パナソニック汐留ミュージアム
で開催中の展覧会を見てきたのですね。
「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち」展というものです。
ゴーギャンと言えばタヒチということになりがちなところがありますけれど、
個人的にはですが、タヒチでの作品よりもポン=タヴァン周辺で制作した方に
どうも惹かれるような。
確かにタヒチはゴーギャンにとって終の棲家となった場所ながら、
上のフライヤーにも「ゴーギャンのもうひとつの楽園」とありますように
ブルターニュ地方のポン=タヴァンにもたびたび滞在している。
そして多くの画家との出会いと別れがその画家たちと相互に影響しあって、
そこから立ち現われるナビ派
にも関心しきりであることからすれば、
この展覧会はとても興味あるものなのでありました。
ですが、ゴーギャンにとってのポン=タヴァンは
初めから「楽園であろう」と目して出かけた場所ではないようで。
1886年、8回目にして最後の印象派展に参加した後に
ゴーギャンは初めてポン=タヴァンに向かいますが、その時は
「パリのアトリエが閉まる夏の間を過ごす安い宿と食事を探していた」という
その条件にたまたま合致したてなことなのでしょうか。
それでも7月中頃から10月の中頃まで滞在中に油彩画18点を描いたということですから、
題材として感じる事物、風景に出くわしたのではなかろうかと。
その頃の作品として箱根のポーラ美術館から貸し出された
「ポン=タヴァンの木陰の母と子」(1886年)が展示されていますけれど、
当時はまだ「ピサロの強い影響が残る」と解説されているのが
「確かにね…」と思えるものではあります。
翌1887年は春から中米パナマ、マルティニークへと出かけて、ほぼ終わってしまいますが、
1888年になると1月末にはもうポン=タヴァンへと出かけている。
季節から考えても、最初のポン=タヴァン訪問とは理由が異なるものと
想像できるのではなかろうかと。
この年に描いた「2人のブルターニュ女性のいる風景」(1888年)は
同年作でゴーギャン代表作のひとつ「説教のあとの幻影」にも見られる
ブルターニュに独特な衣装をまとった女性が描かれていて、ゴーギャンの関心を窺わせますね。
ブルターニュの人びとはケルト系の末裔でもあって、
妖精
との関わり深いケルトの伝承もまた残されていたとすれば、
「説教のあとの幻影」はキリスト教由来の題材ながら幻影として描くありようは
むしろケルト系のスピリチュアルな世界なのかもと思ったりするところです。
「ポン=タヴァンの木陰の母と子」に比べて「2人のブルターニュ女性のいる風景」は
もはやゴーギャンの個性と思える画面になってきてますけれど、
ここでちょっとした寄り道的にポン=タヴァンを離れることに。
1888年10月にゴッホの懇望によってアルルへと向かうのですね。
もっとも2ヵ月ほどでゴーギャンがパリに帰ってしまうことはご存知のとおり。
そして明けて1889年の2月、ゴーギャンは再度ポン=タヴァンに向かいます。
展示の中では、この「玉ねぎと日本の版画のある静物」がその頃の作品かと。
ブリヂストン美術館
にある「馬の頭部のある静物」ほど顕著な扱いではないにせよ、
端の方に顔を覗かせている浮世絵
の女性像に、ジャポニスムからの影響は
もはや名残りの段階?かと思えてもくるような。
1891年4月、いよいよゴーギャンはタヒチへと出かけていき、
93年に一度パリへと戻るも95年には再びタヒチへ。
そしてもはやフランスに帰ることはなかった…と、
すっかりゴーギャンの話ばかりになってしまいましたですが、
今回の展示はそればかりではないわけで。
タヒチ以前では、かなりこだわりをもったと思われるポン=タヴァン、そしてブルターニュ。
そこでは多くの画家たちとの交流(友情もその破綻も)があって、
ゴーギャンは刺激を与え続け、またゴーギャン自身もいくばくかの影響を受けたでありましょう。
ゴーギャンがゴーギャンになっていく過程、そして同地に集った画家たちの類似性と独創性…
そのあたり(ここでは端折って恐縮ですが)に探りの目を向けるのも、
本展のお楽しみであろうと思いますですよ。
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