例えば東大と言えば東京大学、東博といえば東京国立博物館、東急といえば東京急行電鉄…のように「東何」と表記されると、それは「東京何々」の省略形だと受け止めてしまうのは、いわば東京者のおごりというのか、必ずしも全国区でない東京ローカルなものだと考えた方がいいのかも(ただ、例示したものは全て全国区化しているかもですが…。

 

と、こんなことに思い至りましたのは、岐阜県多治見市でモザイクタイルミュージアムやら美濃焼ミュージアムやら、またほかのところへも行き来するのに使ったバスが東鉄バスという名称であったものですから。

 

 

この東鉄バスが東京鉄道バスとかいうことでないのは言うまでも無いわけで、この「東鉄」は東濃鉄道のことなのですなあ。モザイクタイルミュージアムの展示では、かつてやきもの材料の搬入・製品の搬出に笠原鉄道という路線が運行していたと紹介されておりましたですが、近隣の小路線が統合して設立されたのが東濃鉄道であったと。笠原鉄道の廃止でもって鉄道事業からは撤退し、現在はもっぱらバス事業者になっているも、看板は東濃鉄道を受け継ぐ東鉄バスといなっているということで。

 

そんな気付きがあったものですから、モザイクタイルミュージアムから去り際にトイレを拝借した折、使われていたのが「TOTO」製品であったことにも「?!」と。ついつい、ミュージアムショップの方に「もしかしてTOTOもこのあたりの会社なのですかね…」てなことを尋ねてしまったり。訊いてしまってから「TOTO」の元の「東陶」は東洋陶器であったことを思い出したものの、尋ねた相手からはきょとんとされる始末。言い訳になりますが、常滑を訪ねたときにはそこらじゅう「INAX」(伊奈製陶)製品で溢れ返っていたものが印象に残っていたものでしてね。

 

という余談はともかくとも、再び三たび東鉄バスのお世話になって向かったのは「とうしん美濃陶芸美術館」で、この「とうしん」も「東信」、果たして東濃信用金庫のこと。同金庫のコレクションを展示する美術館ということになりますな。

 

 

で、この円柱形の建物が美術館かと思えばこちらは信用金庫の店舗だったようで、左手に廻り込んだ先にもまた円柱形の建物が付属しており、入口はそちらということでありましたよ。

 

 

モザイクが散りばめられたところはガウディのグエル公園を思い出す…といっては持ち上げすぎでしょうけれど、右側には変わった形の陶製スツールがいくつか並び、多治見工高セラミック科生徒たちが製作した作品だそうで。

 

 

と、長い長い前振りになりましたけれど、ようやっと美術館の入り口に到達…ですが、館内は撮影不可ということですので、写真は無しにして思い出すことなどを。訪ねた当時(10月下旬)に開催中であった企画展は「公益社団法人美濃陶芸協会創立60周年記念 美濃陶芸展」でありました(2023年12月24日まで)。

 

 

協会会長の「ごあいさつ」に「陶芸は素材の美、機能の美に加えて、作家の創造力と技術による意匠の美の三者が融合した三位一体の総合造形芸術です」とありまして、コンクール的に表彰作を決める場でもあるこの展覧会は、先に美濃焼ミュージアムの「美濃現代陶芸の精華」展示室で見た以上にリアルタイムな新しい造形が見られたように思うところです。

 

ただ、あまり予備知識無く見てまわる中、作家の方々は叩き上げの陶工と美大や専門学校で陶芸をアカデミックに?学んだアーティストとに大別できそうな。そして、前者に比べて後者の方が抽象的なタイトル付けを伴うオブジェ(つまりは古来のやきもの然とした茶碗や器などでないもの)を作っておられるような気がしたのでありますよ。

 

ところが「そうでもない」とは、閉館時間間際になって、受付に座っておられた方と展示室内で行き合った折に言葉を交わしたところから思い知らされたといいますか。「おみそれしました」とは妙なエクスキューズですが、受付におられたものの、しかしてその実体は!本展にも出展作のある作家さんだったのですなあ。先ほどの感想をちらりもらすと「そうでもないですよ」と、いろいろな作品の前に導かれて話を聞かせてくれましたですよ。

 

そんな立ち話の中ではまた「失礼ながら…」と尋ねたことには、「ここに展示されるような作品を作られる方々は、日用遣いのやきものを焼いたりはしないのでしょうかね…」と。まあ、職人と芸術家を区別せんがためのようで、いささか失言だったかと思いはしたですが、これには至って普通に(展示作品は至って抽象的なオブジェに見える作品の作者たる方ながら)「器を作って売っていますよ」という答えが。ただ、日用遣いにもいろいろあるわけで、典型的庶民が普段遣いできるのはやはり十把一絡げの「せともの」の範囲を出ないでしょうから、やはり愚問ではありましたですねえ(笑)。

 

ですが、そんな拙い問いかけにも快く受け答えをしてくださった作家さん、折しも名古屋市内で個展を開催中のようで「よろしけば…」とご案内を頂戴しましたですよ。旅の道すがらで立ち寄ることはできませんでしたが、美濃の陶芸界では「今年のひとり」みたいな賞の受賞記念展であったようで、やっぱりおみそれいたしました。

 

ちなみに本展の審査対象として出展されていた54点のうち、大賞はじめ受賞作は6点でしたけれど、個人的にくくっと来たのはいずれも受賞外の作品ばかり。ま、専門家の目とは異なる素人目線なわけですが、その違いに思い巡らすのもまた楽しからずやでありますよ。しかも、この美術館、入場無料で。

 

振り返るよすがとなります写真の撮影ができないのは残念ですけれどね。ということで、写真が少ない分、最後にこんな一枚を。エントランスロビーに置かれていた「タイルピアノ」、笠原のモザイクタイルミュージアムにはタイルをびっしり貼った自動車が置かれていましたですなあ。これも多治見らしいところといえましょうね。