思わぬ展開でもって天童そばにありつくことになったわけですが、蕎麦屋から天童の市街地へと車で送ってもらいがてら、途中で降ろしたもらった先がこちら、出羽桜美術館なのでありました。

 

 

「出羽桜」と聞いてピンと来る方もおられましょう、山形の地酒ながらわりと広く知られた銘柄であろうかと(相撲取りのしこ名ではありませんです、笑)。美術館は酒蔵創業家の「三代目仲野清次郎が永年に亘って蒐集してきた陶磁器、工芸品等の寄贈を受けて開館」、「三代目清次郎の旧住宅である明治後期頃の伝統的日本家屋の建物を活用し、木造瓦葺の母屋と蔵座敷を展示室として公開して」いるという施設でして。

 

 

全くもって個人宅にお邪魔する雰囲気ですけれど、早速にお邪魔いたします。そもそも「朝鮮半島の李氏朝鮮時代に焼かれた陶磁器に魅せられた」ところから始まったというコレクションはやきものを中心としつつも、いわゆる書画骨董の類に幅広く展開しておるようすですが、入ってすぐに目につくのは館内そこここに吊るされた吊るし飾りでありましたよ。

 

 

 

なんでも出羽桜酒造の会長さん(なんとなし山形のおばあちゃんといったところを想像しますが)がひとつひとつ手作りしたものであるそうな。古い日本家屋に馴染むデザインで雰囲気作りに役立っておるような。でも、ちと多すぎる?かも…。ともあれ、コレクションを拝見するといたしましょう。

 

 

始めの方は書画中心の構成になっておりますね。個人美術館的な施設はコレクター個人のお眼鏡に適ったものが集められるだけに、ともするとごった煮然とするわけですが、それもまた楽しからずやというところかと。やおら宮本武蔵の画による掛け軸に出わしたりするのですから(下の写真は部分です)。

 

 

 

疑うわけではありませんが、確かに「武蔵」の落款が押してある。武蔵の画としては『枯木鳴鵙図』が夙に知られて、その研ぎ澄まされた緊張感がいかにも剣聖の作らしいところですけれど、こちらの『葡萄栗鼠図』は題材の故に幾分愛らしいような。それでも線をたどってみれば、どうしても気魄が伝わってきてしまう気がしたものでありまして。

 

 

 

落款といえば、こちらの棟方志功『夏富士』は豪放な作風そのままですよね。もちろん印判でなくしてサインの方ですが。夏の富士を描いたとして、これほどに何の外連味も加えないところは、頭が下がるところでもあるような気がしますですよ。

 

 

書もまた、個人コレクションらしくバラエティーに富んだラインナップですな。左側の「寿」一文字は川端康成、お隣に対で並ぶのは正岡子規夏目漱石の句が揃いで軸装されたものですが、川端先生の書がお上手なのかどうか…はともかく(もしも本人からあの鋭い眼光で見られたら、ぐうの音も出ませんが)、子規と漱石はそれぞれに達筆。くずし字の堂に入っているのは子規の方が上ですかね。

 

永き日や衛門三郎浄瑠璃寺 子規
半鐘と並んで高き冬木哉 漱石

 

 

さてと、こちらの軸はどんな作家の作だか、想像がつきましょうかね?単に『風景』と題されたほのぼのとした雰囲気に「ほお~、あの!」と思ってしまいましたけれど、作者は今年2024年に生誕140年の特別展があちこちで開催されている竹久夢二であると。才人故の振れ幅のうちなのか、実はこういう絵が描きたかったのであるのか、どうでしょうねえ。夢があるということでは共通性無きにしも非ずですけれど。

 

とまあ、こんなふうに出羽桜美術館をゆっくりと見て回っているわけですが、コレクションのそもそもはやきものに始まったと申したものの、未だやきものの展示に触れておらず…。ですので、やきものの方は次回にまとめて振り返っておくことにいたしますよ。