正多面体のご紹介2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

  (2) 正多面体
ようやく正多面体の番が回ってきました。
p と q という記号の意味はタイリングのときと同じです。
正多面体の1つの頂点には正 p 角形が q 枚集まっているので、その内角の和は、q(π-2π/p) です。
正多面体は凸ですから、1つの頂点に集まる面の内角の和は2π(=360°)より小さいので、
  q(π-2π/p) < 2π
両辺を 2πq で割って整理すると、
  1/p +1/q > 1/2     ・・・ (2)
この式は(1)式の等号 = を不等号 > に変えただけで、同様に p と q が対称的なきれいな式です。
p も q も3以上の整数ですから、この式をみたす p と q の組合せ {p,q} は、平面タイリングの解と比べて p,q の少なくとも一方がより小さい、3以上の整数の組です。
そのような組合せは次の5通りしかありません。
  {3,3},{4,3},{3,4},{5,3},{3,5}
以上で、「正多面体は5種類しか存在しない」ことが証明されました。

念のために、これらの組合せを(2)式を代入してみましょう。
たとえば、p=3、q=4 のとき、(2)式の左辺は、
  1/3+1/4 = 7/12 > 1/2
となることから、(2)式を満たすことが分かります。
他の組合せについても、確認してみてください。

また、3種類のタイリング {3,6},{4,4},{6,3} のうち1つをとったとき、それよりも p か q のいずれかあるいは両方が大きい場合には、(1)式(あるいは(2)式)の左辺が右辺より小さくなるため、タイリングも正多面体もできません。
(実は、その場合には「双曲面」のタイリングとなるのですが、話が広がりすぎるので、今回は省略します。)

以上の議論を表の形で整理しておくと、見通しがよくなります。
表1 p と q から決まる正多面体と平面タイリング
 p ∖ q  3     4     5     6    7   ・・・
  3  正4面体  正8面体  正20面体  正3角形t. - 
  4  立方体   正方形t.  -     -    -
  5  正12面体   -     -     -    -
  6  正6角形t.  -     -     -    -
  7   -      -     -     -    -
  ・・・
(注)1 「t.」は「による平面タイリング」の略。以下同様。
  2 「-」の欄は正多面体も平面タイリングも存在しないことを示す。


 4.正多面体の頂点、稜、面の数
さて、正多面体ををつくる p と q の組合せが5通りであることは分かりましたが、それぞれがどの正多面体に対応するのかはカンニングなしではまだ分かりませんね。
そこで次に、p と q から正多面体の頂点の数V、稜の数E、面の数Fを導くことにします。
次の「オイラーの多面体定理」を使います。
  V -E +F = 2    ・・・ (3)
これは多面体の分野でもっとも基本となる公式です。
次に、1つの頂点には q 本の稜が集まっていて、全部でV個の頂点がありますが、1本の稜は両端に頂点をもつので、
  qV = 2E
これは「握手定理」と呼ばれるものの一例です。
VをEで表せば、
  V = 2E/q      ・・・ (4)
また、1枚の面はp本の辺で囲まれていて、全部でF枚の面がありますが、1本の稜は2枚の面に接しているため、
  pF = 2E
これも「握手定理」です。
したがって、
  2E = pF = qV
FをEで表せば、
  F = 2E/p    ・・・ (5)
(3)式に(4)式と(5)式を代入して、
  2E/q -E +2E/p = 2
両辺を 2E で割って整理すると、
  1/E = 1/p +1/q -1/2
Eの逆数を p と q の逆数で表したきれいな式になりましたね(^_^
これに正多角形の5通りの p と q の組合せを代入すると、Eの値が求まります。
それを(4)式と(5)式に代入すれば、VとFの値も求まります。
例として、{4,3} では、
  1/E = 1/4 +1/3 -1/2 = 1/12
∴ E = 12
  V = 2・12/3 = 8
  F = 2・12/4 = 6
F=6 ですから、{4,3} は立方体を表すことが分かります。
同様の計算をしていけば、次の表で示される対応関係が得られます。
表2 正多面体と平面タイリングの諸量(離散量)
 名称  シュレー 面の形 頂点の価数 頂点の数 稜の数 面の数
     フリ記号                        
正多面体 {p,q}  正p角形  q    V    E    F
正4面体 {3,3}  正3角形   3    4     6   4
立方体  {4,3}  正方形    3    8    12    6
正8面体 {3,4}  正3角形   4     6    12    8
正12面体 {5,3}  正5角形   3    20   30   12
正20面体 {3,5}  正3角形   5    12   30   20
正3角形t. {3,6}  正3角形   6    ∞   ∞   ∞
正方形t. {4,4}  正方形    4    ∞   ∞   ∞
正6角形t. {6,3}  正6角形   3    ∞   ∞   ∞
(注) ∞は無数に存在することを示す。以下同様。

p と q がいずれも局所的(local)な量なのに対し、V、E、Fは全体に関わる(global)量であり、前者から後者が導かれるという点が重要です。
シュレーフリ記号 {p,q} は、今後は対応する正多面体あるいはプラトンのタイリングそのものを表示するものとします。
なお、シュレーフリ記号は2次元図形である正多角形(regular polygon、レギュラー・ポリゴン)も表示できます。
たとえば、正3角形は {3}、正方形は {4}、星型5角形は {5/2} などとなります。
今回は触れませんが、4次元以上の空間で正多面体に相当する図形もシュレーフリ記号で表示できます。
4次元多胞体について1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

4次元多胞体について2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

(記号が本稿と少し違う点にご注意ください。)
シュレーフリ記号が優れものだということがお分かりになりますね(^_^

V、E、Fについても、p と q を表側表頭とする表の形で整理しておきます。
表3 面の形 p と頂点の価数 q から決まる稜の数E
 p ∖ q  3   4   5   6   7   ・・・
  3    6   12  30   ∞   -
  4   12   ∞   -   -   -
  5   30   -   -   -   -
  6   ∞   -   -   -   -
  7   -   -   -   -   -
 ・・・

表3は、p と q が対称的である点に特徴があります。

表4 面の形 p と頂点の価数 q から決まる頂点数V
 p ∖ q  3   4   5   6   7  ・・・
  3    4   6  12  ∞  -
  4    8   ∞  -  -   -
  5   20  -  -  -   -
  6   ∞  -  -  -   -
  7   -  -  -  -   -
 ・・・

表5 面の形 p と頂点の価数 q から決まる面の数F
 p ∖ q  3   4   5   6   7  ・・・
  3    4   8  20  ∞  -
  4    6   ∞  -  -  -
  5   12  -  -  -  -
  6   ∞  -  -  -  -
  7   -  -  -  -  -
 ・・・


 5.正多面体の双対
シュレーフリ記号 {p,q} で表される正多面体(またはプラトンのタイリング、以下同様)に対して、p と q を入れ替えた {q,p} で表される正多面体を、元の多面体の「双対」(そうつい)(dual、デュアル)といいます。
ある多面体とその双対は、稜の数は等しく、頂点数と面の数が逆になっている、という関係にあります。
ある正多面体の双対の双対は、元の正多面体です。
正多面体のうち、立方体 {4,3} と正8面体 {3,4}、正12面体 {5,3} と正20面体 {3,5} は互いに双対であり、また正4面体 {3,3} は自分自身の双対になっています。
平面のタイリングのうち、正3角形によるもの {3,6} と正6角形によるもの {6,3} は互いに双対であり、また、正方形によるもの {4,4} は自分自身の双対になっています。

ある正多面体 {p,q} の隣り合う面の中心どうしを線分で結ぶと、双対 {q,p} ができます。
このとき、双対 {q,p} は元の正多面体 {p,q} に内接しています。
この逆に、元の正多面体に外接する双対は、正多面体の中心から各頂点に線を引き、各頂点でその線に垂直に交わる平面を取れば、それらの平面によってできる多面体が双対多面体となります。


 6.おわりに
正多面体に関する今回の記事は、とりあえずこれで終わりです。

正多面体についてきちんとした議論をするのであれば、本来は正多面体のさまざまな部分の(相対的)長さや角度などを求める必要があります。
しかし、そのためには正多面体を「基本単体」という“部品”に分解する方法を解説しなければならないのですが、ネットで適当な図を掲載したサイトが見つからず、自分で図を描かないサボリをモットーとしている(^^;このブログでは文章だけでうまく説明できそうもないので、当面見送ります。
なお、基本単体の解析で使用する数学は、三角関数など高校レベルのものです。

また、正多面体や関連する立体の見かけの“きれいさ”はその対称性に由来するものです。
したがって、対称性の科学である「群論」、特に有限群にもふれなければならないところですが、こちらも同様の理由で当面見送ります。
(関係する有限群だけなら説明できないことはないのですが、それが多面体の対称性と結びついている点は図解しなければ理解できません。)

というわけで、最初は「正多面体の基礎」という題にしようと考えていたのですが、長さや角度という連続量にまったく触れないのでは基礎というにはほど遠い入門程度の内容だと思い、「ご紹介」という題にしました。

この次は半正多面体という立体を、やはり「ご紹介」するつもりです。
今回嫌気の差さなかった方は請うご期待! 
そんな人いないかな(^^;・・・