元は修道院の建物であったと思しきウンターリンデン美術館で
宗教芸術 を見るのは至極当然ですが、結構広くていくつもある展示室によっては
モダンアートとも対面できるのですなあ。
と、ここでモダンアートと言いますのは19世紀末から20世紀の作品ですけれど。
まずは世紀末というには些か早い段階ですが、
1965年頃の作というギュスターヴ・ドレ「トビアスの天使」という1枚。
大天使ラファエルがトビアスの父の眼を治して別れを告げ、
飛び去ったという場面でもありましょうか。
ドレと聞くとつい版画を思い出してしまったりもするんですが、
先に「フランスの風景 樹をめぐる物語」展
@損保ジャパン日本興亜美術館
で見た
ドレの「嵐の後、スコットランドの急流」に目を奪われてから、油彩画の方も赤丸急上昇中。
思い出してみれば国立西洋美術館の常設展
で見られる「ラ・シエスタ、スペインの思い出」も
深い陰影を湛えて引きつけられる作品でしたなあ。
お次はどうも写りがよくないのか、らしさはいまひとつかも知れませんですが、
クロード・モネ
なのでしてクルーズ地方の谷の日没を描いたもの(1889年)。
超拡大した画像を切り出してみようかとも思いましたが、印象派はやっぱり
現物を見なくてはですね。
これはギュスターヴ・モローの…と言いたくなるところではありますが、
実はその弟子ジョルジュ・ルオーの作品なのですなあ。
1894年ではルオーは23歳くらい、らしさ全開の厚塗りに突入するのはまだまだ先なのでしょう。
と、時代は20世紀に入って最初はアンリ・マルタン
が春のコテージを描いた作品(1910年)です。
アンリ・マルタンで思い浮かぶ明るく華やかな色彩(例えば西洋美術館
や松岡美術館で見るような)は
トーンダウンしている作品ですけれど、筆のタッチを見るのも妙味があるのですよねえ。
続いては見るからにナビ派
の雰囲気を醸している「ノルマンディーの風景」(1920年)。
アンティミストとも言われるピエール・ボナールの作品ですが、ここでは屋外の風景。
象徴主義的なふうに解釈を施したくなるようなところが感じられますですよ。
ここでついに抽象画
の登場となります。
上がヴィリー・バウマイスターの「Green figure」(1926-27)、
下はジョルジュ・パパゾフ「Imaginary Landscape」(1931-32年)で
いずれも初めて名前を目にする作家でしたけれど、
1920年代後半から30年代初め頃という時期のせいか、
ポップさの感じられる絵ですね。眺めるのに眉間にしわが寄らないですし(笑)。
これが20世紀も後半に突入しますと、なかなかツカミは悪くなってくるような。
それでも「無題」なんつうタイトル(例えばすぐ下の画像はシモン・アンタイ「無題」(1957))が
増えてもくるわけで、「勝手に見ておくれよ」的な気ままさも実はあるのですよね。
気ままに見ていたとてそれなりに面白いことに気付いたりすることもあるわけでして、
上の「13 septembre 1966」なるピエール・スーラージュの作品では
かつてアルフォルメル
展@ブリヂストン美術館
でスーラージュの黒を見たときにも
気まま見の成果がそれなりにあったなと思いましたですよ。
そして時代はさらに下り、1970~80年代に入ります。
こうなると個人的には些かリアルタイム現代感さえ抱いたりしますけれど、
それ以前の、一見して「何じゃろ?」と思わせるものよりはもう少し見る側にやさしいような、
「全く分からないというわけでもなさそう」といった感じの作品が出てきますですね。
下はマリア・ヘレナ・ヴィエイラ・ダ・シルヴァ「The Theatre of Gerard Philipe」(1975)です。
上のはジャン・デュビュッフェの「Site with two figures」(1981)という一枚。
デュビュッフェはまるで子どもが「自由に」に画用紙を塗りつぶしたような描きようが多いですが、
それでも子どもの無意識さとは違う、ある種計算づくのところが感じられたりも。
もっともデュビュッフェはもっと以前(これは1962年の作品)には
こんなポップなふうの作品を多数作っているわけで、
それに比べるとむしろとっつきにくい系の進化をしたともいえましょうけれど。
とまあ、そんなふうにモダンアートも概観できてしまうウンターリンデン美術館、
イーゼンハイム祭壇画
はもちろん目玉であるにせよ、
それ以外にも十分楽しめるコレクションなのでありました。