自作の小説「見えない羊」です。![]()
映画「箱の中の羊」の設定をお借りして、
ミリしら妄想で好きな話を書いています。
映画から参考にしている設定はこちら↓
息子7才のヒューマノイドを夫婦が引き取る話。
夫=工務店の社長。
妻=建築士。
前話 はこちらです↓
この話は、今日で最終話です。
(明日から、また「百輪女子高DAYS」に戻ります。)
では、どうぞ。
見えない羊(7)
それから、オレたちは、3人で出かけることが増えた。
土日に近所を散歩したり、スーパーに寄ったり、
子ども向けの映画を観に行ったり。
夫婦二人では、なんとなく足が遠のいていた
動物園や水族館、遊園地にも行った。
息子のユウキは、ペンギンを見るたびに、
毎回同じところで笑った。
妻のショウコは、そんなユウキを見て、
前よりよく笑うようになった。
ある晩――
ユウキを真ん中にして、三人で並んで横になった。
そして、息子のユウキに絵本を読んでやる。
それは、『星の王子様』。
オレが読み進めると、途中で、
箱に入っている羊のエピソードが出てきた。
すると、ユウキが尋ねてきた。
「箱の絵なのに、どうして羊が入ってるってわかるの?」
オレは読むのを中断して、首をひねる。
「さあなあ。オレには見えないなあ」
「私も。子どもの時も、そう思ってたわ」と妻。
「この王子だけ、特別なんじゃないかな?
ユウキは見えるか?」
「ううん」
3人で挿絵の箱の絵をしばらく眺めた。
オレは、ふと思いついたことを言った。
「オレはさ。
正直、人の中身とか、よくわかんねえんだよ」
ふたりが、オレの方を見る。
「ショウコのことも、ユウキのこともさ。
見えてるの、外側ばっかりだ。でもさ・・・」
オレは、箱の挿絵を指でつついた。
「この箱ごと、大事にしたいって思ってる」
ショウコはプッと吹き出して、
「あー、歯が浮いた~」と笑いだした。
「なんだよ、マジで言ったのに」つられてオレも笑った。
ユウキはふふっと笑ってから、
「なんか、眠くなってきたよ」とそっと目をつぶった。
「お、じゃあ寝るか」
「消すよ。おやすみー」
妻がベッドサイドの電気を消した。
横で目をつぶるユウキの髪から、
妻と同じシャンプーの匂いがした。
それから、3年経った。
終わりは早かった。
たったの3年で、
ユウキが、遠くへ行ってしまった。
ある朝、突然、
ユウキの体は動かなくなった。
何度呼んでも、
返事は返ってこなかった。
ユウキの記憶媒体に、初期不良があったらしい。
保存データも回復できなかった。
会社は、
記憶量の多い、新しいモデルへの交換を提案してきた。
けれど、オレたちは、
もう別の子を迎える気にはなれなかった。
妻のショウコは、三人で写っている写真をながめていた。
オレはなんと声をかけていいか、わからなかった。
妻は、そっと、写真立てを棚の上に置いた。
「なんで私がユウキを家に呼んだか、わかる?」
「え?いいや」
「あなたと2人で、あのまま年を取るのが怖かったの。
家が静かすぎて・・・・」
「そうか」
「ユウキのおかげで、私たち、いっぱい笑ったね」
「うん」
オレは、妻の横に並んだ。
その肩がそっとこちらに触れてくる。
「ねえ。目を閉じると、ユウキの笑い声が聞こえない?」
「そうだな」
言われてオレは、目をつぶった。
ユウキがオレたちを呼ぶ声がする。
球場で、家族三人でメガホンを振り回したことも。
一緒に庭へ球根を植えたことも。
近所の犬に吠えられて、びっくりしてたことも。
グローブのプレゼントに、くったくなく笑う顔も。
――オレは今なら、箱の中の羊がわかる。
(了)