我々、非アフリカ系の現代人のゲノムに1~3%だけだがネアンデルタール人遺伝子が混じっていることが分かっている。アフリカ人にはないので、現生人類=ホモ・サピエンスが出アフリカしてユーラシアに拡散していく前の6万~5万年前に、入口の中東でそこにいたネアンデルタール人と交雑したと考えられていた(14年11月6日付日記:「現生人類とネアンデルタール人の混血は従来観より新しく6万~5万年前に起こった」を参照)。


ヨーロッパでも起こっていたネアンデルタール人との交雑
 しかしネアンデルタール人との交雑は、実は新たに進出したヨーロッパでも起こっていたことが、最新の研究で分かった。その時、ネアンデルタール人はほとんど絶滅寸前だったので、孤絶していたネアンデルタール人小集団を、進出し、人口を増やしつつあった我々現生人類の祖先は襲ったのかもしれない。
 最近の考古学的研究で、ヨーロッパの先住民ネアンデルタール人は、3万9000~4万1000年前に絶滅したことが判明している(14年9月1日付日記:「最後のネアンデルタールの絶滅年代は4万年前;従来観を1.2万年も古く改定」を参照)が、その直前に侵入者の現生人類は、従来の想定と異なり、ヨーロッパでも先住ネアンデルタール人と混血していたのだ。


直前に最後のネアンデルタール人がいた
 発表したのは、ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所などの研究グループで、その研究成果は、最新のイギリス科学週刊誌『ネイチャー』8月13日号に報告された。
 研究グループが用いたのは、2002~03年に西南ルーマニアの「ペシュテラ・ク・ワセ(「骨のある洞窟」の意)=下の写真の上」で、ホラアナグマの骨と共に発見された初期現生人類の男性下顎骨(ワセ1号=下の写真の下=放射性炭素年代で約3万7000~4万2000年前)だ。


ペシュテラ・ク・ワセ

ワセ1号

 この男性下顎骨からDNAを抽出した結果、ワセ1号個体のゲノムはネアンデルタール人から6~9%も由来していることが分かったという。この値は、ユーラシア由来の現代人のゲノムに含まれるネアンデルタール人由来の1~3%という値よりかなり高い。


4~6世代前にネアンデルタール人
 またこのゲノムに含まれるネアンデルタール人に由来する3つの染色体部分は、サイズで50センチモルガンを越えていた。この大きさから、報告者たちは、この男性の4~6世代前の祖先にネアンデルタール人が1人いた、と結論付けた。
 つまり絶滅しつつあった最後のネアンデルタール人の1人が、現ルーマニアに進出していた現生人類と交雑し、その遺伝子が4~6世代後のワセ1号に伝えられたことになる。
 この新事実は、現生人類とネアンデルタール人の交雑がアフリカからやって来た現生人類がユーラシア大陸入口の中東に限定されず、ヨーロッパでも起こっていたことを示した。


現生ヨーロッパ人に伝わらず、ワセ1号の系統は絶滅か
 ただ、ワセ1号個体は、現代東アジア人集団と比べても後のヨーロッパ人集団より多くの対立遺伝子を共有しているわけではないので、彼の属した集団は、その後のヨーロッパ人に対して遺伝的にさほど寄与しなかったようだ。
 つまり早期にヨーロッパに移住してネアンデルタール人と交雑しながらも、ワセ1号の系統はその後に途絶え、現代まで遺伝子は残さなかったことになる。
 最新のこの研究成果を見ると、絶滅しつつあった最後のネアンデルタール人は、想像以上に現生人類に圧迫されていたようだ。


昨年の今日の日記:「ポーランド紀行:ワルシャワからクラクフへバス移動」