「前田日明チャンネル」とは?第3回(最終回)「天涯の標」 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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「前田日明チャンネル」

                 とは?

~インタビュアー・片田直久さんに訊く~

人気YouTube「前田日明チャンネル」とは?


  2019年に立ち上げた伝説の格闘王・前田日明さんのYouTube「前田日明チャンネル」は好調で、10月7日段階でチャンネル登録者数18.4万人と人気YouTuberの仲間入りを果たしています。

 

「前田日明チャンネル」とは、博学、多趣味、最強の肉体と志を持つ前田さんが、その奥深き魅力と新たなる一面を、時にゲストを迎え、時に街に繰り出し、余すことなくお届けする動画配信を行っています。プロレスや格闘技だけではなく、政治や歴史、グルメ、都市伝説、仏閣巡り、対談企画などその内容は多岐に渡ります。
  

 

 

YouTube「前田日明チャンネル」

 

(画像提供:「前田日明チャンネル」)

    この「前田日明チャンネル」において対談や企画の進行を担当しているのが、インタビュアーの片田直久さん。

 片田さんの優秀な質問力と適応能力は動画のコメント欄で「相変わらずインタビュアーが優秀で聴きたい話を余すことなく引き出してくれる」「このインタビュアーがリードする前田さんの解説は毎回安定している」と絶賛されています。


    前田さんの動画に欠かせない片田さんは今やこのチャンネルの名物キャラクターなのです。そんな片田さんはこのような経歴の方です。

片田直久(かただなおひさ)
1968年宮崎県日向市生まれ。企画・取材・執筆・編集業者。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2009年より情報誌編集部で政治・経済・医療を担当。作家・大下英治氏の事務所でスタッフライターを務める。

読む・聞く・書く・話す・編む。
YouTube「前田日明チャンネル」インタビュアー。 
著書『タモリ伝』(コア新書)。 
宮崎県日向市細島港で産湯。 
首輪のない猟犬。 
宮仕えの皆様よりも勤勉な(当社比)痴れ者。
「その人の歌わなかった歌」に耳を傾ける日々。
公益社団法人日本ジャーナリスト協会運営委員。



 今回、人気YouTube「前田日明チャンネル」で聞き手を務める片田さんとの対談企画が実現しました。

 

 

フリーライター・片田直久さんとの対談最終回



 テーマは「前田日明チャンネル」とは?。片田さんの経歴から人気YouTubeチャンネルの凄さと魅力と舞台裏、そして今片田さんが取材を進行されている前田さんにまつわる書籍まで、あらゆる角度から片田さんにお聞きしました。「前田日明チャンネル」の名インタビュアーである片田さんに僭越ながら色々と質問させていただけるなんて本当に光栄です。

 第1回は、片田さんの経歴について迫りました。

 

 

「前田日明チャンネル」とは何か?第1回 「インタビュアー・片田直久さんとは?」 

 

 

 

 

  第2回はプロレスや格闘技とはライターとしてあまり縁がなかった片田さんがどのようなきっかけで「前田日明チャンネル」に関わるようになったのか、また「前田日明チャンネル」の凄さと魅力について語っていただきました。

 

 

 「前田日明チャンネル」とは?第2回「格闘王との邂逅」 

 

 

 

 

 

    そしてこの第3回は現在片田さんが取材中の前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本について迫ります。「前田日明チャンネル」インタビュアーである片田さんですが、実はYouTubeに参加する前から前田さんの書籍企画を考えていました。数々の前田さん関連書籍が世に出ている中で、片田さんはなぜ今、前田さんの書籍製作に挑むのでしょうか?

 

 

「日刊サイゾー」さんで掲載されたネット記事「天涯の標」

 

 

  【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.1】「お前は先に行っていろ。俺も後から行くから」|日刊サイゾー (cyzo.com)

 

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.2】マイナスからの船出、選手を探す航海へ|日刊サイゾー (cyzo.com)

 

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.3】群雄割拠の中、“最強の格闘技”を目指して|日刊サイゾー (cyzo.com)

 

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.4】幻のヒクソン戦、奇跡のカレリン戦、そしてPRIDEとの相剋|日刊サイゾー (cyzo.com)

 

 

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 最終回】格闘界に放たれた進化する遺伝子たち 

 

 
 

 2021年6月、ウェブメディア「日刊サイゾー」さんに「リングス旗揚げ30周年記念 短期集中連載」と題して掲載された片田さんの記事。こちらの記事では主に前田さんのロングインタビューと新日本プロレス入門から今日の前田さんに至るまでの人生と格闘技の歩みを写実的に重ねながら綴られた記事です。

 

 この連載のタイトルである「天涯(てんがい)の標(しるべ)」には色々と読み手に詮索させたくなる意味深きネーミングである。天涯(てんがい)とは、空のはて、空のかぎり、きわめて遠いところ、故郷を遠く離れた土地という意味。標(しるべ)とは、目じるし。 また、目標という意味です。

 

 元々は空手少年だった前田さんが紆余曲折の末にプロレスラーとなり、強さを追い求めていくが故に妥協なきレスラー人生を歩んでいきます。そして自身のホームであるUWFが内部分裂、選手は誰も前田さんに追随しませんでした。傷心と孤独の果てに、心の無人島に漂流することになります。ただ前田さんは諦めませんでした。彼を支援する関係者の協力を経て、「世界最強の格闘技はリングスが決める」を合言葉に躍進していくのです。空の果てにたどり着いた前田さんの目標とは何だったのでしょうか?私個人はとても気になります。

 

    私は前田さんがやられていることがすべて正しいとは思いません。前田さんは好きですが、やっぱり賛否両論はあると思います。ただ客観的視点と全体像を捉え、きちんとした評価に基づいた前田さんについて書かれたノンフィクション本の誕生をずっと待ち望んでいました。

 

 

 私は以前Twitterで「前田日明さんの本はたくさん出ていますが、彼の生涯を追ったノンフィクションってパッと浮かばないんです」とツイートしたことがあります。個人的には例外では元週刊ファイト副編集長・波々伯部哲也さんや元ゴング格闘技編集長・熊久保英幸さんに関しては、前田さんの生き方を文章できちんと伝えてくださっている印象があります。波々伯部さんの「週刊ファイトとUWF」なんて、波々伯部さんじゃなければ書けない前田さんの「生の声」が詰まっていて、最後は前田さんにインタビューをされています。

 

 

 

  ちなみに私も2015年に前田さんについてブログで取り上げたことがあります。前田さんへの思いは強いです。

 

1986年からの前田日明~カリスマとなった俺達のアキラ~/前田日明【俺達のプロレスラーDX】 

 

 

 

 

 

   では片田さんはどのような思いで、前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本の取材を行っているのでしょうか?私はサイゾーさんの記事タイトルにある「天涯の標」と現在の片田さんのTwitterプロフィールに記載されている「前田日明とリングスが辿った総合格闘技への移行的混沌を取材中」がキーワードになるのではないかと思いながら、片田さんに本について色々とお聞きしました。やや踏み込んだ内容になっているかもしれません。ではご覧ください。

 

 

 

ライター・片田直久さん✕プロレス考察家・ジャスト日本の対談企画

人気YouTube「前田日明チャンネル」とは?

第3回(最終回) 「天涯の標」

 

 

塩澤幸登さんについて

 

ーーここからは、現在片田さんが取り組んでいる前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本について色々とお聞きします。これまで前田さんに関連している書籍は数多く発売されています。これは先ほどから申し上げていますが、近年でいいますと作家の塩澤幸登さん(映画監督・黒澤明、野球、UWFについての著作を執筆している)が携わる書籍が多いという印象があります。片田さんは塩澤さんについてどのように思われていましたか?

 

片田さん 塩澤さんご本人にはお会いしたことがありません。あくまでお書きになったご著書を拝読した上での感想です。一言で言えば、残念。これに尽きます。塩澤さんのご著書についてはすでに多くの方が疑義を呈しています。ここでは繰り返しません。

 

ーー同感です。あと塩澤さんが関わった前田さん本は、残念ながら関係者や読者からの評価は芳しいですね。

 

片田さん 一つだけお話しします。ノンフィクションは事実に依拠し、解釈を提示する文芸です。収集した事実に瑕疵があると、そもそもの根底が揺らぎます。解釈に正解はありませんが、間違いはある。そういうことです。編集者や版元にも問題があったのかもしれません。それにしても、とは感じます。Show大谷泰顕氏による一連の「活動」同様、他山の石と捉え、自分の仕事に取り組んでまいります。

 

 

柳澤健さんについて

 

 

ーーわかりました。ありがとうございます。それと前田さんについて綴られるならば、『1984年のUWF』の作者である柳澤健さん(『1976年のアントニオ猪木』や『日本レスリングの物語』『2016年の週刊文春』とヒット作を生み出すライター)について触れなければなりません。片田さんは、柳澤さんについてどのように思われますか?

 

片田さん 私などが申し上げまでもなく、プロレスや格闘技をテーマにしたものにとどまらず、ノンフィクションの書き手として調査力・構成力ともに抜きん出た資質をお持ちの方です。ご著書はほとんど拝読しておりますし、刊行イベントにも何度か足を運んでいます。亡くなった井田真木子さんの遺稿集の刊行に尽力された点にも敬意を抱いてまいりました。

 

ーーひとりのライターとして柳澤さんに対して敬意もあるわけですね。

 

片田さん ただ、柳澤さんの視点に全面的に同意するのであれば、新しい本を世に問う必要はありません。

 

ーー納得しているならば、新しい本を世には問わないわけですからね。ここで踏み込んだ質問をさせていただきます。柳澤さんは『1984年のUWF』を製作する際に、エースである前田さんに取材せずに執筆されました。その理由として以前、柳澤さんは田崎健太さんとのトークイベントで「すでに前田史観が確立されていて、多くの皆さんが知っているUWFの歴史は前田史観によるUWFの歴史。その史観から解き放たれて自由なものをみたい」と語ったそうです。

 

片田さん そうですか。

 

ーー柳澤さんの『1984年のUWF』はプロレスライターの斎藤文彦さんはさまざまな事実とは違う点を指摘した上で「サイテーの本」と批判したり、船木誠勝選手や元UWF社員・川崎浩市さんといった関係者もその内容に疑問を呈しています。この点を踏まえた上で片田さんのご意見をお伺いしたいです。

 

片田さん (『1984年のUWF』で取り上げている)30年前の出来事はまだ生乾きで「歴史」になりきっていません。文学や美術の作品を同時代人が評価するのは難しい。それと似ています。本来ある意味での歴史や批評を書くのは後世の人々の役割ではないでしょうか。

 

ーー確かにそうかもしれないですね。

 

片田さん だからこそ、いずれ歴史を記すであろう誰かにとって少しでも有益な材料を遺したい。口はばったいことを言うようですが、私に手法や原理、原則のようなものがあるとすれば、次のような点です。

 

ーーはい。お聞かせください。

 

片田さん まずは「人間」と「制度」の両方に軸足を置くこと。ただし、本来私個人が抱いている興味はあくまで前者にしか向いていません。制度を作るのは人間であり、自ら作ったそれに縛られるのも人間。ただし、制度は人間を作れないと思うんです。

 

ーーこれは片田さんがノンフィクションを手掛ける際の信条ということですね。

 

片田さん 政治や企業、医療、貧困などを書く際にもあくまで人間の営みとして捉えてきました。多くの先人が指摘する通り、「取材は作業仮説の検証」です。週刊誌の現場では「見出しから企画を立てる」発想に頼ることが多くあります。それも「仮説」の範疇ですから、否定はしません。ただし、編集者やライターが机の上で組み立てた程度の仮説の強度はしれています。実際に人に会うと、簡単に覆されることも珍しくありません。その場合、面倒でも分岐点にまで立ち戻って考え直す必要が出てきます。自説に拘泥し、自らの見立てを補強するために偏った取材をしたり、取るべき証言を落としたりする手つきもあるのでしょう。しかし、私はそこに加担するつもりはありません。事実に対しては誠実でありたいからです。実力のない書き手である以上、せめて多くの方にお話を聞くくらいのことはしたいと考えています。

 

 

ーーこれは私個人の意見であり、解釈です。ライターならば他人の作品をただ批判するのではなく、異を唱えるのならばきちんと作品を出して世に問うべきだという信念を、私は今の片田さんの発言から伺うことができました。このような答えにくい質問にお答えいただきありがとうございます。では次に質問に移ります。前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本を手掛けるにあたって、どのような作品にしていこうというイメージはありますか?

 

片田さん 定義され得ない存在・前田日明を中心とする群像劇です。現在進めている作業はリングスの歩みを時系列で追った年譜に基づき、当事者の証言を拾い集めること。多数であることも大事ですが、多様な視点が欲しいと思っています。登場人物たちの声が共鳴し合いながら、時に齟齬や迂回を来しながらも大きな流れに収斂していく。そんな物語を構想しています。ただ、繰り返しになりますが、現場で補正の必要が生じる可能性は常にあります。着地点はまだ見えません。

 

 

「前田さんからこの人は取材しないでほしいとはおっしゃらなかった」前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本は壮大な群像劇

 

 

ーーこれはリングスに関わった多くの皆さんには取材をしているような感じですか?

 

片田さん 断られることもあるでしょうが、可能な限り関わった方々にお会いしたいと思っています。

 

ーー聞くところによりますと、山本宜久さん(元リングスの若きエース、あのヒクソン・グレイシーを追い詰めた前田さんの後継者として期待された大器)を取材したそうですね。

 

片田さん お会いしました。

 

ーー山本さんはどんな方でしたか?

 

片田さん 会場での観戦や映像、活字を通しての印象通りの方でした。

 

ーーハハハ(笑)。その答えだけで十分です(笑)。よく伝わります。前田さんのクローンみたいな方ですよね。

 

片田さん リングス・ジャパンの選手何人にかはすでにお会いしています。皆さんそれぞれに「前田さんのお弟子さん」だとあらためて感じました。「前田日明」の素養や器量、経験は選手たちに分割して継承されたのかもしれません。

 

ーーちなみにリングス・ジャパンで前田さんに次ぐ第二の男と呼ばれていた長井満也さん(リングス在籍時には幾度も前田さんと衝突があったと噂され、退団。現在もプロレスラーとして活躍している)には取材されたのですか?リングス・ジャパンでは、長井さんに取材できるのかはポイントかなと思っているのですが…。

 

片田さん お会いするつもりです。

 

ーー過去に前田さんと色々とあった長井さんの証言というのは、片田さんが手掛ける本の客観性はでるのかなと勝手ながら思いますよ。そこで新たな事実も分かるかもしれませんから。

 

片田さん 取材に入る前の段階で前田さんには本の方向性についてお話ししました。でも、その席で「この人はダメ」「この人は取材しないでほしい」とはおっしゃらなかった。大変ありがたいことです。

 

ーーさすがですね!上井文彦さん(元新日本プロレスマッチメーカー。ビッグマウス時代に前田さんと金銭トラブルが発生し、「いつかボコボコにする」と名指しで批判されたプロレス関係者)以外は大丈夫かもしれませんね。

 

片田さん いや、上井氏にもご連絡する予定です。

 

ーーそうなんですか!では前田さんと因縁がある佐山聡さん、髙田延彦さん、安生洋二さんといった皆さんはどうなのでしょうか?

 

片田さん 同様です。取材を申し込みます。

 

ーーあとこれはお聞きしたかったのですが、リングスではマッチメーカーが必ずしも前田さんではなかったという話を聞いたことがあるんです。治郎丸明穂さん(フリーライター。近年は、光呼吸ヒーリングのセラピストとしても活動)とか。

 

片田さん ご連絡する予定です。

 

ーーリングスでマッチメイクや運営に関わっていた皆さんの証言はかなり貴重なものになりますよね!

 

片田さん 「運動体としてのリングス」がテーマですから、関係者にはできるだけ多くお目にかかりたいですね。

 

 

日刊サイゾーさんの短期連載名を「天涯の標」と名付けた意味とは?

 

 

ーーちなみに日刊サイゾーさんでの短期連載名は「天涯の標」でしたが、書籍もそのままのタイトルになるのでしょうか?

 

片田さん まだまだ先の話なので、何とも申し上げられません。「天涯」は地の果て、「標」は行く先を示すものの意味です。大阪の街場で「路上教習」に明け暮れていた若者が意に沿わない形でプロの世界に入り、キャッチレスリングと出会う。師の教えをひたむきにひたすらに具現化する。ついには世界中の強豪が一つのリングで闘う場を築き上げる。前田さんは私の取材で「ゴッチさんの技術があったおかげで俺はリングスを作れた。世界でいろんな選手とスパーリングしたけど、誰にも取られませんでしたよ。『ああ、やってよかったな』って思うことがいっぱいあった」とおっしゃいました。打たれましたね。総合格闘技の最終形態など誰も想像できなかったところから終着地の見えない旅に出た。生まれたところを遠く離れ、帰る場所もない前田さんにとってゴッチさんの教えや「仲間」の存在が辿り着く先を示してくれたんじゃないか。そんな思いを「天涯の標」に込めました。ただ、タイトルはわかりやすさが大事です。これだけ長々と説明しなければならない時点でどうかとは思います(笑)。

 

ーー「前田日明」という名前はタイトルに入るでしょうか。

 

片田さん 入るかもしれませんね。

 

ーーリングスを中継していたWOWOWさんは取材されたのですか?

 

片田さん スタッフの方にお目にかかりました。

 

ーーリングス放映に関わったWOWOW元取締役・桑田瑞松さんにはお会いしたのですか?

 

片田さん まだです。お願いはしてみます。

 

 

「前田はいいヤツなんだ…」リングドクター・野呂田秀夫さんへの取材はなんと5時間!

 

 

ーーリングスに関しては選手やスタッフだけではなく、強豪相手や支援者の方も含めると相当数の証言者がいるわけですよね。リングドクターの野呂田秀夫さんとか。

 

片田さん リストアップしてみたら、100人を軽く超えて愕然としました(笑)。野呂田先生にはすでにお会いしています。

 

ーー野呂田さんは外せないですよね。平直行さん(元格闘家。人気格闘漫画『グラップラー刃牙』主人公・範馬刃牙のモデルとなったと言われている天才)が書かれた『U.W.F外伝』で、野呂田さんは平さんに「前田は本当に私利私欲がない。『俺はどうなってもいいんです。自分についてきた選手やスタッフを路頭に迷わせるわけにはいかない』って。あいつは誤解されている。いいヤツなんだ、漢なんだ」と語っていたそうです。

 

片田さん 取材時間は5時間近くに及びました。本当に厚かましい取材者で恐縮しています。現場の感覚ではあっという間でした。

 

ーー話は反れるかもしれませんが、「現在進行形のUWF」といえるハードヒットとLIDETUWFについて、片田さんはどのように思われますか?

 

片田さん 会場で一度も観戦していないので、断定的なことは申し上げられません。今、リングスについて調べて書く以上、見ておく必要はあると考えています。

 

ーー日刊サイゾーさんの記事を読ませていただいた限りは、リングスの歩みを振り返った上で、現在の格闘技界の流れに繋いでいた印象があるので、ハードヒットやLIDETUWFに関して、UWFの総大将だった前田さんがどのように思われているのか個人的には気になるところです。

 

片田さん 前田日明チャンネルのライブ配信でご質問にお答えする形で触れたことがありました。試合はまだご覧になっていないのではないでしょうか。

 

ーー今のお話をお伺いする限りは前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本は、いい本になると思います。期待しかありませんよ!

 

片田さん リングスを通過することで多くの人たちの人生が変わりました。リングス・ジャパンに集まり参じた選手たちはもちろん、国内の「さまよえる格闘家」たち、ロシアやオランダなどネットワーク所属選手、後期には総合格闘技界のまだ見ぬ未知の強豪たち。卑近な例ではありますが、ファンである私もその一人です。人間が変わっていくさまを丹念に追いたいと思います。

 

ーー大作の予感がします。ちなみにいつ頃、発売予定とか決まっているのですか?

 

片田さん 取材だけでも週にお2人のペースで1年を超えます。ただ、いたずらに引っ張るつもりもありません。『アストロ球団』じゃないんですから(笑)。版元のご理解を得ながら進めているところです。

 

ーー前田さん信者、リングスファンが「この本に出逢ってよかった」「後世に残るノンフィクション本」だと納得できるような作品を目指してください。あと歴史を記す貴重な文献になることに期待していています。「信長公記」(戦国武将・織田信長旧臣だった太田牛一が江戸時代初期に残した信憑性の高い信長の一代記)のように(笑)。

 

片田さん どんどんハードルが上がってますね。まあ、自分で上げてるところもありますが(笑)。

 

 

片田直久さんにとって、格闘王・前田日明さんとは?

 

 

ーーYouTube動画収録や取材を通じて片田さんは前田さんとあらゆる現場で接していると思います。そこでお聞きします。片田さんが考える前田さんの凄さと魅力とは何だと思いますか?

 

片田さん 前田さんの原点は新日本プロレスの道場にあります。ご自身によるプロレスの定義は2種類あって、「スタントマンのメロドラマ」と「勝敗を度外視した主導権の奪い合い」です。前田さんにとっては後者のほうがより親和性が高かった。

 

ーー「勝敗を度外視した主導権の奪い合い」という話は昭和の新日本プロレスですよね。試合結果では勝ったとしても、勝ったとは思えなかったり。逆も然りということですね。

 

片田さん 主導権を奪う上では相当なつばぜり合いも認められ、かなり自由度の高い闘いだった。当時、新日本の前座はそういう試合で占められていました。その定義の中で興行上の「格」とは異なるレスラー間の序列もあったかもしれない。そんな推測もしています。古今東西のプロモーターやマッチメーカー、レスラーに確認したわけではありませんが、かなり特殊なプロレス観でしょう。前田さんはそうした環境に身を置き、引けを取らないだけの技術と精神、何より自らの生業を「勝敗を度外視した主導権の奪い合い」と規定できるだけの知慮を持ち合わせていた。前田日明の特性と魅力は恐らくここに集約されます。道場での練習と試合で揉まれ、鍛えられ、試された経験は確固として前田さんの中にある。そこからUWF、リングスへと闘いの構図は広がり深まっていきました。比類のない場が誕生した背景にはこうした経過があります。ご本人がどこまで自覚されて動かれていたのかはわかりませんが、前田さんが転換期に大きな役割を託された方の一人であることは間違いないでしょう。

 

ーー深いですね…。前田さんは生き方が不器用かもしれませんが、自分がお世話になった人、この人は面倒を見ると決めた場合は最後まで親切丁寧なんですよね。ほっとけないというか。恐らく片田さんに関しても、前田さんは感謝されていると思いますので、そのうち恩恵も受けるのかもしれませんね。つらい時とか、苦しい時は恐らく前田さんは声をかけてくれるんじゃないですか。私はそういう前田さんが好きなんです。

 

片田さん 私自身に対してどうかはわかりませんが、いろいろな方からそうしたお話はうかがっています。

 

ーー私は以前ですけど、大阪にあるライブシアター「なんば紅鶴」さんで、ひとり語りイベントをさせていただいた際に、前田さんについて2時間語ったことがありますもん(笑)。そこで第2次UWFとリングス時代の前田さんの戦歴をまとめて、前田さんのファイトスタイルや傾向を考察して、プレゼンさせてもらったことがありました(笑)。

 

片田さん おお!凄いですね(笑)。

 

 

前田日明を語る喜び~2019.11.14大阪なんば紅鶴「プロレストーキングブルース3」~ 

 

 

 

 

ーー「なんば紅鶴」さんはさまざまなイベントをされていて。コロナで大変な時でも頑張っているので、もし片田さんも大阪に起こしに際はよっていただければありがたいです。なぜかスタッフやお客さんも含めて、前田さん好きが多いんです(笑)。

 

片田さん それはぜひお邪魔したいところです。

 

ーーこの対談も終盤になって参りました。片田さんにとって前田さんとはどのように存在ですか?

 

片田さん うーん…。「ずっと見ていたい人」ですね…。 

 

ーー確かにそうですね!「ずっと見ていたい人」ですよ。的確な表現だと思います。

 

片田さん 「作品」と実人生があざなえる縄のように異彩を放つ。そういう傑物に惹かれます。ジャンルこそ違いますが、私にとって前田さんは高倉健さん(日本を代表する名優。不器用で寡黙。半世紀を超える俳優人生で、一本気な「日本の男」を演じた映画スター)や松田優作さん(40歳の若さでガンで亡くなるも唯一無二の存在感でいまも多くのファンを引きつけてやまない伝説の俳優)、萩原健一さん(「ショーケン」という愛称で有名で、一時代を築いた俳優でありミュージシャン)と同じ箱に入っている方です。彼らの共通点は「終わらない」ことです。

 

ーー言われるとそうかもしれないです…。特に全盛期の前田さんは、優作さんやショーケンさんみたいなオーラを放っていました。黙って俯いているだけで画になる人ですよね。

 

片田さん 同じ時代を生きられたことが文字通り「有り難い」と思えます。

 

ーー前田さんはずっと見ていたいですし、長生きしてほしいですね。

 

片田さん バカ丸出しですが、つい先日まで前田さんが限りある生を生きているとは思ってもいませんでした。「前田日明は死なない」と勝手に思い込んでいたんです。本当に痛いファンで申し訳ありません(笑)。

 

ーー今回、片田さんと対談をいただきまして、改めて前田さんを好きでよかったなと思いました。健さんとか優作さんという名前が出ましたが、プロレスや格闘技は特異なジャンルで村みたいな世界ですが、前田さんという存在に誇りを持っていいんだなと。

 

片田さん 長年にわたって続いてきたリング上の闘いに新しい意味や文脈を注ぎ込んだ。前田日明出現以前の感覚にはもう戻れません。現在の視点から見れば、いろいろと後付けで指摘できる点はあるでしょう。ただ、自分がどこまで行けるかわからない中で試行錯誤を繰り返してきた胆力や勇気は正当に評価されるべきです。現代の総合格闘技に比べれば、リングスの試合には粗い面もあります。それでも見返せば、発見があったり、触発されたりすることが少なくありません。何より熱くてやばくて面白い。それはなぜなのか。前田日明は何を成し遂げ、これからどこに向かおうとしているのか。脳みそが汗だくになるくらい考えます(笑)。

 

ーー片田さん、今回の対談でさまざまな話題について語っていただきありがとうございました。心より感謝しております。今後のご活躍をお祈りしております。

 

片田さん こちらこそありがとうございました。「前田日明チャンネル」をこれからもよろしくお願いします。

(第3回終了)


 

 

 

 

【編集後記】

  最近、ネットニュースとか読ませていただくとYouTube動画に関連した内容も増えてきています。

 

「この人が自身のYouTubeでこのようなことを語っていました」

「この人のYouTubeがこのような内容で反響を呼んだ」

「この人が自身のYouTubeで語ったことがネットで炎上している」

 

 

  私は以前からYouTube「前田日明チャンネル」についてブログかnoteで取り上げたかったのですが、もし書くならば既存のネット記事とは違うテイストを出したい。

 

   そういう私も日刊SPAさんでお笑いYouTube人気ランキングという記事を担当させていただいたことがあります。

 

男が選ぶ「YouTubeが面白い芸人」ベスト10…中田敦彦は6位、石橋貴明は2位【日刊SPA】 

 

 

 

    だからこそやるならばYouTubeに関わっている当事者の方の「生の声」を届けた上で、「前田日明チャンネル」を紹介したいと考えました。そこで「前田日明チャンネル」でインタビュアーを務める片田直久さんとのコンタクトに成功し、今回の対談企画が実現しました。片田さん、本当にご対応いただきありがとうございます。

 

   片田さんの経歴、前田さんとの出逢い、「前田日明チャンネル」の凄さ、取材中の前田さんとリングスをテーマにしたノンフィクション本…さまざまな話題について片田さんに語っていただきました。今まであまり知られていなかったエピソードも幾つかあったのではないかなと思います。

 

  今回の対談記事が「前田日明チャンネル」に少しでも興味を持っていただくためのきっかけになれば、ありがたいです!

 

 私はこれからも「前田日明チャンネル」と片田直久さんを応援したいと思います。そして、前田日明さんのご活躍も…。

 

 3回に渡りお届けしましたフリーライター・片田直久さんとの対談企画は終了です!ありがとうございました!