武田麟太郎の小説『釜ヶ崎』。

『井原西鶴』もそうだが『釜ヶ崎』

は、彼の生い立ちをなぞって小説

にしているようだ。

 

大阪の釜ヶ崎

釜ヶ崎は飛田新地の西隣にあり、

「愛隣地区」とも呼ばれ、ときの

移り変わりと共に街の景色は変わ

ってゆく。

かつて、この街で大正7年に米騒

動があり、その30年後昭和36年

8月に西成騒動が起こった。

 

 

令和元年ここは冷たいわ!(釜ヶ崎)

 

武田麟太郎と米騒動

武田麟太郎は明治37(1904)年

大阪市南区日本橋で長男として誕

生。父は警察官で転勤が多く、麟

太郎はそのごとに転校する。

大正6(1917)年3月大阪府東

成郡安立町(現大阪市住之江区安

立町)の安立小学校尋常科を卒業

し、同年4月大阪府立今宮中学校

に入学する。

 

米騒動(1918年)

麟太郎が今宮中学校入学の翌年に

起こった米騒動は、大正7(191

8)年7月に山県の漁村の主婦ら

が米の廉売を訴え全国に広まった。

同年8月12日大阪の安立町、釜ヶ

崎、広田町、日本橋周辺でも米騒

動が始まった。

13日夜、大阪では数十万の市民が

街にあふれ、これを制止するため

に武装した軍人が出た。

大阪府、大阪市は、米の廉売事業、

恩賜米の配給などをはじめる。こ

のとき麟太郎は米騒動を見聞する。

 

 

大正7年8月12日安立町米騒動(米騒動後の安立町の様子)

 

武田麟太郎と村上吉五郎(釜ヶ崎)

鱗太郎の父・武田佐二郎(警察官)

は警察官で転勤することになり、

麟太郎を4月から3ヵ月、村上吉五

郎巡査に預ける。

好学の村上巡査は、麟太郎の友だ

ちの藤沢桓夫の父・藤沢黄坡の竹

屋町の漢学塾「柏園書院」に通い、

自ら釜ヶ崎派出所に志願し、10年

勤務した名物巡査であった。

釜ヶ崎へ逃げ込んだ犯罪者は捕まら

ないといわれ、路上は狭く、裏通り

では、喧嘩が絶えず、そこへ村上巡

査が駆けつけ、「お前ら、ええ加減

にやめたらどうかね」とおだやかに

なだめていた。

 

小説「釜ヶ崎」

武田麟太郎は、小説「釜ヶ崎」の末

尾に記す。

現在の釜ヶ崎密集地域も明治35年

頃までは、わずかに紀州街道に沿う

て、旅人相手の8軒長屋が存在した

るに過ぎない。

その後、東区の野田某氏が始めて、

労働者向きの低廉なる住宅を建設し

て、百軒足らずの一寒村に過ぎなか

った。

以後大阪市の発展に伴なひて下寺町

広田町方面に巣食っていた細民は次

第に追ひ出されて南下し、安住の地

を求め、期せずして、集団したるが、

現在の釜ヶ崎にして、そこに純長町

細民部落を形成するに至り、下級労

働者、無頼の徒、無職者は激増し、

街道筋に存在する木賃宿は、各地よ

り集まる各種の行商人遊芸人等の巣

窟となり、付近一帯の住民に甚だし

い悪影響を与えつつある。

児童の大半は就学せず、すでに就学

せるものも、三四年の課程を終えれ

ば登校せず、金銭を賭して遊ぶ子供

を所々に見受ける。

下水の施設なく不潔なること言語を

絶するものがある。上水の施設もな

いところ多く、井戸水を使用してい

る。と、云々。(昭和8年3月)

 

日本プロレタリア作家同盟

と「釜ヶ崎」

日本プロレタリア作家同盟は麟太郎

「釜ヶ崎」他二編を挙げ、「右翼

傾向との闘争に関する決議」を発

表し、「創作における右翼的危険」

と批判する。その決議文の掲載され

た「プロレタリア文学」4.5月合併

号に麟太郎は小林多喜二への追悼文

「告別」を書く。

 

武田麟太郎「釜ヶ崎」

昭和8(1933)年(29歳)のとき

中央公論3月号に発表した「釜ヶ崎」

は、彼の代表作となる。

堺の父の官舎にいた武田麟太郎は、

大学時代の友人の藤沢桓夫、古藤

敏夫(大阪市庁)を釜ヶ崎に案内

する。

随所に露地があり、迷路のなかへ

はいりこんでいく感じで、軒灯の

ついている家など一軒もなく、不

気味さをさそった。そのうち、は

じめ一人がいつか三四人に増え、

薄気味悪い状態になり、表通りへ

出て行った。

武田麟太郎の「釜ヶ崎」のなかに、

自分を女だと思い込んでいる男娼

が登場し、「胃袋でも子供を産ん

でみせる」というセリフがあった

と記憶し、藤沢桓夫はどうやらひ

そかにあの界隈を武田麟太郎が訪

れていたようだと語る。

 

 

 

 

 

「好色一代男・三都物語」(男と女の物語)

2023.4.15

江戸吉原(三都物語①)ー男と女の物語(391)

2023.4.16

京都島原(三都物語②)ー男と女の物語(392)

2023.4.17

大阪新町(三都物語③)ー男と女の物語(393)

2024.2.11

Enjoy街有記「東高津宮」三都物語(119)

2024.2.12

光る君へ➅「ライバル」男と女の物語(600)

2024.2.13

Enjoy街有記「井原西鶴(誓願寺)」三都物語(120)

2024.2.14

Enjoy街有記(甦るわが街「東平北公園」薄田泣菫)三都物語(121)

2024.2.15

Enjoy懐徳堂「中井甃庵・竹山・履軒(誓願寺)」三都物語(122)

2024.2.16

Enjoy「井原西鶴(武田鱗太郎)」男と女の物語(601)