2024年の演奏会納めは、東京オペラシティのヴィジュアル・オルガンコンサートでありました。年末=第九で〆るという方も多かろうとところながら、これを恒例とするのは日本の独自風習である一方で、クリスチャンの方々が多いであろう西洋世界では年末はクリスマスの時季でもあるわけで、ヘンデルの『メサイア』とかバッハの『クリスマス・オラトリオ』などなど、バレエの世界ではチャイコフスキー『くるみ割り人形』とかそっち系の曲がたくさん演奏される時期でもあろうかと。で、今回のオルガンコンサート、プログラムは《クリスマスに寄せて》というものでありましたよ。

 

最初に演奏されたのがクリスティアン・ハインリヒ・リンクという、ベートーヴェンと同年生まれのドイツの作曲家による一曲。『きらきら星による9つの変奏曲と終曲』という作品でして、同じ主題を用いた変奏曲をモーツァルトも作っておりますなあ。曲自体がクリスマス絡みではなかろうところながら、きらきら星をベツレヘムの星に見立てて「クリスマスに寄せてという今回のコンサートの冒頭に」とは奏者の言葉でありましたよ。

 

曲は、誰しもが♪ドドソソララソ、ファファミミレレドと口ずさめてしまうであろうほどに有名で簡素なメロディーが主題ですけれど、序奏部分と終曲が厳かにしっかりした作りである一方、その間に挟まれた主題の変奏はメロディーラインが実にわかりやすい、ということは曲調として可愛らしいものであって、終曲との庵バランスがまた楽しからずやかと。全曲でおよそ15分くらいになるだけに、ランチタイムの演奏会としてはメインに持ってきてもいいくらいに思えたものです。

 

ちなみにこの『きらきら星』ですけれど、プログラムの曲目解説にはこんな紹介がありましたなあ。

「きらきら星」は、18世紀フランスのシャンソンが発祥で「ああお母さん聞いて」というタイトルの、娘が自分の想う人のことを母親に打ち明ける恋の歌でした。その後、このメロディ^がイギリスに渡り、「Twinkle, Little Star」という童謡に生まれ変わり、世界中に広まっていきました。

リンクがこの変奏曲の作った当時、「9 Variations and Finale on "Ah, vous dirai-je, Maman"」というタイトルで流布したわけでして、そこには「きらきら星」のイメージは入り込んでいないはず。リンクよりも先に手掛けたモーツァルトにしても、当然に童謡「きらきら星」を思い描いて作ったのでなくして、フランスの恋の歌ベースのイメージで作ったものなのでしょう。

 

今ではこのメロディーがもはや「きらきら星」であるとして定着してしまっていますから、ついついお星さま、果てはベツレヘムの星といったところまで想像を飛翔させてしまったりして、「ねえ! 恋が心をくすぐるとこんなに甘い気持ちがするんだね!」(Wikipedia所載の訳文の一部)などという恋語りの印象からは離れてしまっている。もしかすると、「きらきら星」イメージで聴いている現在の聴衆に対して、リンクもモーツァルトも「そうじゃあないんだけどなあ…」と思っているかもしれませんですねえ。

 

ま、この手のことは先日触れましたように「第九」から切り出した『よろこびの歌』もそうですが、数々の外国曲に(意訳を遥かに超えて)独自の歌詞を付けた唱歌がたくさんある日本では山のようにあることでしょうけれど。

 

ところで演奏会の方は、この後ワイマール時代とライプツィヒ時代のバッハの曲がひとつずつ挟まって、最後に演奏されたのがヴィドールのオルガン交響曲第5番から第5楽章「トッカータ」でありましたよ。近頃はオルガンの演奏会をよく聴きに行くようになってますが、オルガン曲というのは(よほどの愛好家でもない限り…でもないのですかね…)一聴しただけではなかなかに知ってる曲というまでの定着感を得られなかったする中、このヴィドールの作品は実に掴みのいい一曲なのですなあ。

 

今年5月のオルガンプロムナードコンサート@サントリーホールで耳にしたのが初めてですけれど、パイプオルガンの壮大さを実に華々しく聴かせてくれるだけに何度聴いても良しと思うところでして。演奏会の締めくくりのみならず、一年の締めくくりが華々しく閉じられる、そんな気にもさせてくれたのですな。個人的にはさほどの節目感を抱いているわけではありませんが、それでも良い意味で節目感に思いを馳せつつ帰途についたものなのでありました。