個体数が少なければ、オスとメスの出会いの機会が減り、また出会っても遺伝的に近いから近親交配になりやすく、やがてその個体の属する種は絶滅する。その閾値は、3桁前後と考えられる。


ネアンデルタール人は遺伝的多様性を失い絶滅​

 ちなみに私たち人類でも、かつて現生人類ホモ・サピエンスと共存していたネアンデルタール人が絶滅したのは、個体数の減少による近親交配が増え、遺伝的多様性がなくなったから、と考えられている(22年10月27日付日記:「シベリア2洞窟出土のネアンデルタール人13個体の血縁関係、1組は父・娘の関係」、及び13年12月29日付日記:「最古のミトコンドリアDNAの示した予想外の結果とネアンデルタール人ゲノム解析で分かった仰天の事実」を参照)。

 さてこのほどアメリカの科学誌「Genome Biology and Evolution」24年8月号にオンライン発表された大阪医薬大の橋口康之准教授らのグルーブの報告は、その定説にいささか訂正を加える必要性のある事実だった。


3万年前から1000個体ほどで生存し続けた​

​​ 西南日本の太平洋側、主に宮崎県・高知県の沿岸だけに分布し、河口などの汽水域にもまれに侵入する大型の稀少魚類にアカメという魚がいる(分布図幼魚の写真)。​​

 

 

​ 名前のように目が赤く、成魚では1メートルを超える。レッドリスト(絶滅危惧種)に登録されるが、釣りや定置網などで漁獲されて食用にもなる。身はスズキに近い白身で、刺身や塩焼きなどで食べられる。大型肉食魚だけに、釣り人からは「幻の怪魚」と呼ばれている(写真)。​

 

 さてこのアカメ、レッドリストに登録されるだけに個体数は少ない。

 橋口氏らの全ゲノム解析の結果、実際に繁殖に関わる有効集団サイズは3万年前から現在にまで、約1000個体前後のきわめて低い数値で推移していたことが分かった。

​ 当然ながら遺伝的多様性は、他の動物と比べても極めて低い()。​

 


免疫系だけは高い遺伝的多様性が保たれる​

 それなのになぜ絶滅せず、今日まで生息できたのか。調べると、免疫などに関わる一部の遺伝子に高い多様性が保たれていることが明らかになった。このため、病原体などへの抵抗性を維持でき、少ない個体数でも長期間、種の存続ができたようだ。

 なぜアカメが、免疫系だけに遺伝的多様性を保持できたのかは分からない。おそらく希有な突然変異の積み重なりで獲得できたのだろう。

 ネアンデルタール人にもこのシステムが備わっていれば、今日まで生息できたかもしれない、と残念に思う。現生人類でも、大航海以来、各地の先住民がヨーロッパ人の持ち込んだ疾病で絶滅しているが、その危険性を免れたかもしれないのだ。


昨年の今日の日記:「ウクライナからナゴルノカラバフ、そしてコソボ・セルビアへ、戦争の輪廻展開」