科捜研の女16 第15話 感想というか何というか… ネタバレ有り | == 肖蟲軒雑記 ==

== 肖蟲軒雑記 ==

ツボに籠もっているタコが、「知っていても知らなくてもどっちでも良いけど、どちからというと知っていてもしょうもないこと」を書き散らすブログです

 今回の科捜研の女は、サバイバルゲーム転じてヒューマンハンティングか?と思わせる内容の事件であり、冒頭の場面なども本編同様順序を混乱させるミスリード的であった。

 サブタイトルにある「七枚の迷宮」の七枚は、手がかりとして残った(残された)インスタントカメラ(かつては研究室で使っていた懐かしいポラロイド社のカメラである:型式は若干違うが)の写真7枚のことであろう。 ドラマでは、野宮枝織(小松彩夏)の証言に基づき、それらの時系列が決まるという一幕があった。

 その中にあった、被害者萩野優介(大迫一平)が改造拳銃を手に取っている1枚。私はこれを見て即座に、「ああ夜の室内だな」と思った。後から現場検証で榊マリコ(沢口靖子)橋口呂太(渡部秀)が指摘しているように、カーテン越しの窓の外光がないことも一つだが、室内光の場合、昼間の太陽光に比べ全体的に赤っぽくなる。それに、昼間なら仮に室内灯が点灯していたとしても、外光の方が圧倒的に明るいので、どうしても窓の光による影(とそれによる明暗ムラ)ができるはずだからだ。

 この場面では、ごく自然にこの写真が二つの集合写真(野宮枝織が撮った写真と二人が縛られている写真)の間に置かれたことから、実際には一日の出来事だったことを「ああ、日にちをまたいだ事件だったのか」と視聴時には勝手に思い込んでしまった。

 

 

 昨シーズンの第3で、車のフロントガラスの反射光の向こうに顔があることを見いだすことができたほど目の良い榊マリコにあるまじきミスと言える。仮に色調については、「デジタルカメラとインスタントカメラの違いがあると思った」という言い訳が成り立つとしても、窓の外光や影のでき方に気づかないというのはあまりにもお粗末である。

 

 また、野宮枝織が逃げていくところを撮影したとされた、実際には山崎紗代子(内田慈)が逃げていく写真、についても見逃しがあったと思う。野宮枝織の銃創は左腕であり、写真は撃たれる前のものと推定している。そういう前提に立つと、銃撃は少し離れた所からのものなのだから、実際に衣服に残っている火薬残渣の量や広がり具合(鑑定場面がでてくる)との矛盾が生じるのではないだろうか。自分で自分を撃ったのだから、右手側に煙硝反応もでてくるはずである。後者については、撃たれたという証言がある以上鑑定しないという(証言があるなしに関わらず鑑定する榊マリコらしくない)可能性もあるが、衣服についてはメンバーの誰かが疑問を持ってもおかしくないのだ。

 

 もっとも、この7枚目の写真についての、涌田亜美(山本ひかる)の観察眼と実験は素晴らしいと感じた。彼女は、リュックのアクセサリーの色合いが実物と写真とで大きく異なることに着目し、実際にインスタントカメラの現像を低温で行うことで、実際の被写体は白い上着ではなく、赤い上着であるということに気づく。映像やコンピュータープログラム専門ではなく、基本的な化学実験を自らデザインできるまでに成長しているのである。

 銀塩写真の像は光による(臭化銀→銀)反応とそれをみえるようにする一連の化学反応によってつくられる。化学反応だから、温度には敏感である。温度の低い実験室でこのカメラを使って写真を撮ったあと、現像する際に両手で挟んで温めていた昔が思い出される。だが、温度が低い条件で現像したらどうなるのかは今回初めて知った。フィルムは貴重だったから、寒い中に放置して現像失敗をするようなことはなかったからだ。なるほど、全体的に発色が悪くなっている。もしかすると、赤の発色に関わる反応が最も温度に敏感なので、あのような見間違いが起こる像になるのかもしれない。

 

 さて、東映公式サイトによれば、今エピソードは「洞察力に優れ、冷静で利発なマリコさんがここまで騙されてしまうかなり異端のお話」とのことだ。犯人の偽装が大胆かつ巧妙だったということを否定はしないが、それよりも被害者を装った真犯人の証言を鵜呑みにして写真の時系列を疑いもなく設定する科捜研のメンバー達は、明らかにいつもの彼らとは異なり能力が低い。夜間の室内撮影に気づかない榊マリコもどうかしていたのではないだろうか。

 事件の日付を見ると、214日となっていた。もしそうなら、14で語られた不動産会社社長刺殺死体遺棄事件の捜査が進行中のことになる。もしかすると、二つの事件が重なり、科捜研のメンバーは皆2日ほど徹夜が続いたため、疲労が蓄積し判断力が低下していたのかもしれない(と考えないと説明ができない)。

 

 いずれにしても、4話の感想記事に書いたことと重複するが、榊マリコの能力設定をあまりにも高く設定している上、求められもしない鑑定を勝手に行うことで事件の真相に近づけるという性格にしているが故に、彼女が犯人に翻弄されるという内容にするには、他のエピソードではありえないようなミスを犯させるか、ありえない程情緒的にするかしないといけない、という見本のようなエピソードであった。

 

 次回は、バスジャックという形で物理的な危機が彼女には訪れるらしい。こういった危機の方がむしろ清々しいのだが、バスジャックというと、第7シリーズの淡路島行きの話が思い出される。そういえばこの話は、今シーズン第8話のように彼女が爆弾解除を行った話でもあった。