書評のつもりで書き始めたのですが、読み返すとよく分からない文章になってます(^^; スイマセン・・・
宮澤伊織さんのSFホラー『裏世界ピクニック』シリーズについては、これまで2回取り上げました。
『裏世界ピクニック』シリーズ | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
『裏世界ピクニック』シリーズ2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
先日第7巻が出たので、3回目を載せます。
『裏世界ピクニック7 月の葬送』 ハヤカワ文庫JA1509ミ-17-8 320頁 2021年12月発行 本体価格¥780(税込¥858)
裏世界ピクニック7──月の葬送 | 著訳者,マ行,ミ,宮澤 伊織 | ハヤカワ・オンライン (hayakawa-online.co.jp)
まず目次です。
裏世界ピクニック7 月の葬送
ファイル21 怪異に関する中間発表
ファイル22 トイレット・ペーパームーン
ファイル23 月の葬送
以下、ファイルをFと略します。
第7巻では、新たな登場人物はいません。 そのため、これまでのような登場人物の紹介でお茶を濁すやり方が通用しないので、ある程度内容に触れていきます。
ネタバレ注意×3くらいです(^_^
第7巻は、F21からF23まで空魚と潤間冴月の対決がテーマであり、それ以外の裏世界探検、裏世界絡みの怪異はほとんど出てきません。
巻名とF23の「月の葬送」のおける「月」は、潤間冴月を意味します。
殺す、成仏させる、とどめを刺す、退散させる、退治する、葬る、二度と私たちの前に現れないようにさせる、等々の言い方がある中で、鳥子の苦情を受けつつ、空魚は最終的に「祓(はら)う」という言葉を選びます。
冴月はすでにこの世界の人間ではないので、普通に銃で何度撃っても「死なない」ことは空魚が確認済みだからです。
F21では、まず小桜邸で開かれたTさん事件の反省会で、小桜が、DS研に預けている正体不明・神出鬼没の幼女 霞を自分が引き取ると宣言します。
(ただし、小桜邸に引き取られた後の霞はこの巻では登場しません。展開が速すぎるからでしょう。)
その際、霞の正体についても推測が行われます。
次いで、空魚が大学の文化人類学ゼミで中間発表する様子が描写されます。
空魚は、第1回目のゼミで宣言した路線に戻って、実話怪談を取り上げることを報告します。
その際に、前回のゼミまで参加していたはずのTさんについて、空魚以外の誰も覚えていないことを例示としてうまく利用します。
文化人類学の専門家である阿部川教授のコメントがいい味を出しています。
ゼミの後、空魚は最初に裏世界への出入口として使っていたがF1で使えなくなったはずの大宮の廃屋ゲートに行きます。
そしてそこで、生身?の潤間冴月と初めてやり取りあるいは対決します。これがF22の最初の部分。
F22の続きは、F23に至る準備です。
題名の「トイレット・ペーパームーン」は、語呂がいいので採用したというもので、意味はありません。
F23は、空魚たちと潤間冴月の最終対決です。
(この後はまだ出ていないので、本当に「最終」かは分かりませんが、一応そういう形となっています。)
空魚が考案した思いもよらぬ、しかし伝統的な方法で「祓う」のですが、ある意味ではまさしく「葬送」になっています。
討伐隊(これは私の言い方)に参加するのは空魚を含め4人で、隊長役は空魚です。
メンバーはいずれも潤間冴月に関わった関係者たちですが、今回はカラテカ瀬戸茜理は参加せず、DS研に拘束されている元カルトリーダーの女子高生潤巳るなが参加します。
茜理は前回のTさん退治で活躍「させられた」からでしょう。
るなは<声>の力が必要とされたのです。
るなはF11で母親(<ありがとう女>)を冴月に殺されています。
同時に、自らも下顎をはずされかかって、両頬を大きく引き裂かれた傷が治療後も残っています。
そのために、口を閉じていても笑っているように見えます。
冴月さまに付けられた聖痕だなどと強がっていますが、高校生の少女にとっては耐え難いものでしょう。
実際は、るなは冴月に対しても母親に対しても強烈な二面的感情を抱いているのです。
そういう自分の内面を誰にも分かってもらえない、分かるはずがないとして、喚き散らすシーンが出てきます。
思春期の少女にありがちなことのかもしれません。
でも実は、るなと空魚の境遇はよく似ています。
同じような家庭の不幸に遭っても、そこで人の道を踏み外すか否かは、異なるのですね。
この巻では、空魚がるなの秘めていたそういう感情をあえて爆発させますが、その中でもるなが自分の<声>の魔力を使わなかったことで、更生の展望が開けたように感じました。
空魚と冴月の人物評価を追加します。
空魚に対する評価として
・小桜から、「空魚ちゃんの口の悪さは、下品とかいうのではなく、ブラックジョークを口走って周りにドン引かれているのに気づかずにへらへらしている、よくあるオタクの話し方」だと決めつけられます。
・小桜やるなから「根本的に野蛮なところがある」という評価を受けます。るなは「戦国時代の人ですか」と。
・小桜から「空魚ちゃんのデリカシーのなさはちょっとびっくりするほど」という評価を受けます。
・あと、「人の心がない」という批判も受けますが、鳥子がそれを否定してくれたりします。
小桜は、冴月に対して「人の価値を機能で評価する女」「おまえは最初から人でなしだった」と断定します。
空魚は、冴月を祓う方法として「牛の首」というメタ怪談を使おうとします。
「牛の首」は小松左京の短編で取り上げられていて(というより小松さんの創作だと思うけど)、私は昔読んだことがあります。
宮澤伊織さんがSF作家の系譜に連なることを再認識させられました。
複数の意味で宿敵だった潤間冴月がいなくなったので、シリーズは終わりそうなものですが、この巻の最後はそういう描写にはなっていません。
空魚の最後の葬送の言葉(今後のキーワードになりそう)をどう実現するのかとか、小桜邸での霞の生活がどうなるのかとか、(神保町ゲートから入る骨組みビルを整備したので)裏世界のさらなる探検とか、いろいろ書くことはあるはずなので、ぜひ続巻を期待したいと思います。
ただ、ネットの実話怪談がネタなので、それが尽きてしまうと、終りになってもし方ないのでしょうね。
これまで同様、時間経過を抜き出しておきます。
5月10日 F21 Tさんを撃退してから2日後、小桜邸で打上げ
5月12日 F21 空魚、文化人類学のゼミで中間発表
同日ゼミの後 この途中からF22 大宮の廃屋で空魚と冴月が直接対決。その夜中、空魚のドッペルゲンガーが鳥子の部屋を訪れる
5月14日、空魚と鳥子が、二人の出会った記念日を祝って京王プラザホテルでディナービュッフェ。その夜は二人でホテル泊。泥酔する。
5月15日、二人とも二日酔い。夕方、電話でやり取り。
5月16日、夕方、空魚は茜理と夏妃に会う。
これ以後の日付は明示されていませんが、最後はおそらく5月20日前後かと思います。
小説の展開とは別に、誕生日・記念日を記載しておきます。
空魚の誕生日 : 5月5日
空魚と鳥子が初めて出会った日: 5月14日(すでに1年前)
鳥子の誕生日 : 6月6日
ファンタジーというと、その世界の地図が出てくるのが定番ですが、このシリーズでは「裏世界地図」は載っていません。
裏世界の空魚たちが行った場所がすべてつながっておらず、また裏世界といっても深い部分はまた別だからだと思いますが、主な部分だけ文章で描写します。
今回の第7巻とは無関係なのですが、ついでです。
裏世界の地理
まず、神保町ゲートから入る10階建て骨組みビルを中心とした東西南北です。
・西:沼沢地。くねくねと出逢う。大宮の廃屋ゲートもこの辺りだった
・南:グリッチだらけの草原。肋戸と出逢う
その先に、サンゴのような建物。八尺様と遭遇
・東:遠方に線路ときさらぎ駅。米軍と出逢う
・北:まばらな林。その先に廃墟の町
次に、小桜の家のゲートから入ると、すぐ東に丘があります。丘を中心とした地理は、
・東:くねくねのいる沼沢地
・南:グリッチだらけの草原
・北:回転展望台。その向こうに山が見える
回転展望台から東に向かって神保町ゲートに至る道が「一号線」です。
・北西:くだんの像がある尾根→道路→ラブホ廃墟→河原(るなのカルトのアジトにつながるゲート)。
これが「クリスマス街道」
参考文献のページに、阿部川教授と汀曜一郎にモデルとなった方がいて、いずれも亡くなっていたことが記されています。
御冥福をお祈りいたします。
作者の 宮澤伊織さんは、作中では空魚が在籍している埼玉大学出身で、文化人類学のゼミに属していたようです。(大学院には進学せず)
鳥子の大学である上智大学に彼女がいた、なんてことはないのかな?
この後、第8巻の書評も書きました。
『裏世界ピクニック』シリーズ4 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
★ 今日のロジバン 語消去 si
ti gerku si mlatu
これは 犬 [消去] ネコだ。
ta blanu zdani si si xekri zdani
あれは青い家 [消去] [消去] 黒い家だ。
si : 一語消去。si を除く直前のロジバン語を消去する。SI類
si は、直前の語をそれが全く発話されなかったかのように消去するメタ言語的演算子です。
日本語だと「もとへ」という感じですかね。
複数の si を連続して使うと、その数の語が消去されます。
出典は、全部をひとまとめに - ロジバンテキストの構造について - The Lojban Reference Grammar (ponjbogri.github.io) 13.1) 13.2)