新潟に出向いた折にちょっと空き時間が見つけられると、覗きに行く小さな美術館。

それが新潟駅からほど近い敦井美術館でありますよ。

 

今回は晴れていたかと思うと、小雪が舞うというように目まぐるしく変わる天候であったものですから、

この敦井美術館でさえも「行こっかな、どうしようかな」と思ったところながら、

きっとそんなときに出かけてみれば思わぬ巡り合わせといったものがあるかもと。

開催中であったのは「十二支と吉祥の正月飾り 新春絵画工芸展」と題した展覧会なのでありました。

 

 

新春を寿ぐ感じをもって集められた作品たちは2月に入るといささか時季外れ感なきにしもあらず。

まあ、そのあたりは忘れて作品と向き合うことにしたわけですが、ふいと目がとまりましたのは

小杉放庵の「梅花遊禽」なのでありました。

 

どうも小杉放庵という画家をつかみかねておりまして、

その正体は洋画家であるとも聞けば、放庵と号して水墨も描く。

かわいらしい作風でもあるかと思えば、今回見た「梅花遊禽」のように険しさが伝わるものもあるという具合。

もとより画家には作風の変遷もあり、描く題材も一様ではないながら、

それでもなんとなく個性をつかまえて「ああ、そうだよね」などと思いつつ作品を見たりするわけですが、

そこまでつかまえられていないもので。

 

放庵には「梅花遊禽」と題した作品がいくつかあるようですけれど、中でも敦井美術館所蔵の一枚は

宮本武蔵の「枯木鳴鵙図」を引き合いに出しては持ち上げすぎかもですが、

それを思い出させる緊張感といいますか、そんな「気」(雰囲気)があったものですから、

ちとこれからは放庵をもそっと気にかけてみようと思った次第でありますよ。

 

一方で、展示室の奥まったあたりには富士を描いた作品が数点、並べられておりました。

「一富士二鷹三茄子」と言いますから、富士もまた新春の吉祥として展示されているわけですが、

ちょっとした富士の競演を見られることになったという。

 

富士といえば横山大観ということでもあり、大観作品ももちろん展示されていましたけれど、

こういっては何ですがどうも「型どおり」といった気がして面白くない…。

それだけに入場券に使われていた前田青邨の「不二」は独自感がありますよねえ。

 

富士の図像の競演には、しばらく前にも中村屋サロン美術館でも出くわしたですが、

明らかに実際の富士の姿は見る側にも焼き付いているのに、

個性を発揮しつつそれでも「これが富士だ」と思わせる説得力が絵にあるかどうか、

ここいらへんが受け止め方の分かれ目になりましょうね、きっと。

 

大観の作品(上のフライヤーの中に小さく配されておりますが)は「いかにも富士」ながら「されど…」が無い。

一方で、青邨のは写生的でなく、古来の富士図像の形を使いつつ見せ方に工夫があるような。

個人的な関心度の違いはそのあたりからきているようにも思うところです。

 

そして極めつけと思いましたのが、以前ここを訪ねたときにも引き付けられた土田麦僊の「富嶽図」。

これはやっぱりいいですよ。ポストカードになってしまうと、直に見る色合いは再現されませんけれど。

 

 

富士の姿は写実的ですね。雪景色ではない、地肌剥き出しの富士山。

この錆びた肌合いは実にリアルである一方で、前景の野道を行く人影は抒情的でもある。

そして、日本画らしく余白を大きくとった画面構成は雄大さを思わせますよね。うむ、富士山!

 

同じ美術館を訪ねて「いつ見てもいいものはいい」といったものに出会えるのもまた幸せな。

そういえば、長らくお休みしていた東京・京橋ブリヂストン美術館が装いも新たにオープンしましたですね。

 

その名もアーティゾン美術館とは、そのネーミングに好悪は分かれましょうけれど、

充実したコレクションは健在であると思いますので、ほとぼりが冷めた頃を見計らってでかけてみたいものです。

(日時予約制とはいつまで続くのでありましょうかね…)