オイラーの多面体定理の証明 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

目次
 0.はじめに
 1.ルジャンドルによる証明
 2.コーシーによる証明
 3.多面体定理のn次元への拡張
 4.多面体定理のn穴円環面への拡張


 0.はじめに


オイラーの多面体定理とは、次のような式です。
・オイラーの多面体定理(公式) : 凸多面体の頂点数V、稜の数E、面の数Fの間には次の関係が成り立つ。
  V -E +F = 2                  

V、E、Fの記載された多面体の例示としては、次をご覧ください。
正多面体のご紹介2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786143.html

半正多面体のご紹介1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786164.html

 

この式は、最近翻訳が出たある本では「世界で二番目に美しい公式」と呼ばれています(ただし私はその本は未購入)。
ちなみに、最も美しい公式と認められているのは、同じくオイラーが発見した次の公式です。
  eiπ +1 = 0   あるいは   e^ i π +1 = 0
これが最も美しい公式であることに私も同感ですが、こちらの解説は別の機会にしたいと思います。
(オイラーは数学史に名を残す大天才であり、多数の重要な公式を発見しています。このため、単にオイラーの公式といってもどれのことか分からないのでご注意ください。)

これまでこのブログの数学関係の記事ではオイラーの多面体定理を何度も援用してきましたが、ちゃんとした証明は載せていませんでした。
そこで、今回はその証明を取り上げることにします。
といっても、自分で思い付くほど頭が良くはないので(^^;、次のネタ本に頼っています。
・P.R.クロムウェル 著、下川 航也、松本 三郎 訳 『多面体』 シュプリンガー・フェアラーク東京 437頁 2001年12月発行
私はこの本をもっているのですが、家がゴミ屋敷化していてとても見つからず、また以前読んだときにつくったメモにも書いてないため、最近出た新装版の該当箇所を大きな本屋で数十秒間眺めて、その記憶をもとに自分流にアレンジしました。
ただし、新装版では発行元が数学書房というところに変わっています。近年できた出版社ですね。
証明は何種類かあるようですが、ルジャンドルによるものとコーシーによるものの二つを載せておきます。


 1.ルジャンドルによる証明


ルジャンドル(Legendre、1752~1833)は、フランスの数学者。
ルジャンドルによる証明では、球面幾何学を用います。
まず凸多面体の内部に光源として一点をとり、凸多面体全体を包む球面をスクリーンとして投影を行います。
これにより、凸多面体の頂点、稜、面(多角形)はすべて球面に投影されます。
凸多面体であるために、稜どうしが重なることはありません。
また、凸多面体の稜の投影先は、球面上の大円の一部です。
(球面幾何学における大円はユークリッド幾何学の直線に相当します。)
その球の半径を 1 とすると、球面の面積は 4π です。
一方、凸多面体の面が投影されてできた球面n角形の面積は、球面幾何学によれば「その内角の合計-(n-2)π」となります。
ここで、nの値は面ごとに異なりうることに注意。
球面上の多角形全体の面積の合計を計算すると、
  ΣF(内角の合計-(n-2)π) = ΣF(内角の合計) -ΣF(nπ) +ΣF(2π)
                    = V・2π -2E・π +F・2π
                    = 2π (V-E+F).
ただし、 ΣF はすべての面について合計をとるという意味。
一方で、これは球面の面積に等しいので、
  2π (V-E+F) = 4π.
∴ V -E +F = 2π.                      証明終わり//

この証明のポイントは、面積の合計の計算で一行目右辺から二行目に変形するとき各項がどう変わるかです。
第1項の変形は、「すべての球面多角形の内角の合計が、頂点周りの角度2π×頂点数に等しい」ことを使います。
第2項の変形は、「すべての多角形(面)の辺の数の合計が、凸多面体の稜の数の2倍に等しい」ことを使います。
第3項は、2π のF倍です。
なお、証明の途中で球の半径を 1 と置きましたが、一般的に r と置いても、全体に r がかかって最後は r で割れるので、結論は同じです。


 2.コーシーによる証明


コーシー(Cauchy、1789~1857)も、フランスの数学者。
コーシーによる証明は、凸多面体を平面上のグラフに写して行います。


 A まず凸多面体を1で行ったようにいったん球面に写します。
この投影により、「V-E+F」は不変です。
 B 次に、できた球面多角形のうち一つの面上に光源(一点)をとり、球面上の正反対の点にスクリーンとなる平面が接するようにして、再び投影を行います。
これにより、元の凸多面体の頂点は接平面上の頂点に、同じく稜は真っ直ぐな辺に、同じく面の多角形は多角形に写されます。
ただし、光源を置いた多角形は平面上に投影されないので、「V-E+F」は 1 だけ減ります。
 C 投影されてできた複数の多角形が辺どうしで接している平面図形において、3角形以外の多角形があれば、順次対角線を引いていき、3角形以外の多角形がなくなるまで続けます。
すると、多数の3角形が辺で接する平面図形ができます。
対角線の引き方は、結論に影響しません。
対角線を 1 本引くごとに辺の数Eと面の数Fがともに 1 ずつ増えるので、この操作により「V-E+F」は不変です。
 D 得られた「多数の3角形が辺で接する平面図形」について、次の操作aまたはbを繰り返し行います。
 a.外側に凸になっている2価の頂点があれば、それとそこから出ている辺を取り除く。
この操作により、頂点の数Vと面の数Fが 1 ずつ減り、辺の数Eが 2 減るので、「V-E+F」は不変です。
 b.凸になっている2価の頂点がなければ、外側に面している辺の 1 本を取り除く。
この操作により、辺の数Eと面の数Fがともに 1 つずつ減るので、「V-E+F」は不変です。
aとbの繰り返しにより、平面図形は最後には 1 つの3角形にまで縮小します。
E 3角形は、V=3、E=3、F=1 なので、V-E+F=1 となります。
「V-E+F」の値は、A~Dまでの操作のうち、Bで 1 だけ減り、それ以外では不変なので、元の凸多面体では
  V -E +F = 2
であることが分かります。                      証明終わり//


 3.多面体定理のn次元への拡張


証明は以上ですが、補足として多面体定理の拡張版を証明抜きで二種類紹介しておきます。

オイラーの多面体定理は、一般のn次元に拡張することができます。
これまで見てきた式
  V -E +F = 2
の右辺の 2 をオイラー数と呼ぶことにします。
3次元以外の次元でオイラー数がどうなっているかを見てみましょう。

まず2次元の場合を考えると、3次元における凸多面体に対応するのは、凸多角形です。
3次元では頂点(0次元)、稜(1次元)、面(2次元)を式に含めましたが、問題となっている図形よりも次元の低い構成要素だけを式に含めるという考え方をとるとして、2次元では頂点(0次元)と辺(1次元)だけを式に含めます。
n角形の頂点数Vはn、辺の数Sもnなので、
  V -S = n -n
      = 0.
すなわち、2次元のオイラー数は 0 です。

次は、4次元の場合です。
2次元の多角形、3次元の多面体に対応する 4次元以上の図形を、多胞体(たほうたい)といいます。
4次元凸多胞体の例として、立方体を 8 つ合わせてできる正8胞体を取り上げます。

正8胞体の作り方は次の通り。
同じ大きさの(したがって合同な)立方体を 8 つ用意して、そのうちの1つを中央に配置します(宙に浮かんでいるとお考えください。)。
その前後左右上下の 6 面に 1 つずつ立方体を貼り付けます。
これで立方体を 7 つ使ったことになります。
上に貼り付けた立方体の側面の4面を、それぞれの斜め下の立方体の上を向いている面と、想像上の4次元空間内で(^_^貼り合わせます。
取り付けた他の 5 つの立方体についても、同様に貼り合わせる操作を行います。
そうすると、取り付けられた 6 つの立方体の外側を向いた 6 面だけが残ります。
最後に、残った 1 つの立方体の各面をそれらの 6 面に貼り合わせれば出来上がり。
3次元空間内で考えてもできるわけはないので、想像力を働かせて下さいね(^_^

できた正8胞体の構成要素を重複がないように気を付けて数えると、頂点数が 8+8=16、稜の数が 12+8+12=32、面の数が 6+12+6=24、胞(構成要素となっている立体のこと)の数が 8 です。
これらを、符号を一つずつ変えながら足し合わせると、
  16 -32 +24 -8 = 0.
一般に4次元ではオイラー数は 0 となります。
4次元の他の正多胞体については、次の記事をご覧ください。
4次元多胞体について1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471780575.html

4次元多胞体について2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471780582.html

 

オイラー数は、2次元では 0、3次元では 2、4次元では 0 となりました。
とすると、5次元ではまた 2 となるのでしょうか?
実はその通りで、次の定理が成り立ちます。
・シュレーフリの定理 : 凸多胞体のオイラー数は、偶数次元では 0、奇数次元では 2 である。
数式で書くと、
n次元凸多胞体のオイラー数は次のように表示される。
  a0-a1+a2-・・・+(-1)n-1n-1 = 1 +(-1)n+1
ただし、ai は i 次元の構成要素の数。


 4.多面体定理の3次元n穴円環面への拡張


オイラーの多面体定理のもう一つの拡張は、3次元の立体で凸でないものを対象とします。
立体の表面がゴムでできているとして、その中に空気を送り込んで膨らませます。
凸多面体を膨らませると、球になります。
このことを、凸多面体は球と同相だと表現します。
同相とは、位相(トポロジー)が同じだという意味です。
凸多面体のオイラー数は 2 ですが、膨らませるとドーナツ形(円環面、トーラス)になる立体ではオイラー数は 0 となります。
ドーナツでは穴は 1 つですが、穴が 1 つ増えるごとにオイラー数は 2 ずつ少なくなります。


一般に次の定理が成り立ちます。
定理 : n穴円環面のオイラー数は、2(1-n) である。
詳しくは次の記事をご覧ください。
地図とオイラー数:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781403.html

 


★ この後、別の証明も掲載したので、貼っておきます。
オイラーの多面体定理の証明2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

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