南西ドイツ紀行
というわりにはフランスへのサイドトリップ
の話が何回かに及んでおりますが、
今しばらくはフランス、コルマールのお話ということで。
で、ちと後だしになりましたけれど、ウンターリンデン美術館
随一の目玉作品といえば
マティアス・グリューネヴァルトの「イーゼンハイム祭壇画」ということになりますですね。
この、他に類を見ないほどに痛々しい姿のイエスは
何らかの画像でご覧になったことのある方も多かろうと思うところです。
クローズアップするのもどうかと思いますが、初めての方に上の写真では小さいでしょうから。
作者のグリューネヴァルトは16世紀初頭の画家ですけれど、
「イーゼンハイム祭壇画」は1511-1515年頃に制作された作品であるとのこと。
マインツ大司教
と関係が深かった画家とのことながら、この作品は
コルマール近郊の町イーゼンハイムの聖アントニウス会修道院施療院礼拝堂にあったことから
この美術館に所蔵されているのでありましょう。
ちなみに中世ヨーロッパでは麦角中毒という病気が広まることがあり、
麦角菌の寄生する麦類をパンにして食することなどを通じて罹患したようですけれど、
聖アントニウス会の修道士はこれの治療に秀でていたころから、
麦角中毒快癒の祈願といえば聖アントニウスというのが定番だったようで。
この祭壇画が置かれたのはそうした治療院のひとつなのでしょう、
稀に見る痛々しさで描かれたイエスの姿に患者たちは我が身の苦難を重ね、
耐えたのでありましょうか。そのためにわざわざ痛ましく描かれたとも言われているようです。
これは祭壇画の第2面裏の隅に描かれた麦角中毒患者らしき者ですが、
体のあちこちに膿をもったような腫れで苦痛に耐える姿は
先のイエスとやはり重なるようでもあろうかと。
と、ここで第2面と言いましたけれど、最初に写真を挙げたのが最も有名な第1面でして、
実はイーゼンハイム祭壇画は第3面まであるのですな。
上から第1面の裏、第2面の表、第2面の裏、そして第3面には三体の彫像
(中央に聖アントニウス、左側に聖アウグスティヌス、右側に聖ヒエロニムス)が
納められているという。
ここでうっかりしてはいけんのですが、第1面、第2面の裏といった部分は
それぞれの表側を開くことによって第1面裏側の絵は第2面表側の左右に現われ、
第2面裏側の絵は第3面(三体の彫像)左右に現われるわけなのでして、
最後の中央に聖アントニウスが座す第3面ではその左右のサイドに
それぞれ「聖アントニウスの聖パウロ訪問」、「聖アントニウスの誘惑」が配置されている…
というのが本来の姿なのですなあ。
とまあ、類い稀なる痛々しいイエスの姿を描いた祭壇画は麦角中毒との関わりがあると知り、
また第1面の痛々しさだけでなく、その裏側には神々しい世界やら妖しの世界が展開していると
知ったのでありました。
また、この旅のもそっと後にグリューネヴァルトの別の作品に出くわすことになりまして、
その「一見して、グリューネヴァルト!」ぶりには驚かされることにもなるのでありすよ。