千葉県佐倉市の街歩きでは、佐倉城址公園から武家屋敷通りを抜けて…と、関ケ原以来の徳川家臣、堀田氏の城下町なだけに話が江戸時代に寄っていくことになりますので、ここでちと別の話を求めて寄り道を。向かったのは佐倉市立美術館なのでありました。

 

佐倉市の美術館としては近現代の欧米作品を数多く所蔵するDIC川村記念美術館が有名ですけれど、かつて一度出かけたことがありますし、送迎バスによる往復にかなり時間がとられてしまうことから今回は見送り。とはいえ、出かけたのが相当以上前(どうやら2008年であったようで)なので、いずれまたとは思っておりますが…。

 

ともあれ今回訪ねた佐倉市立美術館、さほど高いビルが建つでもない佐倉の市街地にあって抜きんでいて特異な外観を示しておるのですな。たどり着くまでの道々で遠望したところを写真に撮っておけばよかった…とは後の祭り、足元まで来てしまうとすぐそばまで民家が立て込んでいて、とても全体像が撮れない状況に陥ってしまいまして。ただ、雰囲気だけでも撮れる所はなかろうかと周囲をうろちょろしたおかげで、館外にあった彫刻作品をひとつ、見逃さずに済みましたですよ。

 

 

これは誰が作ったかというよりも(といっては作者の彫刻家・大須賀力に申しわないですが)モデルは誰かの方が気になるところでして、この人物は画家の浅井忠であると。浅井は安政三年(1856年)佐倉藩士の家に生まれ、先に見た藩校成徳書院で学んだという所縁のある人物だったようで。明治の洋画壇を牽引したひとりとして知られる浅井にはたくさんの弟子もあり、確か津田青楓もその一人ではなかったかと。

 

津田青楓は夏目漱石と関わり深く、漱石作品出版の際にはいくつか装丁を手がけたりしていますけれど、師匠の浅井の方は小説『三四郎』に出てくる深見画伯のモデルとされているそうな。当然に漱石と浅井の関わりあったわけですが、「浅井」をモデルに「深見」と名付けるあたり、漱石らしいところかもしれませんですね。

 

と、余談はともかく建物の中へと入ってみましょう。やおらなかなかにシックな印象ですけれど、このエントランスあたりは「大正時代に建てられた旧川崎銀行佐倉支店(千葉県指定有形文化財)の保存と活用を考慮して建設され」た部分になると。大げさな比較になりますけれど、歴史的建造物のファサードを活かしつつ、裏側に大きな建物を付け足すのは東京中央郵便局はじめ、類例はたくさんあろうかと。

 

 

で、そんな佐倉市美術館で(訪ねた当時に)開催中であったのは「陶芸家 和田的展 WALK ON THE EDGE」(2023年12月24日で会期終了)なのでありました。奇しくも長々と「美濃瀬戸やきもの紀行」を書き継いでいる中で、またしても陶芸か?!ではありますけれど、まあ、この展覧会はいわば現代アートですのでね。そのつもりで見て回ったわけです。

 

 

和田の磁器作品は、直線と曲線が織りなすシャープな彫刻的造形を特色としますが、これは、厚く轆轤で挽いた器を削ることで成形されています。

なるほどなぁと思いますですね。好みでいえば(織部まではいかないものの)不均衡をものともしない手びねりの陶器といったあたりなのですが、それとは正反対の世界でもありましょうかね。

 

 

ただ、この作品(第20回日本陶芸展・池田満寿夫賞受賞作とか)に「ザ!オブジェ」と「!」の入ったタイトルを付けてしまうあたりの遊び心といいますか、それは形そのものにも表れてくることになります。例えばこんな。

 

 

ですが、やきものを釣りに擬えますと鮒釣りにあたるのが茶碗といっていいのでしょうか。「釣りは鮒に始まり鮒に終わる」とは、基本中の基本ながら奥が深いことを言っているかと思いますが、やきものにおける茶碗にはそういうところがあるかも。これだけポップな作品作りをする作家にしても、やはり茶碗には手を染めているわけでして。で、それがなかなかに魅せるものであって。

 

 

右側の器はこれまでに見たオブジェ造形と同一方向にありますけれど、左側の茶盌「大峠」になりますと伝統と現代の融合感が出てくるなと。下に見る「御神渡り」と名付けられた茶盌も、形は茶碗然しながらオブジェのイメージでしょうかね。いわゆるやきもの製品で、磁器をこういうふうにごつごつとした肌合いに作りはしないでしょうから。透かしが入っているのも、いかにもオブジェ的で(実用に供しうる器かどうかは分かりませんが)。

 

 

オブジェ的といえば「正しくオブジェ」と見る作品もあれこれ並んでいましたですが、そちらはそちらで、茶陶の茶碗などに景色を見立てることとはまた違う見方、アプローチの仕方があるわけで、そのいずれをもひと言で「陶芸」と言ってしまっていいのであるか(とは「美濃瀬戸やきもの紀行」でいろいろな陶芸作品を見たときと同様ながら)、悩ましくも楽しい展覧会ではありましたですよ。