美術絡みの話だろうと、例によって内容をよく知らないままに映画「モネ・ゲーム」を見てきたのですね。

どれくらい知らなかったかと言えば、場内でプログラムを「マネ・ゲームの…」と言って買ったくらい。

それでもスッと出てきたものですから、映画が始まって早々にモネの「積み藁」が出てきたときになって

「あらら、モネ・ゲームだったの?!」と思ったくらい(笑)。


映画「モネ・ゲーム」


ということで、映画「モネ・ゲーム」の話ですけれど、こいつは面白い映画でありますよ。

誤解のないように申し上げれば、映画館で見ているその時、十分に楽しめる。

それだけといえばそれだけですが、実に楽しい90分(ほどほどですな)が過ごせるのではから、

文句はありませんです、はい。


オープニングはアニメ仕立て。

これにサックスの音がからんだ作りは往年の「ピンク・パンサー」シリーズを思い出させるところ。

(もっとも、「ピンク・パンサー」のテーマはテナー・サックスで、こちらはアルトだったかな・・・)


こうした始まりであることに加え、全体的に昔の映画を見るような錯覚にとらわれますね。

派手なアクション・シーンがあるわけではない。何かしらハイテクものが出てくるわけでもない。

SFXもカーチェイスもさほどの暴力(パンチ一発で十分効果的!)も、さほどのお色気(?)もない。


大枠のストーリーの中に、小ネタ、小ネタをてんこもりにして仕立て上げた一編は、

苦笑、爆笑、失笑…数々の笑いを巻き起こしてくれるわけです。

これを実現するのに配されたコリン・ファース、アラン・リックマン、キャメロン・ディアス、

そしてスタンリー・トゥッチという面々が、それぞれ役柄にピタリというべきでありましょうか。


モネの「積み藁 夜明け」と対になるべき「積み藁 夕暮れ」はナチスに奪われ、

ゲーリンクの邸に飾られたものの、そこに連合国軍が踏み込んだあと、

「積み藁 夕暮れ」は行方不明のままに。


その「積み藁 夕暮れ」がテキサスの片田舎のトレーラー・ハウスに飾られていることが判明。

「積み藁 夜明け」を所有する英国のメディア王シャバンダー(アラン・リックマン)としては

「夕暮れ」もぜひ手に入れたいと、持ち主であるPJ(キャメロン・ディアス)をロンドンに招くわけですが、

この裏にはシャバンダーのキュレーターであるハリー(コリン・ファース)の、

雇い主に対する積年のうらみつらみから生じた策謀があった…てなお話。


ハリーとPJは共謀者ということになりますけれど、方や生真面目で要領の悪い学芸員、

方やロデオ名人の天衣無縫な田舎娘、何の関わりもない二人ながら

昨今の映画の傾向から考えれば必ずや最後にはなんとかなっちゃって・・・とか思うわけです。


途中で、ハリーのシャバンダーへの妬みとも思える言動にPJが

「あなたはあなたのままでいいのよ」てなことを言ったりするからには、

こりゃもう間違いなし!なんて思うのが、見事にはずされるんですよねえ。


はずされるといえば、最後はこうなろうと予測した範囲内ながら、

それをもひとつ上回るひねりがあったのも「ふ~む」と。

途中で日本人が思い切りカリカチュアライズされて出てきますけれど、

それもただそれだけで終わるものではなかったのだなと改めて。


邦題は「モネ・ゲーム」とあまり工夫もされてないながら、

原題の「Gambit」とはチェスで言うところの最初の指し手のことだとか。


さらに語源としてはイタリア語で「つまづかせる」との意から出ている言葉だそうで、

相手をつまづかせる意図を持った初手と考えると、

見ている限りつまづきまくっているのはコリン・ファースの方なのですが、

はて本当につまづかされているのは、あの人であり、この人であり、もしかしたら見ている側かも…

その辺が面白さの由縁ではないですかね。