自作の小説「見えない羊」です。羊

 

 

映画「箱の中の羊」の設定をお借りして、

ミリしら妄想で好きな話を書いています。

 

映画から参考にしている設定はこちら↓

息子7才のヒューマノイドを夫婦が引き取る話。

夫=工務店の社長。

妻=建築士。

 

 

前話 はこちらです↓

見えない羊(1)

見えない羊(2)

見えない羊(3)

見えない羊(4)

 

では、どうぞ。

 

見えない羊(5)

 

 

翌日、出張を終えて帰宅すると、

ユウキが一人で、台所で夕ご飯を作っていた。

 

「お父さん、お帰りなさい」

「おお、すごいな。カレー作れるんだ」

 

「えへへ。でも7才だから、すごいのは作れないよ」

「いやいや、オレが7才の時は、包丁も使ったことないよ。

 ところで、ショウコは?」

 

「今、お部屋で寝てるよ」

「え?こんな時間に?寝込むタイプじゃないのにな」

 

寝室に向かう途中で、ショウコの仕事部屋を通りかかる。

そこで、ぎょっとした。

 

ショウコの命よりも大事な製図用紙がぐしゃりと曲がって、

ゴミ箱に突き刺さっている。

 

しかも、そこには、茶色のシミが大きく広がっていた。

 

「ユウキ、これ。・・・何があった?」

ゴミ箱から拾い上げた製図を、鍋をかき回すユウキに見せた。

 

「あ、それ?」

ユウキは、ガスレンジの火を消して、言った。

 

「僕、お母さんに、コーヒーを持っていったんだ。

 その時に、『いらない』ってカップを弾かれて、

 デスクの紙の上にこぼれちゃったの。

 

 お母さんが、

 『どうしてくれるの』って大声を出すから、

 僕、思い出しながら、

 別の紙に全部修復したんだよ。

 

 そしたら、

 『ああ、助かった・・・』

 って、その場に座り込んじゃって。

 

 『ご飯、作れそうにないから、

 何かお願いしてもいい?』

 って言うから、僕、カレーを作ったんだ」

 

オレは思わず、ユウキを抱きしめた。

 

「・・・。そうか。ユウキ、色々すまなかったな」

「ううん。出来ることをしただけだよ」

 

オレは大きく息を吐いて、ユウキから体を離した。

 

「なんかさあ。最近のショウコ、変なんだよな」

「変?」

「怒ってるわけでもないんだけどさ。
 ピリピリしてるっていうか」

 

ユウキは少し目を閉じてから、静かに言った。

 

「僕、お父さんとお母さんの会話、少ないなって思うよ」

 

「会話?」

「うん」

「いや、してるだろ。
 予定とか、ゴミ出しとか」

「それ、連絡じゃない?」

「え」

 

オレは思わず黙った。

 

「まあ、いいや。もう。カレー食べるわ」

「お母さんは?一緒に食べようよ」

「・・・」

 

 

オレは電気のついていない寝室に、そっと顔を入れた。

「ショウコ・・・寝てる?」

 

「・・・おかえり」

ベッドの中から、小さい声が戻ってきた。

 

「ただいま。

 カレー食べないか?ユウキが作ったんだけどさ」

 

「・・・いらない」

 

「なあ、頼むよ。お前が来ないと、

 ユウキ、カレーよそってくれないんだよ」

 

妻はゆるゆるとベッドから下りた。

 

 

 

(続く)