3、授業(じゅぎょう)
Classes
今日は新学期が始まったばかりだから、授業を取る参考に
してもらうオリエンテーション授業だ。学生は、この3週間ほど
で1年間の時間割を作る。単位をうまく取れるように配慮しな
がら、自分の進む道に沿った授業を取って行く。その1年間に
やって行く授業の導入がオリエンテーション授業だ。俺は、
言語文化史を担当しているから、日本人の文化と言語の関わ
りを示して行く必要がある。古代の言語の力を今と同じように
考えると、日本の歴史は説明し難くなる。だから、歴史上、
最初の言挙げをしたといわれる事件を取り上げるつもりだ。
「!」
えっ?。まさか!。慌てて俺のアンチョコ・ノートを見る。
そこに並んでいる文字群。ヤマトタケル。驕り。言挙げ。
教室に入り挨拶もそこそこにノートPCをインターネットに
接続。 待つ時間がやたらと長く感じる。つながった途端、
ウィキペディアで「言挙げ」を検索。
「言挙げ(ことあげ)とは日本の神道において宗教的教義・
解釈を「ことば」によって明確にすることを言う。」
とあり、続いて概要に
「『古事記』の中巻には伊吹山の神を討ち取りに出かけた
ヤマトタケルが白猪に遭い、「これは神の使者であろう。
今殺さず帰る時に殺そう」と「言挙げ」する場面がある。
この際の用例が現存最古のものとされる。またこのヤマト
タケルによる言挙げがその慢心によるものであったため、
神の祟りによって殺されてしまった。このため、自分の意志
をはっきりと声に出して言うことを「言挙げ」と言い、それが
自分の慢心によるものであった場合には悪い結果がもたら
される(「言霊」の項より引用)と解釈されている。ただし、
「ことば」は広義には「身振り」など音声以外の要素も含む
ものであり、「身振り」(所作)を重んじるとする現在の多くの
神道諸派も、広義には「ことば」を重視するものとされている
(「言語」参照)。ただし、神道家自身は「神道は言挙げせず」
(後述参照)と言明し、現在では神道の理論闘争を避ける
ことが多い。」
とある。俺の書いたノートにある「タケル」。「驕り」が「慢心」
になってる。さっき、教授棟の廊下にいた女子が使った
言葉に符合する。
(なんだ、そういうことか・・・。)
コンピュータ・オタクの女子がウィキペディアで、調べた
成果を使って俺を驚かせにやって来た。効果は充分有った
という訳だ。一人で納得して、教室を見回してみると
「!」
絶句した・・・。沙羅の顔を持つポニーテールの女子が4人、
教壇からすぐ近くの前から3列目右端と左端、後ろのドア近く
の後ろから2列目右端と左端に結界を張るように座っている。
(4つ子?!)とも思ったが、これだけの美人4姉妹が入学し
て来たら、少しは噂が耳に入っている筈だ。
直接脳に響いて来る《声》。音としてではなく、何とも不思議
な感覚のイメージが脳にビリビリと伝わって来る・・・。
《帰りまでの命なのに授業に出て来るとは、随分と真面目な
センセイなんだねえ。》
《祈り釘なら夜中までは大丈夫だとタカをくくってるんじゃな
い?。》
《いまどき、真夜中に人通りがない場所なんて東京にあ
る?。》
《すぐに効果のある方法すら知らないのかも知れないよ。
ふふふふふ。》
ステレオのようにそれぞれの位相差を伴って響いて来るか
ら、誰が思っている言葉かは伝わって来る。4人とも右手首
にそれぞれ違う天然石の数珠(じゅず)のように見えるブレス
レットをしていてそれぞれ意味有り気なものを持ってる。
向かって前左が透明のクオーツのようなブレスレットをして、
隣の席に大きなマンドリン・ケースのようなものを置いている。
前右はジェード(翡翠)のように見える緑色のブレスレット
をして、聖書のような本を机の上に置いている。
後ろ左はラピスラズリのようなブレスレットをして、
革表紙のノートを机の上に広げている。
後ろ右はカーネリアンのような紅色のブレスレットをして、
漫画らしきものを机の上に閉じて置いている。
まだ授業の登録をする前だから、名前もわからない。この
4人だけ、名前を聞く訳にも行かないし、どうしたらいいのか
考えあぐねていた。
その時、後ろ右の翡翠のブレスレットをした女子の隣に
座っている男子生徒が、
「俺も、それ好きなんだ。映画も全部観に行ったよ(^^)。」
と 笑顔で声を掛けている。見つからないように囁くような声
だが、こういう時は、かえって前まで響いて聞こえやすいか
ら、俺は聞き耳を立てていた。後ろ右の沙羅似の子は返事
もせずにいたが、男子は構わず続けていた。
「あの映画、主役は藤原竜也じゃなくて、松山ケンイチだよ
ね?。」
?・・・。・・・!。あっ、「デスノート」!。そんなのありか?。
ということは後ろ左端の女の子が広げているのはデスノー
ト?。本物のサタンの子に見えて来た。祈り釘より始末が
悪い!。
「先生、言語文化史でボディーランゲージを見せてくれてい
るんですか?。授業が始まって5分くらい経ってますけど、
一言も喋らずに顔色だけはコロコロ変えてますよね・・・。
コンピュータを触っていたと思ったらホッとしたような顔を
して、教室の前や後ろをきょろきょろしたかと思ったら
ギョッとしたような顔になって・・・。パントマイムでもやって
るみたい・・・。」
教室内爆笑・・・。教室内真ん中辺りのメガネをかけた
女子の発言。俺はそれどころじゃなかった。が、気を取り
直して、
「おー、よく解ったね。これから1年間、この授業を担当
する『やまと ひろし』だ。よろしくお願いします!。」
と 何とか言い切った。口の中がカラカラだった。
水差しから水を一口飲んで、授業を始めた。ヤマト
タケルの言挙げ失敗の話をしているうちに、今夜の自分
に起こるかも知れない不吉なイメージと重なり、気持ちが
悪くなって来た・・・。
ふと、自分の苗字が気になった。
ヤマトタケル。山門博士。 ヤマトヒロシ。ヤマト・・・。
俺は、ヤマトタケルの末裔だなんて、馬鹿げた話がある
のだろうか?。 それに、この4人の沙羅似の子達は
何者なんだろうか?。
《準教授のクセに不勉強ですね。》
誰だ?。男子の声が脳に響いて来る。
《彼女達は四面神サラスヴァティーの化身です。あなたは当然
ヤマトタケルの子孫。僕は大黒大自(おおぐろだいじ)。あなた
の高校の同級生の柴田在天(しばたありひろ)の従弟(いとこ)
です。》
どういうことだ?。あまりにも知らない言葉やわからない内容
の話を羅列されると言葉は耳(脳)に入ってくるけど、喋ってる
言葉の意味が取れない。柴田の従弟?。なんで、彼女達が
何者か知ってるの?。それに、俺がヤマトタケルの子孫だなん
て本人も知らないことを、なんで君が知ってるんだ?。
大黒くんて、どの子?。
《邪魔が入ったぞ。》
《まずい。大自在天(大黒天)の化身だ。》
《柴田って、まさかシヴァ神の化身もいるのか?。》
《バカ!。大黒天とシヴァは同じだ。とにかく、この場は引き
揚げよう!。》
気がつくと例の4人の沙羅似の女子は消えていた。俺は
授業を15分も早く切り上げて、心の中で
《大黒くん!。居たら教壇の前に出て来てくれ!》
と心の中で叫んだ。
《今はまずいので、後で教授棟に伺います。出来るだけ早く
行きますから。》
《頼むよ。命が係ってるんだ。俺は何もわかっていないこと
だけは判って来た。》
《そうですね。全てはあなたが高校生の時から動き出して
いたんです。》
《えっ?。そんな前から?。》
《そうです。今日は、もう授業はないんでしょう?。後で対策
を立てましょう。その前に現状を認識していただく必要があり
ます。部屋で待っていてください。では。》
一体、今、何が起きているんだ?。高校の時から既に動き
出してたって、何が動いてたんだ?。訳が解らないまま、
とにかく教授棟の俺の部屋に戻り、大黒くんが来るのを
待った・・・。10分、20分、30分・・・、遅いぞ、大黒くん!。
・・・待ちくたびれた。俺の命の期限は、本当に今日の夕方
なんだろうか?。1時間ほど経った頃、ノックの音。来た!。
「遅いぞ!。首を長~くして待ってたよ!」
と言いながらドアを開けると、そこには柴田と根本も立ってた。
1番若い細身の子が、大黒くんだろう。あれ?。この子は革
表紙のデスノートを持ってた後ろ左端の子の隣に座ってた子
みたいだけど・・・?。そういえば、4人が消えた後、彼も
居なくなってたような気がする・・・。
柴田が言う。
「おー、久しぶり!。帰りまでの命なんだって?。じゃあ、
帰らなければずーっと大丈夫だぜ^m^。」
俺は慌てて
「一生帰らない訳にも行かないだろ?。」
「おまえねー、今日の帰りまでって命の期限切られてる
のに帰ることを前提にしてるって、どういう頭してんの?。」
ん~・・・。柴田の言うことは、意外と正論かも知れない。
「在天(ありひろ)ちゃん、先生にそんなに意地悪言わなくて
も・・・。」
ありひろちゃん?。あ、いとこだって言ってたな。大黒くんが
柴田を諌めてくれた。ちょっと感謝する。大黒くんは、あらた
めて俺の方に向き直って、
「遅くなってすいませんでした。これに書かれちゃうと面倒だと
思ったもんだから、授業を抜け出してこのノートを奪取して
来ました。山門先生の命はとりあえず大丈夫です。」
彼の手元を見ると・・・
「!」
彼は後ろ左端の女子が持っていた革表紙のノートを持って
いた。
「おー、ありがとう!。あ~、助かったあ!。」
俺は、とっても感謝した。でも、名前が書かれてたら・・・。
「ほら、この通り、何も書いてありません。本物のデス・ノート
かどうかも疑わしい代物です。」
パラパラとノートの中を見せてくれた。何も書いてない。でも、
あぶり出しになってたりして・・・。
「インクや果汁の痕跡はありませんでした。それから、あの
4人の女の子は、今回選ばれただけだと思います。近くで見る
と、少しずつ違ってました。身長もスタイルもかなり似ていまし
たが、メイクがほぼ同じで、先生のところから見ると同じ人間に
見えたでしょうね。僕もすぐ近くで見て、やっと気付いたくらい
ですから・・・。でも、我々と同じ言語形態は持っているようです
ね。そうすると、彼女達も神々の末裔ではあるのかも知れま
せん。後で調べてみますよ。どうです?。少しはホッとしてもら
えました?。」
俺は、心から安堵した。
・・・でも、いつの間に?。授業が終わった後、テレパシーの
ような会話ができたのに、これを持って来るために時間が
掛かったんでしょう?。どうして話せたんだろう?。
「周波数を合わせれば、距離は関係なく会話できますもん。」
?。周波数ってラジオじゃないんだから・・・。
「人間のことを神はメディアって言います。神の意思を伝える
媒体だからです。我々は、受信も発信もできる優秀なメディア
です。ラジオだって周波数を合わせれば結構発信源から離れ
ても聞こえるでしょう?。」
「でも、俺、急にそんなことができるようになった訳?。さっきま
では間違いなくできなかったよ。」
「いいや、出来てた筈だよ。」
同級生2人が口を揃えて言った。
でも、なんで柴田や根本までが、ここに居るんだ?。
「ドク太。おまえ神話は好きだけど信じないって言ってたよな。」
柴田が言う。
「ああ、好きだよ。でも、奇想天外な話ばかりだから、実話とし
ては信じないって言っただけだぜ。」
「あれは全部本当にあった話をまとめたものなんだぜ。だから
今でもその子孫達が居るんじゃないか。」
柴田が真面目な顔して言う。根本が申し訳なさそうな顔をして
「ドク太!。すまん。許してくれ。」
「ん?。なに謝ってんだ、根本?。」
根本は思わぬことを口にした。
「沙羅と喧嘩しちゃってな。俺が悪いんだけど・・・。」
「?。何でそれが俺に関係するの?。確かに沙羅似の子
に驚かされたけど、沙羅じゃないじゃん。意味がわかん
ないよ。」
その場に居た俺を除く3人は、やっぱり知らないんだ、
というドヤ顔をして見せた。中でも1番ハッキリ大きく
「ほらね」という顔でうなづいたのは大黒くんだった。
にほんブログ村