化学進化
進化論には、小進化、大進化、化学進化があります。小進化とは、フィンチのくちばしが環境の変化に応じて長くなったり短くなったりすることで、同じ種の中で生じる小規模な進化的変化を指します。これに反対する学者はいません。大進化とは、生物の進化的変遷において、種以上の系統群の形成を示す過程のことを言います。これは、大部分の学者が信じていますが、ダーウィンの進化論では説明できないとする学者が増えてきました。
化学進化とは、地球上で生命が出現するまでの、物質から生命への進化です。今回は、この化学進化についてお話ししたいと思います。
スタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーは、1952年、原始地球の大気組成を模倣し、放電によって、タンパク質の成分であるアミノ酸ができることを実証しました。これが、生命の誕生につながったと主張し、大ニュースになったのです。
翌年、当時無名だったジェームス・ワトソンとフランシス・クリックが、DNAの二重構造を発見し、60年代になって、これが遺伝コードであることが証明されました。コードという言葉には、暗号という意味があり、クリックが第二次大戦中、軍で暗号読解の仕事をしていたことは、興味深い偶然です。
ミラーとユーリーが実験を行ったときには、DNAがコードであることは解明されていませんでした。それだけでなく、細胞がいかに複雑なものであるか、当時の学者には想像すらできなかったでしょう。アミノ酸の生成に成功した二人は、簡単にタンパク質も作ることができ、タンパク質ができたら、細胞ができることもそう遠い将来のことではないと思っていたでしょう。
しかし、実際はそう甘くはありませんでした。まず、彼らの実験に使った原始大気の成分が間違っており、アミノ酸の生成が困難であることが判明しました。また、水中で複数のアミノ酸をつなげることが困難であることも発見されました。そんなことより、もっと重大なことは、アミノ酸を組み合わせてタンパク質を作るのに、DNAコードが必要だということが分かったのです。
DNAは、まっすぐに伸ばすと2メートルもあります。しかし、体積は細胞の約千分の一しかなく、現代のコンピューターのメモリー媒体よりも密度が高くて、ヒトゲノムの二重構造には32億以上のペアがあります。
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、DNAはコンピューターのプログラムのようなもので、人間が作ったものよりはるかに複雑だと述べています。コンピューターの場合は0と1ですが、DNAの場合はA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)です。コンピューターソフトは、0と1の組み合わせでコンピューター言語を書きますが、DNAはATGCの四つの文字を使って遺伝コードを書いているのです。
いったん細胞ができると、DNAをコピーし、進化が始まります。しかし、自己再生しないアミノ酸が進化してタンパク質になり、細胞を構築するというのは、DNAなしには考えられません。ミラーとユーリーが実験に成功した時は、生命生成のゴールはそう遠くないと思っていたのです。しかし、細胞がいかに複雑であるかが年々発見されるにつれ、ゴールが遠ざかり、どこにあるのかさえ分からなくなったと言っても過言ではないでしょう。
しかし、時すでに遅し。ミラーとユーリーの実験は大々的に高校や大学の教科書に記載されるようになり、今更、あまり否定的なことは言えなくなってしまったようです。あるアンケートによると、63%のアメリカ人が、既に科学者が人工的に生物を作ったと思っているそうですが、これが原因の一つかもしれません。
偶然と必然
私は、小学生のころ、塾に通っていました。いつも父が車で迎えに来てくれていたのですが、ある晩、迎えが遅れました。私は外で待っていたのですが、おトイレに行きたくなったのです。
塾のカギは、自転車に使うようなダイヤル錠でした。父がいつ来てくれるか分からないし、どうせほかにすることもないので、000から始めて、一つ一つコンビネーションを試していきました。幸い、125で開いたので、中に入って用を足すことができたのを覚えています。コンビネーションは1,000しかないので開けられるかもしれない、という私の差し迫った判断は、正しかったのです。
タンパク質を構成するアミノ酸は全部で20種類あります。タンパク質には無数の種類があり、一つのタンパク質を作るのに必要なアミノ酸の数は数十から数千です。ダグラス・アックス博士によると、アミノ酸が150個しかない小さなものでも、でたらめに並べて機能するタンパク質ができる確率は、10の77乗分の1だそうです。
塾のダイヤル錠は3桁しかありませんでしたが、機能するタンパク質ができるためには、77のダイヤルがある錠を開けなければならないことになります。宇宙の誕生以降1秒に1回の割合でトライしたとしても、4.35×1017しかトライできないのです。それ以外にも、多くの条件が整っていなければなりませんので、不可能と言っていいでしょう。
地球ができたのは46億年前で、生命が生まれたのは38億年くらい前だと言われています。8億年もあればできるのではないかと思うかもしれませんが、生命は、地球が生命を維持できる環境になって1.5億年ほどで誕生したのです。ケンブリッジ大学のフレッド・ホイル博士は、単細胞生物が偶然にできる確率は10の4万乗の1に過ぎず、廃品置き場に竜巻が来てジャンボジェットができるようなものだと述べています。
実は、これは時間があれば解決できると言う問題ではありません。アミノ酸もタンパク質もすぐに劣化しますので、すべての条件が短時間で満たされなければいけません。タンパク質が細胞を形成するメカニズムも解明されておらず、まだまだ謎の世界なのです。
60年代後半、多くの学者は、タンパク質が偶然にできる可能性などないと考えるようになりました。偶然でなければ、何か必然性がないといけないということになります。カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校のディーン・ケニオン博士は、アミノ酸同士の相性でつながりやすいものとそうでないものがあると考えました。それによって特定の順番に並んでタンパク質ができると考えたのです。
彼は、ゲーリー・スタインマン博士とBiochemical Predestination(生化学的運命)を著し、化学進化の教科書として広く使われるようになりました。しかし、70年代後半、自分の説に無理があると判断し、80年代半ば、生物の起源の裏には知性がなければならないという結論に達しました。
特定の複雑さ
彼がそう考えた理由の一つは、DNAがデジタル・コードであるという事実です。コードに秘められた情報が一体どこから来たのか。進化が始まる前にこれらのコードが揃っていなければ生命は生まれません。また、DNAがあるだけではだめで、それを読み取ってタンパク質を作る機械がなければなりません。ソフトもハードも必要なのです。
コードには、「特定の複雑さ」があります。聞きなれない表現ですが、単なる複雑さではありません。例えば、地表は何億年もかけて堆積や風化を繰返し、様々な地形があって複雑ですが、いくつかのパターンがあります。これらのパターンは、すべて自然によるもので、「特定の複雑さ」はありません。
1799年、エジプトでロゼッタ・ストーンが発見され、エジプトの象形文字、デモティック文字、古代ギリシャ文字で書かれていました。それによって、エジプトの象形文字の解読ができたのです。これを発見した考古学者は、浸食によってできたとは思わなかったでしょう。自然にできたパターンとは違う「特定の複雑さ」があるからです。「特定の複雑さ」というより、「情報」と言った方が分かりやすいかもしれません。
SETI(地球外知的生命体探査協会)は、宇宙のかなたから送られているかもしれない宇宙人のメッセージを捉えようと試みています。信号が自然にできたパターンであるか、知的生命体から送られたものであるかの違いは、「特定の複雑さ」があるかどうかによって見分けることになります。DNAにもこの「特定の複雑さ」があります。ロゼッタ・ストーンも宇宙人からの信号も、情報は、必ず知性から来るのです。
進化論の研究で有名なリチャード・ドーキンス博士は、無神論者としても有名です。彼は、生物学とは、何らかの目的のためにデザインされたかのように見える複雑なものの研究であると述べています。多才な評論家として知られるベン・スタイン氏とのインタビューで、DNAの情報元について聞かれ、宇宙人が地球に生命をもたらしたのかもしれないと答えました。スタイン氏は、どうフォローしていいのか困っている様子でした。
その可能性がないとは言えませんが、宇宙人のDNAはどのようにしてできたんだということになります。また、NPR(National Public Radio)のインタビューで、生命の起源について聞かれ、幸運な化学的アクシデントだと述べたこともあります。彼自身、偶然と必然性を組み合わせた仮説をかなり前に発表していましたが、広く受け入れられることはなく、宇宙播種説やアクシデントのせいにするよりほかなかったのでしょう。
最良の説明への推論
科学には、「最良の説明への推論」と言う考え方があります。現象やデータを説明するために、最も妥当で合理的な説明を選択するというアプローチです。科学は、通常実験によって仮説を実証しますが、宇宙や生命の起源、地学などにおいては、実験ができないことが多いのです。そこで、最も適合性があり、シンプルに説明でき、また将来の予測ができる説明が正しいと考えるのです。ダーウィンも、これを使って進化論を構築しました。
これをDNAにあてはめると、このような「特定の複雑さ」を持つ情報は知性から発生したと考えるのが最良の説明と言うことになります。例えば、南極に人類が生息していたとは考えられませんが、仮に南極の洞窟で壁画が見つかれば、自然にできたとは考えられません。人類か、それに似た知的生物体が住んでいたという結論に達するでしょう。壁画には、ロゼッタ・ストーン同様「特定の複雑さ」があるからです。
研究が進むにつれ、50年ほど前から、DNAの情報は知性から発生したものとしか説明できないとする科学者がだんだんと増えてきました。その多くは有神論者ですが、無神論者もいます。有神論者は、その知性は神だと考えますが、これは「ギャップの神」だと非難する人もいます。科学では説明できない知識のギャップ(欠落部分)を、神の仕業と片付けてしまうことです。昔の人が、雷を見て神の怒りだと考えたようなものです。
化学進化の裏に知性が必要だとする考え方(intelligent design、略してID)が「ギャップの神」でない理由が二つあります。まず、この知性が神である必要はありません。知性が必要だと述べているだけです。
ただ、通常、知性は生物にしかありません。生物が生物を創造することはできませんので、デザインできるのは神しかいないと考える科学者が多いのです。しかし、それは個人の哲学的、あるいは宗教的意見であって、科学者としての意見は、あくまで何らかの知性による、というものです。別に宇宙人でも構わないのです。
二つ目に、ID論者は、説明できないから神の仕業だと言っているわけではないのです。「特定の複雑さ」を持つ情報の裏には必ず知性があるというのが最も妥当な説明であり、分からないから神を引っ張り出しているわけではないのです。説明できないのは、知性を原因の対象から外しているからなのです。
逆に、今は説明できないが、将来、必ず知性以外の説明ができるはずだと考える方が、ギャップの科学的唯物論と言うことにならないでしょうか。南極の壁画を見て、自然にできたと説明できる日が来ると主張するようなものです。
神は誰が創った
リチャード・ドーキンス博士は、その著書「神は妄想である」の中で、生物をデザインしたデザイナーは誰がデザインしたのだと批判しています。そのデザイナーのデザイナーが必要になり、永遠に続くので、何の答にもなっていないというのです。
しかし、科学的発見がなされると、そこから新しい疑問が生まれているのは当然です。その疑問が尽きることはないでしょう。彼の意見は、南極の壁画のデザイナーを誰が創ったのか分からなければ、答にはならないと言っているのと同じです。
彼がこのように考える本当の理由は、このデザイナーがいるとしたら神しかないということが分かっているからです。神を創ったのは誰だと、無神論者が有神論を批判することがよくありますが、考えてみてください。
ビッグバンが定説になるまで、多くの学者は、宇宙は永遠だと考えていたのです。宇宙が永遠だと信じることができるのに、神が永遠だと信じられないというのは、矛盾です。宇宙が永遠で、創られたものではないと考えることが科学的に許されるのであれば、神も同じです。
ID論の予測
「最良の説明への推論」の説明で、最も適合性があり、シンプルに説明でき、また将来の予測ができる説明が正しいと述べました。ID説は何も予想することができないと主張する学者がいますが、そんなことはありません。
ダーウィン主義者は、DNAの進化の過程で、役に立たなかった変異など、いわゆるジャンクDNAが多いだろうと推論しました。これに対して、ID学者は、知性がDNAコードを書いたとするなら、書いた後で多少の変異が起きたとしても、そのようなジャンクDNAは少ないだろうと考えました。
当初、タンパク質の組成に使われるコードは、DNA全体の一部に過ぎず、それ以外はジャンクDNAだと言われていました。しかし、それらのジャンクDNAが、実は他の働きをしているということがどんどんと解明されています。コンピューターのオペレーティングシステムのような働きをしているものもあり、DNAには、ファイルだけでなく、それらを保存する何重ものフォルダーもあるのです。
一つのタンパク質を作るのに必要な情報を一つのファイルに保存すると、容量が増えますので、他のタンパク質の情報と重なっている部分は、別のフォルダーに入れて、必要に応じてそれらを順番に読む込み事ができるようになっています。また、if…then…(…の場合は…する)などのアルゴリズムもあり、DNAが正しくコピーできなかったときに備えて、スペルチェッカーのようなものもあります。
また、情報の暗号化もできるようになっていますが、それはハッカーから守るためではありません。そのまま読み込んで得られる情報も、解読して得られる情報も、どちらも必要なもので、容量を減らすための手段であると思われます。ペンシルベニア州立大学の生物情報学者W.Y.チュン氏は、これらの存在は細胞の遺伝情報を濃縮させる多くのイノベーションの一つに過ぎず、偶然にできた可能性は実質的にゼロだと述べています。
最適者到来
「知識のある正直な人なら、生命の起源がほぼ奇跡に近いとしか見えないことを告白せざるを得ないだろう。非常に多くの条件が揃わなければならないからだ。」(フランシス・クリック)
「地球上の生命の起源の研究は、その答ではなく、問題の広大さを明らかにしている。すべての説は行き詰まり、無知を認めざるを得ない。」(化学進化研究者クラウス・ドーザ)
「我々は、偶然や必然性の代わりにIDを受け入れることは原則としてできないが、現在のところ、ダーウィン説による生化学系の進化の詳しい説明はなく、様々な希望的推論があるのみだということは認めなければならない。」(ケンブリッジ大学教授フランクリン・ハロルド著The way of the cell)
なぜ「原則としてできない」のでしょう。ダーウィンの進化論はsurvival of the fittest(最適者生存)に基づいた説です。しかし、arrival of the fittest(最適者到来)はどうでしょう。ダーウィンは、生命の到来が将来説明できるようになると考えていましたが、自らは、その説明を試みていません。
宇宙の微調整
宇宙にはいくつもの法則や定数があります。生命の存在を可能にするためには、これらが微調整されていなければなりません。ほんの少しでもずれていたら、生命を可能にすることができないどころか、星や惑星の存在さえ不可能になります。無神論者のジェラント・ルイス博士と、有神論者のルーク・バーンズ博士は、共著A Fortunate Universe(幸運な宇宙)で、以下のように述べています。
「我々の結論は、代替宇宙が、気圧が強すぎるとか、塩分が多すぎるとか、酸性が強すぎるとか、頑強な微生物でも汗をかくほど暑すぎるなどと言うものとは全く違う。…母数空間の極度は、熱いとか寒いとか言うものではない。原子は崩壊し、すべての化学反応は停止し、ブラックホールは潰れ、粒子が数兆年に一度ぶつかる宇宙の生活は永遠の孤独だ。」
「代替宇宙」とは、実在する宇宙のように微調整できていない想像上の宇宙のことです。例えば、ニュートンが発見した引力の式は、
F=Gx(m1xm2)/r^2
Fは引力の大きさ、Gは重力の定数、m1とm2はそれぞれの物体の質量、rは物体間の距離です。Gが定数ですが、これが10の60乗分の1弱ければ、宇宙は広がりすぎて星は存在しません。逆に強すぎれば宇宙は縮んでしまい、潰れてしまうのです。
宇宙の加速膨張は宇宙定数によって決まるそうですが、これはさらに微調整されています。10の90乗分の1ずれていたら、生命を維持できるような宇宙は存在しないそうです。
コロンビア大学の物理学教授、ブライアン・グリーン博士は、生命が維持できるようにこれらの定数が微調整される確率は、10の124乗分の一だと述べています。宇宙に存在する原子の数が10の80乗と言われていますので、いかに低い確率であるかが分かります。
微調整されなければいけないのは、法則や定数だけではありません。ノーベル賞受賞者のロジャー・ペンローズ博士によると、宇宙が誕生した時の質量やエネルギーのバランスも絶妙に微調整されているそうです。10の10乗の123乗分の1ずれていたら、生命を維持することは不可能であろうと述べています。
フレッド・ホイル(ケンブリッジ大学教授)は、確執的な無神論者で、ビッグバンも哲学的に受け入れがたいとして、定常宇宙論(宇宙は永遠に存在する)を信じていました。彼は、その後、宇宙の微調整研究の先駆者となり、こう述べています。
「この事実を常識的に解釈すれば、超知性的な何者かが物理をいじくったということだ。…自然界で無目的に働く力には、(微調整を説明するものとして)言及するに値するものはない。この事実に基づいた計算結果は、圧倒的で、疑いの余地がない。」
「これらの数値が非常に細かく調整されて、生命の誕生を可能にしていることは、驚くべき事実だ。」(スティーブン・ホーキング、ケンブリッジ大学教授)
「この宇宙の特徴を見て驚かないと主張する人は、砂の中に頭を埋めて隠れている。この特徴は、驚くべきことであり、あり得ないことだ。」(デイビッド・ドイッチュ、オックスフォード大学教授)
宇宙の微調整を提唱する学者の多くが、無神論でありながら超知性の存在を示唆していることを見ても、この説が有神論の科学者の宗教的動機によるものではないことが分かります。
オックスフォード大学のリチャード・ドーキンス教授は、生物学者としてよりも熱心な無神論者として有名です。彼は、「我々が観察する宇宙は、究極的に意図も目的も善悪もなく、盲目で情け容赦のない無関心以外には何もない、と仮定した場合に予想される属性をまさに備えている」と述べています。ドイッチュ氏によると、彼は頭を砂の中に埋めているということになるのでしょう。
この驚くべき現象は、どのように説明できるでしょうか。そうなる必然性があるか、偶然か、そのどちらでもないとすれば意図されたものとしか考えられません。先程のホイル博士の発言にもあるように、生命維持可能な宇宙ができる必然性はありません。
確率の低さを見ると、偶然こうなったと言うことは考えられませんが、この問題を説明するかもしれない一つの説が多元的宇宙です。多元的宇宙は無数の宇宙を創造するメカニズムが存在すると言う説です。無数の宇宙の中には、生命が可能なものもあり、私たちはその中の一つに住んでいると言うものです。
そのメカニズムは、ひも理論とインフレーション宇宙論に基づく仮説で、仮説の上に建てられた仮説です。私たちの宇宙から他の宇宙を発見する、観察する、観測することはできませんので、実証することはできません。それどころか、無数の宇宙を生み出すメカニズム自体に微調整が必要となり、問題はさらに大きくなるばかりです。このように、多くの仮説を立てなければ説明できない説は、科学的根拠がしっかりしているとは言えません。
最近、SF映画などでよく知られるようになりましたが、人気の理由の一つは、宇宙の微調整を説明できるかもしれないと言うことでしょう。これが、無神論科学者の心理的動機になっていると思われます。
物理学者レオナルド・サスキンド博士は、これなしにはIDに反論することは難しいとしながらも、多元的宇宙で微調整を説明するのは止めるべきだと述べています。IDとは、インテリジェント・デザインの略で、知性のあるものが宇宙や生命をデザインしたと言う考え方です。すべてを説明できる説は、何の説明にもならないということです。
2019年4月に「神と多元的宇宙」と言うブログを書きましたので、それも参考にしてください。これは、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のブライアン・キーティング教授のビデオをそのまま訳したものですが、多元的宇宙を信じる無神論者の動機を批判しています。このブログを読んで、彼は有神論者だろうと推測した方は多いと思いますが、実は不可知論者(神が存在するかどうかは知り得ない)です。
有名な無神論者であったクリストファー・ヒッチンス氏は、宇宙の微調整が有神論の最も強力な論拠であると述べています。しかし、もし神が宇宙を創造したのであれば、なぜもっと完璧な微調整をしなかったかと非難しています。
しかし、これは彼の価値観に基づいた判断にすぎません。ゴキブリの大軍を見て、宇宙はなんてひどいところだと考える人もいるでしょう。しかし、多くの人は、「母なる自然」という言葉に表されるように、自然、あるいは宇宙を素晴らしいものだと考えます。いずれにしろ、これは科学とは関係ありません。微調整の仕方や程度が気に食わないということは、微調整されていないということにはならないのです。
物理学者のサビナ・ホッセンベルダー博士は、その著書、Lost in Math: How Beauty Leads Science Astray(数学で道に迷う:美がどのように科学を迷わせるか)で、宇宙の微調整に科学的に答えることはできないと述べています。彼女は無神論者ですが、有神論の科学者はこの問題が形而上のものであることをわきまえていることが多いが、無神論者は物理的問題と捉えている人が多いと非難しています。
そもそも、宇宙の歴史をさかのぼると、138億年前のビッグバンにたどり着きます。そこまでは物理学の世界です。それ以前は、物も空間もエネルギーも時間もない世界ですので、物理的なものは存在せず、物理学(physics)の対象ではありません。フェイスブックが最近社名を変えてメタにしましたが、メタとは、何かを「超える」と言う意味です。英語では、物理の前にメタをつけると、metaphysics、つまり形而上学になります。
言い換えると、自然はビッグバンで始まり、それ以前は超自然で、自然科学の対象外です。しかし、唯物論者には、ビッグバン以前に何かが存在したと言う以外の選択はありません。何もないところから宇宙ができたということになれば、神のような形而上的存在を認めるよりほかないからです。
ホーキングは、神のような形而上的存在は認めませんが、無の世界に法則が存在したと述べています。彼は、その著書「神はいらない」で、引力の法則があれば、the universe will create itselfと述べています。直訳すれば、「宇宙はそれ自体を創造する」です。「それ」は宇宙を指していますので、言い換えると、宇宙は宇宙を創造すると言うことになり、意味を成しません。また、宇宙が存在する以前から引力の法則があると言うのはどういうことでしょうか。
オックスフォード大学の無神論者であるピーター・アトキンス教授は、全くの無から宇宙が生まれたと主張し、ビッグバン以前に何かがあったと主張する無神論者を非難しています。その彼も、無に関して説明を求められて、宇宙には正電荷と負電荷があり、差し引きするとゼロになるようなものだと述べています。資産と負債が同額であれば純資産がゼロになるという理論ですが、差し引きゼロでも正電荷と負電荷は存在するのでは…?
多くの無神論の哲学者は、著名科学者がこのようなお粗末な哲学的コメントをすることを迷惑がっているようです。特にホーキングは、「神はいらない」で哲学は死んだと述べておきながら、哲学的コメントをしているので、哲学者にとっては面白くないでしょう。彼は、出版前にこれを削除するように言われたそうですが、本がよく売れるという理由でそのまま残したそうです。ホーキングもドーキンスも、哲学に関しては素人なのです。
ギリシャ語にロゴス(logos)と言う言葉があります。これは、biology(生物学)やpsychology(心理学)などのように、学問を表す言葉の語尾によく使われます。言葉、理性、思考、言説、論理などの広範な概念を指します。古代ギリシャの哲学者たちは、「ロゴス」を宇宙の秩序や理性的な原理または真理に関連づけることがありました。
新約聖書はギリシャ語で書かれていますが、ロゴスと言う言葉が使われており、日本語聖書では「ことば」と訳されています。ヨハネによる福音書は、以下のように始まります。
「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに神と共にあった。万物は言によって成った。」
引力の法則が宇宙を生んだというのは理解に苦しみますが、ホーキングが主張するように、法則はビッグバンの前からあったのかもしれません。ホーキング同様、量子物理学の法則がビッグバン以前から存在し、それによって宇宙ができたと主張する学者もいますが、その多くは無神論者です。
タフツ大学宇宙学研究所所長のアレキザンダー・ビレンキンもその一人です。しかし、彼は、その著書Many Worlds in Oneの最後に、物も空間も時間もエネルギーもないのに、この法則を一体「何に書くというのか」と自問しています。彼は、この疑問に答えてはいませんが、法則やそれを表す数式は、概念上のものであり、概念は知性に宿ると述べています。
ニュートンに限らず、近代科学の先駆者たちは、神は秩序ある宇宙を創られたに違いないと考え、法則を発見したのです。聖書は、それはロゴスであり、ロゴスは神であると言っているのかもしれません。法則は、神と言う言葉に書かれているのではないでしょうか。宇宙ができる前に存在したのは神であり、法則は神の知性に宿っていたと考える方が、自然ではないでしょうか。
老化防止
私は、母の介護のため、4月初めにまた日本に戻ってきました。2年前の夏から、基本的に松山に住んで母を介護しています。4月7日は母の百歳の誕生日で、以前から楽しみにしていたカニ道楽でお祝いをしました。どなたも、百歳でこんな元気な方はいないと言ってくれます。百歳の日本人女性の平均余命は3年だそうです。母は元気ですので、105歳くらいまでは行けるのではないかと思っています。
一緒に住んでいると、認知が進んでいくのがよくわかります。数年前までは、毎月悪くなるのが分かると言う程度でしたが、今は毎週のように感じるようになりました。私自身、人の名前を思い出せなかったり、言葉が出てこなかったりすることが増えていますので、他人ごとではありません。私も、毎年悪くなっているのが分かります。
そんなわけで、テレビで認知症に関する番組があったりすると、注意して見ています。一番衝撃的だったのが、米国PBSの、70代認知症患者のインタビューでした。とてもきれいな英語で、ちょっと聞いただけでインテリの方だと言うのがすぐにわかりました。患者ではなく医者ではないかと思うほど聡明に、認知症に関する難しい話題について話をしていたのですが、彼の最後の言葉に驚きました。
「私はこんな風に普通に話せますが、5分もすると、今自分が何を言ったのか思い出せないんです。」
私が知っている認知症の人には、こんな人はいませんでした。認知症とは、簡単に言うと頭が悪くなる病気だと思っていたのですが、聡明な彼を見ていて、そんなものではないと気が付いたのです。私自身、物覚えは悪くなりましたが、思考能力自体はそれほど衰えを感じないので、まだまだ大丈夫と思っていましたが、安心はできません。
実際、先日見た番組によると、人間が文章を書く能力は67歳がピークだそうです。私は、今月68歳になったばかりです。文章力や計算能力とは関係なく、認知は進んでいくようです。
とは言うものの、認知が進んで、母のように昨日今日のことも忘れるようになってくると、正しい判断をするための知識がなくなりますし、判断能力自体も衰えてくるでしょう。私も、運転していて、とっさにどこで曲がるのかを忘れてしまったりすることが時々あり、何かと勘違いすることが増えています。
母も、忘れるだけであれば、私が正しい情報を伝えてあげればそれで済むはずです。しかし、そう簡単にはいきません。自分が間違っているわけはないと言い張ることが増えてきました。先程の男性のように、自分が認知症であることが自覚できる間はまだいいですが、それさえ分からなくなると大変です。
記憶力が衰えると言うこと自体は、歩けなくなるとか、箸が使えなくなるとか言った症状とそう変わりはないと思います。健常な人でも、物忘れのひどい人、物覚えの悪い人はいます。しかし、物事の判断ができなくなってくると、体力の衰え以上に、生きる意味を感じられなくなるのではないかと思ってしまいます。現実と妄想の違いが分からなくなるのです。
私は、自分が長生きして子供たちに迷惑をかけたくないと思っていたので、役に立たなくなったらすぐに死にたいと思っていました。ですから、それほど健康には注意していなかったのです。ある時、たまたまハーバード大学のデイビッド・シンクレア教授のYouTubeを見ました。そして、健康な人ほど、長生きしても、人の世話になる期間が短いと言うことを聞いたのです。
確かに、母はまだまだ元気で、私が一緒に住んであげなければなりませんが、トイレや着替えなどは自分でできます。それに比べて、何か持病のある人は、現代医療で治療しながら細々と長生きできますが、健康年齢が短く、人の世話になる期間が長いのだそうです。
シンクレア教授は、医学部の教授ではなく、専門は遺伝学です。老化のメカニズムの権威で、アンチエイジングの研究で有名です。細胞の老化を防ぐ、あるいは老化細胞を取り除くことが老人病全般に有効で、認知症もその一つなのだそうです。
私はこの話に興味を持ち、この教授の書いた本を読んで、さっそくそのアドバイスを取り入れることにしました。一般向けに書いてありましたが、非常に難しく、辞書を引いても、英語も日本語も分からない単語が山ほどありました。
彼が最も勧めたことは、インターミテント(断続的)ファスティング(断食)です。1日の食事を6~8時間くらいの間に全部すまし、後は何も食べません。この教授は、夕食しか食べないそうです。私は、お昼までに一日の食事を済ませるようにしました。
もう一つはビーガンです。ビーガンとは、菜食主義と違って、動物性のものは一切食べません。牛乳、チーズ、ヨーグルト、卵なども避けます。実は米国ではかなり流行っていて、ホノルルにもビーガン専門のレストランがいくつもあります。先日テレビで日本のビーガン・レストランを紹介していましたが、客の7割が外国人だそうで、それを見ても日本ではあまり知られてないことが分かります。
この教授は、魚は食べても良い結果が出ていると言っていましたので、魚介類は食べることにしました。ビーガンだけれど魚は食べると言うダイエットを、ペスクタリアンと言います。
私は糖尿で、2年前の検査ではヘモグロビンA1Cが6.9でした。正常値は5.6以下です。そのため、私は炭水化物を避けていましたので、逆に肉が多くなり、悪玉コレステロールが168でした。正常値は60~119です。炭水化物を減らすことによってヘモグロビンA1Cは6.0に下げることができ、糖尿予備軍程度になりましたが、もともと低かった血圧は140くらいに上がっていました。
この教授の本に、メトフォルミンと言う古くからある糖尿病の薬が紹介されていました。最近の調査で、この薬が、糖尿だけでなく、老人病全般によく効くと言うことが分かったそうです。この薬を服用している糖尿病患者は、服用していない健康な人より長生きすると言う結果さえ出ているのです。細胞の老化を防ぐのです。
そこで、私は、この薬を毎日1000mg服用して、今までほど炭水化物を避けるのを止めました。もちろん、デザートなどの甘いものは食べませんが、ある程度、穀物や麺類は食べるようにしました。これは、もう60年以上前から使われている薬で、安全性は立証されており、特許も切れていて、非常に安いのです。日本で買ったことがないのでわかりませんが、米国では3か月分で$5もしません。
メトフォルミンのおかげで、へモグロビンA1Cは5.5まで下がり、正常値になりました。悪玉コレステロールも95に下がり、これも正常値です。
また、この薬を飲んで痩せる人もいるそうです。私も、2年前は体重73.5キロでしたが、炭水化物を減らすことによって1年後66.7キロに減っていました。断続的断食、ペスクタリアン、メトフォルミンを始めたのは去年9月ですが、今年2月には59.5キロに減っていました。ウエストは、2年前に比べて17㎝も減り、長さを調節できないベルトは全部使えなくなりました。
痩せた原因がメトフォルミンなのか、断続的断食なのかは分かりません。断続的断食をしても、カロリー摂取量は変えてないので、多分メトフォルミンのせいではないかと思います。
2月の健康診断では、血液検査や尿検査のすべての数値が正常でした。こんなことは初めてではないかと思います。他にも、この教授の勧めに従って始めたことがいくつかありますが、長くなりますので、この辺にしておきましょう。子供たちや政府の世話になりたくないと言うことがきっかけで始めたことですが、やはり健康であると言うことは、本人にとって最もメリットがありますね。
最後に、メトフォルミンは、欧米ではその効用がかなり知れ渡っており、糖尿予防と言う名目で処方箋を出してくれる医者もいるそうです。日本ではトライしたことがないので何とも言えませんが、多分糖尿でなければ出してくれないでしょう。
欧米の先進国以外では、多くの国で処方箋なしで購入できます。私も、タイに行ったときに試しに買ってみました。メルクと言う有名なドイツの製薬会社の製品で、米国で買ったものと見た目には全く同じですが、保険がききませんので、1か月分で1,500円くらいだったと記憶しています。ご参考までに。