おすすめ映画『キル・ボクスン』

2023年[韓国]

殺し屋組織でナンバーワンの腕を持つ女殺し屋の物語。
思春期の子どもがいるという設定で、抱える問題もわかりやすく、とても見やすい構成です。

殺し屋ビジネスが世界的に成立している世界。
業界にもヒエラルキーがあり、ボクスンが他の殺し屋から崇拝されているのが面白いですね。
こうしたシーンを作ることで、馴染みのないファンタジーやSFなどの異世界設定にしても、その人物がいかにすごいのかをさりげなく説明できます。

そして、一番驚いたのはアクションシーン。
ボクスンと暗殺組織のトップであるミンギュとの戦いは、イメージ残像を見せることで、最高峰の殺し屋同士の戦いを見せつけてくれます。
将棋のように戦う前から何手先も読んでイメージしているのがよくわかる演出ですね。

表現はいろいろですが、テーマは家族愛。
娘を持つ母親としての葛藤がよくわかり、しかも母親は殺し屋であるという、この設定のギャップが、ボクスンならではのセリフも引き出しています。
重要なのは「ならでは」なのです。

おすすめ映画『存在のない子供たち』
2018年[レバノン]


シリア内戦を逃れた両親のもとに生まれたゼイン少年の生き様を描いた物語。

ストーリーは単純な構成ですが、社会情勢や最低な大人たちといったゼインを取り巻く環境が絶望的で、救いがなく、それが余計にゼインのセリフを光らせています。
ゼインはひょんなことから出会ったヨナスという幼児と行動を共にするわけですが、小さな子どもがさらに小さな子どもを育てようと頑張る姿はとても健気。

子どもながらの優しさや男としての責任感も見えるのですが、環境が環境なだけに悲しくもなります…。

内戦、難民、人身売買、不法就労…といった中東ならではの社会情勢に翻弄されるゼイン。
今の世界で起きているリアルな問題を突きつけられるのです。

個人的に、子どもが主人公の作品はつらくなるのですが、頑張って観ました。
以前書いた脚本で「親心子知らず」にかけて「親になると子の心忘れる」というセリフを書いたことがありますが、ゼインの「世話できないなら産むな」が強烈すぎて、とても恥ずかしくなりました…。

おすすめ映画『冷たい熱帯魚』

2010年[日本]

園子温監督のスリラー映画。
これでもかというぐらいの狂気を見せつける作品です。
でんでんさんを見るのが嫌になった人も多いのでは?
それだけ強烈なキャラを演じられていました。

圧倒的な力を前にした人間が、意地や誇りに関係なく、精神がへし折れていく様がリアルに描かれています。
エンタメ作品では逃げがちになるというか、表現できない尖った内容をぶっ込んできているのが、本当に潔く、うまいなぁと思います。
園子温監督は、性的な表現も多いですが、深い表現から逃げずに、動物の本質をぶつけてきます。

もちろん何でもオープンにすれば良いというものではないのでこの辺の距離感は本当に難しいです。基準がないので。
企画全体のコンセプト、作品のテーマやターゲット層など、プロデュース側のブレない姿勢がとても重要ですね。
成立させたプロデューサーの苦労をお察します。

グロ系の映画ではありますが、それぞれのキャラクターに自分が何を感じたのか。
それを自覚しながら観ると、自分の隠された狂気が発見できるかもしれません。

おすすめ映画『殺人鬼から逃げる夜』

2021年[韓国]

タイトル通りのスリラー映画。
とても見やすいストーリーなのがいいですね。
まずは主人公のギョンミと母親の耳が聞こえないという設定。
健常者と違う生活を見せることで、事件に巻き込まれたときのハラハラ感を煽れます。

また、連続殺人犯がとにかく悪く、とにかく強い!
勧善懲悪なのが見やすさに拍車をかけています。
ここに犯人の人間ドラマを入れる手もありますが、あまりやり過ぎると善悪がブレてしまいます。
こうすることで、もうギョンミを100%応援するしかなくなるわけです。

さらにすべてが犯人側へ有利になる展開。
イライラ感はかなり増しますが、これもギョンミを応援させるための誘導と言えましょう。
とはいえ、警察は呑気で役立たず、繁華街にいた一般人もアホすぎる…。

ギョンミの性格がとてもポジティブなのが魅力的ですね。
母親思いで、ハンデなど気にしていない、被害者を見捨てない優しさ。
もうすべての要素が「ギョンミ頑張れ!」に繋がるわけです。
 

おすすめ映画『怪物』

2023年[日本]

坂元裕二さんがカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した是枝裕和監督の作品。
賞を獲ったことは置いといて、とても素晴らしい脚本でした。
それぞれの登場人物がかかえる問題と、その葛藤が浮き彫りになって、それがとても現代っぽくて…。
現代社会を風刺しているような内容で、今、観るべき映画なのではないでしょうか。
それぞれの視点で物語が描かれており、それぞれの伏線が次々と回収される構成もぎこちなさや違和感がなく素晴らしいです。

そして名優たちが勢揃い。
本当にそこで生きているかのような自然な画でした。
安藤サクラさんが、息子のいる教室に入り、外廊下のドアが開いていたときのリアクション…凄すぎます。
最高のセリフと名優のコラボレーションは必見。
その中でも田中裕子さんは別格だった印象です。
ミナトへ語りかけるセリフが優しさも絶望感もあり、完全に心を掴まれてしまいました。

少年たちの描写は儚く美しく悲しく、とても印象的でした。
大人も弱いですが、彼らはもっと弱い…。
明るいお話ではありませんが、誰の心にも「怪物」はいることを実感させられる映画です。

おすすめ映画『タイム』
2011年[アメリカ]


近未来を描いたSFスリラー映画。
とにかく設定が最強です!!
ここまで明確な設定だと、細かい部分をクドクドと説明する必要がありません。
「タイムイズマネー」は全世界共通なので。
イメージしやすい世界は、これからどんなドラマが繰り広げられるのか、観る前から期待が膨らみますね。

時間が通貨となった世界で、主人公・ウィルの生き様が描かれるわけですが、この設定ならではのエピソードばかり。
時間を貯めたり、奪ったり……。
この「ならでは」が本当に重要なんです。
ならではの行動、ならではのセリフ。
人間ドラマ自体は単純でも、完璧な設定のおかげで、今までになかった新しい映画へと変貌します。

母親が寸前で亡くなってしまうシーンは予告でも使われていましたが、とても悲しく、印象的ですね。
大半の人間がほしいであろう「時間」。
いつかこんな世界が来るかもしれないと思わせる映画です。

おすすめ映画『息もできない』
2008年[韓国]


取り立て屋の暴力男・サンフンの物語。
そんなサンフンがある時、女子高生のヨニと出会います。
普通だったら関わりたくないチンピラに女子高生が突っかかっていくシーンは面白いですね。
脚本上、出会い方はとても大事です。
キャラクターをちゃんと表せて強烈なものが望ましいです。

それから、お互いに家庭環境が最悪なこともあって、サンフンとヨニは共感し、交流が生まれます。
この愛情とも友情ともつかない人間愛的なバランスがとても良いですね。
互いが素直でないキャラなのがまた良し。
不器用な人間たちが必死にもがき生きる姿は、どこか自分に重ねてしまいます。
刺さるセリフの応酬です。

クライマックスはタイトルどおり、とても息苦しくなります。
人間の本質、凶暴性、寂しさ、承認欲求などを突き詰めた作品であるような気がします。
思考を深く考えたい方には特に観ていただきたい映画です。

おすすめ映画『スラムドック$ミリオネア』
2008年[イギリス]


インドが舞台。
クイズ番組に出演した青年・ジャマールの物語です。

今まで観たことがなかった構成にホント驚かされました。
単なる貧しい青年が大金持ちになるというストーリーでなく、インド社会の現実が見えるという内容がまたいいですね。

エンタメ要素もありつつ、社会へ訴える作品をつくる場合、特にテーマがブレてはいけません。
物語を書き進めているうちにアイデアが出てしまい、「こっちの方が面白いかも」とブレがち。
もちろん推敲を重ねることは良いことですが、物語のテーマを忘れるとどっちつかずの展開になり、伝わるものも伝わらなくなってしまうのです。

劇中では、2000万ルピーに王手をかけたジャマールがイカサマだと警察に疑われてしまいますが、
純粋な青年が追い詰められると視聴者は庇いたくなります。
ジャマールの人生を見せることで、「この子に幸せになってほしい」「クイズに正解して大金を手にしてほしい」となるわけです。
そうなれば、彼の身に起きたことが偶然であっても、視聴者はその理由に納得し、必然と捉えるのです。
 

おすすめ映画『アンブレイカブル』
2000年[アメリカ]


M・ナイト・シャマラン監督のサスペンス映画。
大事故でもかすり傷一つない男・デヴィッドと、些細なことで骨折してしまう難病を持つイライジャの設定は、本当に面白いですね。

よくもまぁ考えつくなぁと、いつもシャマラン映画を観て感心しています。

この対極にある二人の「生きる」ことへの価値観が、それぞれの人間ドラマを生みます。
特にイライジャの執念は凄まじいです。
「なぜ自分だけこんな境遇なんだ?」という気持ちは、視聴者の気持ちを代弁しているかのようですね。
世の中の誰でも思ったことがあるのではないでしょうか。

そしてシャマランお得意のどんでん返し。
オチを知ったときはゾッとしましたが、それまでのイライジャを考えると納得できてしまいますね。

突飛な設定でも納得させることがポイント。
もちろん価値観も千差万別なので、視聴者全員というわけにはいきませんが、なるべく多くの人が「んなアホな!」と思わないように構成と人間関係を組み立てます。
ここはとにかく客観視。
自分の視点だけではどうしても限界があるので、脚本の制作過程で色々な人に読んでもらい、その視点を取り入れることが重要です。

おすすめ映画『アウトブレイク』
1995年[アメリカ]


ダスティン・ホフマン主演のパニック映画。
コロナが流行ったとき、この映画をまず思い出しました。
未知なるウイルス…見えない恐怖。
今観ると、リアリティーが倍増する内容ですね。

敵が何者かはっきり姿がわからないというところは、パニックを煽る効果が大きいです。
しかも、主人公たちの忠告にもかかわらず上層部が軽視し、その結果、蔓延してしまう人為的なミスを入れることで、絶望感も煽ることができます。
さらに、変異株が出現し、あてにしていた血清も効かない…。
この畳みかけるように、主人公に壁を与えることで、どうなってしまうのかとハラハラさせる効果があります。

そして、クライマックス前にメインの人物の一人が感染してしまうという悲劇。
主人公はどうしても何とかしなければならない、でも、どうにもならないという状況に陥ります。
こうなれば、たとえ解決策が奇跡で見つかったとしても、なんとかなってしまうんですね。
極端に煽って、その反動を使って問題解決するワザです。

全体に人間のエゴなどもドラマに絡めていて、人間vsウイルスだけでなく、人間vs人間の葛藤もあり、ハラハラドキドキできる映画です。