◎「伊吹山」の神の祟り
「伊吹山」の神を侮ったかどで、ヤマトタケルは物凄い氷雨に悩まされます。峰には霧が立ち込め、谷は暗く、途絶えた道を探す方法も無い…。霧の中をさまよった挙げ句、強行突破してやっと山を降りる道を発見した…と紀にあります。
「伊吹山」の神は、
*記 … 牛のように大きい猪
*紀 … 大蛇
「源平盛衰記」には、この大蛇というのは胆吹大明神(イブキダイミョウジン)の法躰(ほったい)であるとのこと。スサノオが八岐大蛇を退治して得た剣をアマテラスに献上すると、大神は大変喜び、これは自分が天岩戸に閉じ籠った時、近江国の胆吹岳に落ちた剣に間違いない、…といった話を載せているようです。
紀によれば、その剣はヤマトタケルが持っていた草薙剣。「源平盛衰記」の記事もそうしたことを踏まえてのものと見られなくはない…としています。
◎剣と蛇
━━「伊吹山」の神は、スサノオに退治された八岐大蛇が転生し神となったもの。その子孫は
代々「伊吹山」の司祭者となった。弥三郎はその一人。鉄のような丈夫な身体と怪力を有し、容姿も美しかったという。
ところが酒好きで常に泥酔。「伊吹山」で野生の獣を生肉のまま食べ、無くなると人里に降りては家畜や商人を襲い奪い取っていたもよう。人々は弥三郎を鬼として恐れた。
大野木殿(オオノギ)という豪族の娘を妻とし、間もなく身籠る。恐れた大野木殿は先ず、弥三郎を豪勢に夜通しもてなし、暴飲暴食をさせて殺した。
そして33ヶ月も胎内に留まり生まれた子は、玉のような美しい子であった。ところが成長すると父の弥三郎のように怪力で狂暴になっていく。酒呑童子とも呼ばれる。大野木殿は殺そうとするが、母はこっそり「伊吹山」に捨て置いた。
子は「伊吹山」で逞しく成長するも、やがて鬼を従え乱暴狼藉をはたらくようになる。遂に「伊吹山」を追放され、酒呑童子として山々を転々。最後に「大江山」に行き着いた━━
資料により内容は大きく異なります。いくつかのソースより少々強引にまとめたものとご理解下さいませ。
なお資料により伊吹弥三郎は暴飲暴食で亡くなったのではなく、脇から刀で刺され亡くなったというものも。
さて本題に戻ります。
「伊吹山」(近江国側から)
伊吹弥三郎伝説は資料により大きく異なるとしました。中には弥三郎の身体が鉄のように丈夫というのではなく、全身を鉄で覆っていたというものも。「脇から刀で刺され…」というのはこの類いのもの。
「伊吹山」の近江側の麓、「伊吹村金山」(現在の米原市伊吹の中のどこかは不明)付近には、露天掘りの岩鉄を採掘した跡があり、鉄滓やふいごの火口等を伴う古墳時代の製鉄所跡も発見されているとのこと。また伊吹神社(伊夫岐神社のことか)も祀られているとしています。
つまり「伊吹山」が、古代の金属製錬に従事していた伊福部氏の尊崇する山であり、そこに伊福部の神である雷=蛇神が祀られていたいうことに。猛風を与えてくれる「伊吹山」を伊福部氏は崇めていたとしています。
*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。