「K3曲面のモジュライ空間について」 (向井茂 著)
http://eprints3.math.sci.hokudai.ac.jp/405/
代数幾何学ミニシンポジューム, 1989/12/21, 東京大学理学部
「K3曲面のモジュライ空間について」 (向井茂 著)
http://eprints3.math.sci.hokudai.ac.jp/405/
代数幾何学ミニシンポジューム, 1989/12/21, 東京大学理学部
「数学のたのしみ」の「モジュライのたのしみ」特集号を見ていたら,
向井茂さんの解説があり,少しわかった
ことがありました.
P^3の中の非特異3次超曲面のモジュライ空間として,まず,
3次斉次多項式の係数の空間(複素数倍は同一視,特異なものは除く)がある.
さらに,それをPGLの作用で割った空間Mも考える.
後者Mは,控えめに,粗モジュライ空間と呼ばれる.
このように呼ばれる理由は,
この空間Mをbase spaceとするような普遍族(universal analytic family)が必ずしも作れないこと,だそうである.
つまり,複素多様体(total space)からM(base space)への全射固有正則submersionで,Mの各点のファイバーが,その点を代表する非特異3次超曲面(に複素解析的に同型)となっているような族が必ずしも作れないらしい.
なぜ作れないかと言うと,ある特殊な非特異3次超曲面Xが大きな対称性を持っている(=それ自身に作用するようなPGLの元が沢山ある)のに,その近傍の非特異3次超曲面は,それ自身に作用するようなPGLの元が恒等変換のみしかなかったりする場合,その近傍上にうまくfamilyが作れないということである.
Xにはmarkingが何種類もあるのに,PGLの作用で割ったモジュライ空間Mにおいては,それらのmarkingをすべて同一視してしまっていることになる.それゆえ,その上には「現実のfamily」を作れない.
そこで,特殊な非特異3次超曲面Xのすべてのmarkingを区別するようなモジュライ空間を新たに考えると,
それは,non-Hausdorffな空間になってしまう,ということかも知れない.
それに対し,"Hilbert scheme"上には,普遍族が作れる.Hilbert schemeとはそういう重要な性質を持つものなのである.
非特異3次超曲面に対しては,最初に考えた「3次斉次多項式の係数の空間(複素数倍は同一視,特異なものは除く)」がHilbert scheme(を実現したもの)ということになる.
このような事情を知ると,「family」と「モジュライ空間」の重要な違いが見えてくる.
取りあえず対象の全体を捉えたらよいと思って,
PGLの作用の分を同一視してモジュライ空間を考えたりすると,
その空間上には,(繰り返しになるが)「現実のfamily」は必ずしも作れない,ということ.
familyのbase spaceになり得るようなモジュライ空間が,ある意味では,重要であるということ.
モジュライ空間上のfamilyが現実に存在するならば,
例えば,モジュライ空間が連結な複素多様体(smooth)である場合,モジュライ空間の各点を代表する多様体は,複素構造の変形で移り合うことがわかる.
また,非特異実4次曲面の場合,
coarse projective equivalence classes (Hibert schemeをPGLの作用で割ったもの)でなく,
(PGLの作用で割っていない)"rigid isotopic classification"の重要性もわかる.
amphichiralな実4次曲面とは,対称性を持っている特殊な対象ということになる.
そのようなことを踏まえ,marked K3 surfaces (および,marked polarized K3 surfaces )のモジュライ空間とその上のfamilyについて,いま一度,正確に読みとらなければならない.
しかし,さしづめ必要なのは,代数的K3曲面なので,polarized K3 surfaces の場合に限って,Piateckii-Shapiro, Shafarevich の2つの論文を見ること!
専門家に質問して,お答えいただいた結果:
Kollar の Rational curves on algebraic varieties の序章に,
ヒルベルトスキームについて書いてあるが,
ヒルベルトスキームの一般論しかかかれておらず、
特定のヒルベルトスキームの性質については言及されていない.
一般のスキームには実位相は入らない(例えば有限体上定義されたものなど)ので、
「連結」と書いてあれば,「Zariski 位相の意味で連結」であることがほとんどであろう, とのこと.
Real Algebraic Surfaces,
Lecture Notes in Math. 1392, Springer-Verlag, 1989.
R. Silhol,
Moduli problems on real algebraic geometry,
Real Algebraic Geometry, Proceedings, Rennes 1991,
Lecture Notes in Math. 1524 (1992), 110--119.
R. Silhol,
Compactifications of moduli spaces in real algebraic geometry,
Invent. Math. 107 (1992), 151--202.
[BHPV] p.141
Theorem 2.10
X を (ケーラーとは限らぬ) compact complex surface とする.
p+q=2のとき,
the Dolbeaut group H^{p,q}(X)は,
(p,q)typeのd-closed formで代表される元からなるH^2(X,C)のthe subspaceと自然に同型である.
このようにして,自然な分解
H^2(X,C) = H^{2,0}(X) \oplus H^{1,1}(X) \oplus H^{0,2}(X)
を得る.(これも,the Hodge decomposition と呼ぶ)
------------------------------------------
[BHPV] p.308
定義
X, X' を(ケーラーとは限らぬ) compact complex surfaces とする.
Z-modulesの同型 H^2(X,Z)→H^2(X',Z)は,次の条件を満たすとき,
Hodge-isometry と呼ぶ.
(1) cup product を保つ
(2) C-linear extension がthe Hodge decomposition を保つ.
さらに,X, X' を Kaehler compact surfaces とするとき,
Hodge-isometryがeffectiveであるとは,
positive coneをpositive coneに移し,かつ,
the sets of effective classes の間のa bijectionを誘導すること.
Burns and Rapoport,
On the Torelli problem for kählerian K-3 surfaces.
Annales scientifiques de l'École Normale Supérieure,
Sér. 4, 8 no. 2 (1975), p. 235-273 (NUMDAM から入手可能)
この論文は,algebraic とは限らないmarked K3曲面を考察しています.
[BHPV]も,この論文から,かなり引用しています.
p.236
Torelli theorem の証明をケーラーK3曲面に拡張するときの主たる困難は,ケーラーK3曲面のためのモジュライ空間がnon-Hausdorffなことにある.
この論文におけるモジュライの構成が,unpolarized surfaces に対しては重要である.
-------------------------------------------------------
(以下,以前の記事から引用)
まず,
○The polarized period domain for K3 surfaces (KΩ)^0 の定義:
[η]∈Ωに対し, C_[η] を,
L_{K3 R}において,ηに直交し (H^{1,1}_Rを考えていることになる),
<x,x> >0 を満たすxの全体とする.
(C_[η] は2つの連結成分からなる!)
Δ_[η] を, L_{K3}の自己交点数-2の元で,
ηに直交 (Picに属する) するもの全体(ルートの集合)とする.
Δ_[η] の各元δのL_{K3 R}における直交補空間(hyperplane)をh_δとする.
(KΩ)^0 := {([η],κ) ∈ Ω x L_{K3 R} | κ ∈ C_[η] \ (∪h_δ) }
と定める.(C_[η]の連結成分両方を考えているので注意!)
これは,実20次元のreal analytic manifold.
●The Burns-Rapoport period domain for K3 surfaces \tilde{Ω}の定義:
(KΩ)^0において,([η],κ) と ([η'],κ')を,
[η] = [η'] かつ κ と κ' がC_[η] \ (∪h_δ)の同じ連結成分に属するときに,
同一視した空間を,\tilde{Ω} と定める.
これは,non-Hausdorff "smooth" analyitc space of dim 20 である.
\tilde{Ω}からΩへの第1成分への射影はetale.
[η]∈Ωに対し,そのfiberは,C_[η] \ (∪h_δ)の連結成分の全体.
-----------------------------------------------------
(algebraicとは限らない) K3曲面 X に対し,
そのKaehler class κを1つ指定したものを polarized K3 surface と呼ぶ.
「周期」を,K3格子 L を用いて義された周期領域の中で考えるために,
marking を指定しておきます.(markingを区別する意味もあります.)
そして,それらの3対 (X, κ, α) を,
marked polarized K3 surface と呼びます.
このmarked polarized K3 surface (X, κ, α) に対し,
polarized period (∈ (KΩ)^0 ) を,次のように定義します:
([α_C(η)],α_R(κ)) ∈ (KΩ)^0
次に,
(polarizationを指定しない)marked K3 surface (X,α) に対しては,
まず,Kaehler class κを1つ指定しおき,
上の ([α_C(η)],α_R(κ)) を \tilde{Ω} にprojectしたものを考え,
これを,
marked K3 surface (X,α) のBurns-Rapoport period (∈\tilde{Ω})
と呼ぶ.
(Kaehler class κのとり方に依らない)
------------------------------------------------------
参考文献:
金銅誠之「二次形式とK3曲面・Enriques曲面」,数学 42-4 1990.
[BHPV] 第8章 K3 surfaces and Enriques surfaces (p.312あたり)
XをK3曲面,ω_Xをa nowhere vanishing holomorphic 2-form on X とする.
PicX = S_X = (ω_X)^⊥ ∩ H^2(X, Z) (Picard lattice)
T_X = (S_X)^⊥ ∩ H^2(X, Z) (超越lattice)
とおく.
Δ(X) = {δ∈S_X | δ^2 = -2 } (Xの"ルート"たちの集合)
とおく.
H^{1,1}(X)_R := H^{1,1}(X) ∩ H^2(X, R)
とおく.
{ x ∈ H^{1,1}(X)_R | <x, x> > 0 }
は,2つの連結成分(cones)からなるが,XのKaehler classたちは,そのconvex subcone をなし,2つの連結成分の片方に含まれる.そちらを,
C_X
と表し,Xのthe positive cone と呼ぶ. ([BHPV], p.307を参照)
Δ(X) = Δ^+(X) ∪ -Δ^+(X) (disjoint union),
ここで,Δ^+(X) = { δ | δはeffective divisorで代表される }
という分解ができる. ([BHPV], p.311~p.312参照)
C^+_X = {x ∈ C_X | <x, Δ^+(X)> > 0 }
とおく.
これは,Xのthe Kaehler cone に一致する.([BHPV], p.312,Coro3.9参照)
Δ^+(X)の元で決まる鏡映 s_d (Picard-Lefschetz reflections) で生成される群を
W(X) とおくと,その基本領域 (⊂C_X) は,C^+_XのC_Xにおける閉包となっている.
(2009/6/3修正)
K3曲面Xにmarkingを付けて考える意義は,
まずは,
ひとつの標準的なK3格子 L (のR上やC上の係数拡大)の中で周期を考えるため
(そうしないと,各々のH^2(X,C)の中でバラバラに考えることになってしまう)
という,単に便宜的な理由と,
K3曲面上の自己同型を区別して考えるという意味がある.
自己同型を多く持つような対称性の高いK3曲面は,
多くのmarkingを持つので,それらを区別できる,という意義.
このことは,モジュライ空間の上に族を構成するときに重要.
一方,偏極(polarization)(元をつける)を付けて考える場合は,
markingして,ひとつの標準的なK3格子 L (のR上やC上の係数拡大)の中で周期を考えるのみならず,偏極も区別することになる.(marked polarized K3 surfaces)
(代数的とは限らぬ) marked (polarized) K3 surfaces の周期および周期領域については,
Ken-Ichi Yoshiikawa;
K3 surfaces with involution, equivariant analytic torsion, and automorphic forms on the moduli space,
Invent. Math. 156 (2004), 53--117.
の§1 「1.2 K3 surfaces」からの定式化に従うのが良い.
(原論文をばらばらに参照すると,歴史的経緯で,記号・用語がまちまちなので混乱する)
この論文に沿って,重要な記号を以下のとおりまとめてみます:
The period domain for K3 surfaces Ω
(この定義は以前の記事 のとおり)
The polarized period domain for K3 surfaces (KΩ)^0 の定義:
[η]∈Ωに対し, C_[η] を,
L_{K3 R}において,ηに直交し (H^{1,1}_Rを考えていることになる),
<x,x> >0 を満たすxの全体とする.
(C_[η] は2つの連結成分からなる!)
Δ_[η] を, L_{K3}の自己交点数-2の元で,
ηに直交 (Picに属する) するもの全体(ルートの集合)とする.
Δ_[η] の各元δのL_{K3 R}における直交補空間(hyperplane)をh_δとする.
(KΩ)^0 := {([η],κ) ∈ Ω x L_{K3 R} | κ ∈ C_[η] \ (∪h_δ) }
と定める.(C_[η]の連結成分両方を考えているので注意)
これは,実20次元のreal analytic manifold である.
●The Burns-Rapoport period domain for K3 surfaces \tilde{Ω}の定義:
(KΩ)^0において,([η],κ) と ([η'],κ')を,
[η] = [η'] かつ κ と κ' がC_[η] \ (∪h_δ)の同じ連結成分に属するときに,
同一視した空間を,\tilde{Ω} と定める.
これは,ある要請(→あとで説明)を満たすために考え出された空間であり,
non-Hausdorff になってしまっている.詳しくは,
non-Hausdorff "smooth" analyitc space of dim 20 である.
\tilde{Ω}からΩへの第1成分への射影はetale.
[η]∈Ωに対し,そのfiberは,C_[η] \ (∪h_δ)の連結成分の全体.
-----------------------------------------------------
さて,まず,marked K3 surface (X,α) に対しては,
(ηをX上のa nowhere vanishing holomorphic 2-form とし,)
以前の記事で述べたように,
[α_C(η)] (∈Ω)
period point と呼びます.
(algebraicとは限らない) K3曲面 X に対し,そのKaehler class κを1つ指定したものをpolarized K3 surface と呼びます.
「周期」を,K3格子 L を用いて義された周期領域の中で考えるために,
marking を指定しておきます.(markingを区別する意味もあります.)
そして,それらの3対 (X, κ, α) を,
marked polarized K3 surface と呼びます.
このmarked polarized K3 surface (X, κ, α) に対し,
polarized period (∈ (KΩ)^0 ) を,次のように定義します:
([α_C(η)],α_R(κ)) ∈ (KΩ)^0
次に,(polarizationを指定しない)marked K3 surface (X,α) に対しては,
まずκを1つ指定してから,
上の ([α_C(η)],α_R(κ)) を\tilde{Ω} にprojectし,
これを,marked K3 surfaces (X,α) の
Burns-Rapoport period (∈\tilde{Ω}) と呼びます.
これは,κの取り方に依らずに決まります.
------------------------------------------
定理1.1
The Burns-Rapoport period domain \tilde{Ω} 上には,
a universal marked family of K3 surfaces が存在する!!
------------------------------------------------
続いて,2-elementary K3 surfaces of type M のモジュライ空間について,
述べられています.
(ここで,M は primitive 2-elementary hyperbolic sublattice of L_{K3})
M を固定したモジュライ空間なので,我々が知りたいモジュライ空間です.
ただし,ここには,具体例として,
●非特異6次曲線で分岐するP^2の2重被覆や,
●非特異(4,4)次曲線で分岐するP^1 x P^1 の2重被覆,などは含まれますが,
非特異4次曲面は,この範疇には入りません.
[BHPV],p.334 に,
markedK3曲面の,non-Hausdorffなbase space を持つ解析族の例がある.
Atiyah (1958) の例:
4次曲面の族
x^2(x^2 - 2) + y^2(y^2 - 2) + z^2(z^2 - 2) = 2t^2, (t ∈ C, |t|<ε)
を考える.
σ-processで特異点を解消する.
得られた族(K3曲面の族)に対して,2種類のmarkingを考える.
その2つのmarked familiesからモジュライ空間Mへのmorphimsを考えると,
Cの原点では異なる値を取り,0<|t|<εでは一致している.
したがって,その異なる値を分離するような,Mの中の互いに交わらない開集合がとれないことになる.したがって,Mはnon-Hausdorffでなければならない.
・・・・という論法.
(2009年6月10日修正)