メグレ警視
そろそろ本題に戻らないと依頼者がなくなってしまうのでは,という売れない探偵事務所のバカ室長(ワタシのこと)の不安(ファンではない)から,シムノンの産み出したメグレ警視について書こうと思う。ワタシの兄(6つ上)は早くからシャーロック・ホームズの(つまりドイルの)熱狂的ファンで,先ごろ逢う機会があったとき聞いてみると「シムノンはやりきれない話ばかりで好きになれない」とのことだった。スリルとサスペンスそして帰納的推理の典型シャーロック・ホームズと,演繹的推理のポアロ,推理というよりは社会派のシムノン。好みはさまざまだろう。同じベルギー人(メグレ警視はフランス人になっているが,シムノンはベルギー人,ポアロはベルギー人という設定)でありながら,アガサ・クリスティは推理のみに集中して決して人間の弱さ,醜さには深く切り込まない。一方でメグレ物は殆どやりきれないような犯罪者ばかり出てくる。なぜか。シムノンの場合,答えは本の外にある。フェリーニとの書簡で彼は概そ次のように言っている:「私のことを既成宗教(カトリックのこと:室長注)の信者だと思っている人がいるようだが,それは違う。私の宗教はそれより上の本源にある。」
とはいえ,カトリック信者であるため子沢山になってしまった,という設定や料理好きの奥さんを愛しているところなど,メグレ警視シリーズにもほのぼのとした面は数多い。
現在,フランスで放映されたメグレ警視シリーズDVDの全巻(10ボックスある)を買おうかどうか悩んでいる。うちの奥さんはおそらく許してくれそうにないから。
答えを出したくない映画
優れた映画や文学では決して100%の真実を描かない。答えは出さない。真実や答えは必ず読者(観客)の側にあるはずだから。多くの戦争映画があり,「フル・メタルジャケット」や「地獄の黙示録」のようにそれぞれ意義深いものも多いが,私にとって上記の理由から最も恐ろしい映画はドキュメンタリである。フィクションと限定すれば,最も恐ろしいのは「西部戦線異状なし」の爆弾がこちらに向かって飛んでくる場面であった。映画中でもそうだが殆どの新兵はシェル・ショック(一時的な神経症,ヒステリー状態)になったという。後日ひょんなことから同様のことがわが身に起こった。あの音と息づまる瞬間は今でも悪夢に見る。そしてその後でもっと怖いことを言われたのだ。「近づいてくる音が聞こえた,ということはお前が今生きているということと同じだ」。ダルトン・トランボの「ジョニーは戦場に行った」には最初の数分間この恐ろしい第一次世界大戦のドキュメンタリが挿入されている。
クレジット(2)
実はこの人の名前を是非思い出してもらいたかったのです。エミリオ・フェルナンデス。え?覚えていない?多くの西部劇で,例えばワイルド・バンチ(マパッチ将軍),同じくペキンパーのガルシアの首(首を取って来い,と命ずる大物ボス)など日本式に言えば「悪代官」にあたる役をこなしていた俳優。いかにもと言う体つき,顔つきからは想像しにくいのですが,メキシコの有名な監督・脚本家でもありました。ペキンパーの親友でした。代表作はスタインベックの「真珠」を映画化した同名の映画。ワタシはアンソニー・クインと共にメキシコ映画人の代表だと思っています。ペキンパーがGet awayで逃亡先をメキシコにした理由はコレです。