静岡市美術館を訪ねて杉浦非水の展覧会を見たわけですけれど、ちょうどその折には同館所蔵コレクションから特集展示ということで竹久夢二展も開催(会期は2022年12月4日で終了)されていたものですから、当然にしてこちらも覗いてみることにいたしました。入場無料で、写真撮影も可でありましたよ。

 

憂愁をおびた女性像や和洋折衷の大胆なデザインで知られる竹久夢二(1884-1934)は、明治末期から昭和初期にかけて活躍した画家です。本の装丁や楽譜の表紙絵を手がけるのはもちろんのこと、便箋や封筒、和装小物など暮らしの身近にあるものを美しく彩ることにも大いに関心を示した夢二は、今日のデザイナーの先駆けともいえるような表現者でした。

フライヤーにはこのような紹介がありましたけれど、「デザイナーの先駆け」というあたりで杉浦非水展とのリンクを狙ったものであったようで。1925年(大正14年)10月発行の『三越』PR誌は杉浦非水が表紙を手がけ、中には見開きで夢二の作品が掲載されていたりもしていたのですな。

 

 

 

夢二の絵のタイトルは「野遊」と。これに「ピクニックの好季節となりました。秋のご用意は三越へ。」とキャプションを添えたのは、よもや三越の図案部にいた杉浦非水ではありますまいが、しっかり商売につなげるつもりはありありで(笑)。

 

ところで、夢二が楽譜の表紙絵に手を染めていたことはよく知られておりますですね。自ら作詞した『宵待草』あたりも楽譜出版されていますけれど、やはり自らが装丁したのではないでしょうかね。とまれ、夢二が装丁を手がけた出版楽譜には、実にさまざまな曲がありますですねえ。

 

 

『明治天皇頌歌』、『見よ優しき雲雀よ』、『花かそもあれ』、『スワニィ河の月』と、竹久夢二といえばひたすらに美人画のイメージですけれど、実に多様な作品を生み出していたことがわかりますですね。パッと見、これが夢二の作品とは想像できないような…。ちなみに『明治天皇頌歌』は北原白秋作詞、山田耕筰作曲という作詞作曲の大御所登場で、時代を感じさせますなあ。

 

レコードがまだ高価だった大正時代、音楽普及の中心を担ったのは楽譜であった。…夢二は大正5年4月に刊行された《お江戸日本橋》を手始めに、昭和2(1927)年まで270点ほどの装画を描き、うち24点は夢二の詩にメロディーをつけたものであった。楽曲に合わせて工夫が凝らされた絵と手書き文字の組み合わせは変化に富み、夢二の造形的な引き出しの豊かさがうかがえる。

 

「引き出しの豊かさ」、そうですよねえ。左側の作品などはルドンかぁ?!てなふうにも思ってしまうわけで(タイトルは『草の夢』、夢二自身の作詞であると)。ではありますけれど、最後にひとつ、いかにも竹久夢二という一枚を見ておくといたしましょう。

 

 

祇園の舞妓を描いて版元の書店主人に渡した小品で、「簡素な筆致ながら舞妓の白粉化粧の表情や豪華な着物の柄の特徴がいきいきと捉えられている」と展示解説にありましたな。「なるほど…」と思うところながら、むしろどうしても楽譜装丁に見る豊富なバリエーションにこそを目を向けてしまいまして。竹久夢二再発見てな印象ですけれど、単に音楽とのつながりが興味を掻き立てるという、個人的な嗜好の故でもありましょうけれどね。