ活動が成立しえない組織であることから、世襲とか家元制度のような血縁をベースにした経営が馴染むはずがありません。
以上から新たに選任された役員の皆様には、ぜひ頑張っていただきたいと、正会員のひとりとしてエールを贈ります。
私が指摘した上記の「懸念事項」というのは、主なものだけでも以下の3点があり、いずれも厳格な内部審査手続と詳細な説明がない限り、利益相反行為に関連する可能性が拭い切れない事項となります。
1.JPSのただ一人の業務執行理事(専務理事として事務局を統括)と、JPSが入居するビルを所有する株式会社郵趣会館のオーナー兼代表取締役が同一人物であるという事実があり、事務局スペースの賃貸借契約が理事会のチェックを受けることなく(少なくとも私が理事に就いている間は、一度も当該契約の是非について理事会で議論されたことはない)、思いのままに運用されかねない(とみられても致し方ない)状況が長年維持されてきたこと。
2.機関誌「郵趣」の編集はJPSのただ一人の業務執行理事がオーナー兼代表取締役を務める株式会社日本郵趣出版に随意契約で委託されています。この業務委託契約に関しても、これまで理事会のチェックを受けることなく(少なくとも私が理事についている間は、一度も当該契約の是非について理事会で議論されたことはない)、思いのままに運用されかねない(とみられても致し方ない)状況が長年維持されてきたこと。
3.機関誌「郵趣」は、定額の制作費をJPSから株式会社日本郵趣出版に支払うこととなるが、問題となるのは「郵趣」に掲載されている広告料。この広告料は日本郵趣出版が自由に決定し、広告収入を全額自社の売上とする仕組みときいており、JPSの機関誌でありながら、広告掲載に対しJPSは一切裁量権を持たないことが問題(結果として、広告の運用及び料金設定が不透明となっている)。その結果、例えば本来もっとも高額な広告料が発生するはずの1ページ全面広告に、特定企業の安価な切手の販売広告が掲載され続ける、といった合理性を欠く事態が生じている。公益財団法人は、そもそも郵趣界はもとより社会全体の利益のために存在するにもかかわらず、特定企業を優遇する運用は会員延いては世間の理解を得られ難いものと思われる。
これらは、上場企業の場合、関連当事者取引といって、不要な取引を強要されたり取引条件がゆがめられたりする懸念があり、株主の本来利益の流出などの観点から注意する必要性が高い取引といえるため、当該取引の事業上の合理性(事業上の必要性)やその条件の妥当性などが担保されることが求められており、事実上の「禁じ手」とされています(例外を認める場合には極めて厳格な手続きを要する)。株主のいない公益財団法人だから構わない、ということにはならないのです。
さて、今回の人事刷新によりどの程度、JPSのガバナンス体制が改善されるのかは未だ詳細情報がないため判断できませんが、JPSはこれを契機に公益財団法人にふさわしいガバナンス/コンプライアンスの体制を再構築してくれるものと期待します。
正会員のひとりとして、誰の目にも明らかであろう具体策を1つ提案するとすれば、会員数の減少に歯止めがかからない中にあって、単年度収支の改善(すなわち支出の削減)が急務であることは論を俟たないため、まずは会費収入減少にも耐えられるよう、株式会社郵趣会館との次期賃貸借契約の更新は控えるべきでしょう。
現在の豪奢なオフィスから賃料の安い物件に事務局を移転させ、JAPEXなどの公益事業の充実や地方イベントの拡充等に振り向ける財源を確保しつつ、将来の会員数が5千人→4千人→3千人と減少していった場合でも組織が持続可能であるよう、手を打つことが肝要です。目白駅至近の現オフィスはたしかに快適ですが、持続可能性を犠牲にしてまで入居し続けるべき物件ではありません。他に安くて十分なスペックを持つオフィスはいくらでもあるのです。
理事会が契約締結を事務局任せにせず、目白移転後の今日までの賃貸借契約の推移をしっかり検証し、今後のあり方を真剣に検討するならば、自ずとそうした結論に辿り着くものと推定します。
というわけで今後は、時計の針を逆回しすることなく改革を進め、透明性の高い経営を行って、会員から集めた浄財を適切に活用していただきたいものです。山田廉一理事長の強力なリーダーシップと、理事各位の強い当事者意識に裏付けられた行動に期待しております。