さて、東京・武蔵野市にあるNTT技術史料館を訪ねた帰り道のこと。往路は吉祥寺駅からバスで、最寄りのバス停(武蔵野市役所)まで出ましたですが、何とこの路線、1時間に1本程度しか走っていないというのはどうにも都会にあるまじき様相かと。メインルートとしては三鷹駅(吉祥寺よりひとつ都心方向から離れた駅)とのバス便が頻発しているようですが、差し当たり武蔵境駅(三鷹よりもさらにひとつ都心方向から離れた駅)までと歩いて出ることにしたのでありますよ。
何せ今や無収入の隠居生活ですので交通費の節約になりますし(ま、それほどの経済的危機にあるわけではありませんが)、それ以上に(ラジオ体操もしておらない者としては)ウォーキングはいささかの運動にもなりますし(笑)。
ということで、NTT技術史料館をあとにして歩き始めたわけですけれど、史料館はNTTの武蔵野研究開発センターという中々に大きな施設の片隅にありまして、まずはそのNTTの敷地に隣接する大きな公園に到達することに。
こんなふうな草地の広がりとその周りを木立が囲んでいる武蔵野中央公園。奥に見えている建物がNTTの施設になります。が、手前側に解説板のようなものがありますな。
ここには「都立武蔵野中央公園の歴史」としてまず、「武蔵野は月の入るべき山もなし 草より出でて草にこそ入れ」という古歌の引用に始まりまして、つまりはただひたすらに草っぱらであった頃から語り起こしておりましたよ。やがて玉川上水が造られて、分水が供給されつつ新田開発が行われ、一面が畑地となっていったと。
さりながら、昭和13年(1938年)、ここに大きな工場が建設されることに。以前訪ねた武蔵野ふるさと歴史館の常設展示に、「日本有数の航空機エンジン製造工場」であったと紹介されていた中島飛行機武蔵製作所はこの場所にあったのですなあ。
航空機エンジンと言っても工場が手掛けたのは零式艦上戦闘機(要するにゼロ戦)など陸海軍機用ですので、それだけに戦争中は爆撃目標にされてぼこぼこの状態に。戦後は一転、焼け野原は米軍宿舎「グリーンパーク」となったそうな。それが昭和48年(1973年)に返還されて、公園となった。イメージは昔むかしの武蔵野のイメージにつながら「はらっぱ」として…。
立川基地が昭和記念公園(の一部)になったことを思い出せますですねえ。もっとも、かつての日本の軍事施設跡地や米軍に接収されて後に返還された土地が、今ではすっかり様変わりしている例は枚挙に遑がありませんけれどね。中には草ぼうぼうのままだったり、未返還の土地もありますが…。
ともあれ、そんな武蔵野中央公園の南側出入口そばから南へ、中央線方向に向かって遊歩道が続いているのでありますよ。グリーンパーク遊歩道とも言われる(と、そのいわれがようやく理解できました)道を辿って、駅まで歩いて行こうという算段です。
しかしながら、なんだってここにやおら遊歩道があるのか…。思い付きやすいのは、かつての川の流れを暗渠化したか、あるいは鉄道の廃線跡であろうかと。遊歩道を進んでほどなくのところに、その正体を説明してくれる解説板がありましたですよ。
やはり鉄道の廃線跡でしたな。軍事工場への物資搬入にも利用された引き込み線が戦争中までは上図のように、中央線武蔵境駅(地図では左下のはじあたり)あたりから繋がっていたわけです。下図は戦後のようすで、引き込み線は二つに分かれ、本線は右手に分岐して三鷹駅方面へ、一方で武蔵境駅から伸びていた線路も反対方向にカーブして、境浄水場専用線になったようです。
とまあ、そんな背景のある道だからでもありましょうけれど、歩いていて時折現れる解説板からは戦争の記憶が刻まれていることを窺い知ることになるのですなあ。
例えばここは、高射砲陣地の跡であるとか。中島飛行機武蔵製作所は9回の空襲に曝されたそうですが、来襲する米軍機を迎撃するための高射砲がここに置かれていたようで。いまではすっかり子供たちの遊び場ですけれど。
さらに進んで境浄水場のあたりまで来ますと、ぎんなん橋という小橋にはかつてここに引き込み線があったことを思わせるレールが敷かれていたり。実はここの橋台は戦争中のままで、その上にぎんなん橋が乗っかっているようです。
と、この先にこんもりとした木立が見えてますが、そのあたりが玉川上水になります。ちょうど上の図で見た引き込み線の分岐点あたりになりまして、この先は武蔵境駅方向に向かうため、少々上水に沿って右へと入り込むのですな。そして、この橋で玉川上水を渡ります。
が、わざわざこの橋を示しておりますのは、橋の名前が「大橋」というものであったからでして。「これが、大橋?小さいよね…」と思ったわけでありますよ。脇にはしっかりと説明書きがありました。玉川上水開削以降、最初期にできた3つの橋のうちのひとつと、由緒はありそうです。まあ、当時は「大橋」感があったのでしょうなあ。
でもって、大橋を渡ってしばしの住宅街を抜けますと、またまた廃線跡の遊歩道に。これを辿れば武蔵境駅へと到達することになりますな。中央線との合流はこんなふうです。
おまけの一枚として、武蔵境駅の駐輪場近くで見かけたモニュメントの写真をひとつ。レトロ・ヨーロッパ風の印象を感じて、ジブリ映画『耳をすませば』の地球屋にでも置いてありそうな気がしてしまいましたですよ。ま、ジブリ・スタジオがあるのはお隣の東小金井なのですけどね。