「最近では肛門付近を指で押して排便しています…」
「もう、トイレできばる元気も無くなりました・・・」
排便困難(便秘症)の整体治療
患者Sさん=70才-女性-主婦の症例
① Sさんの病歴・・・
患者Sさんは、8年前に「血栓状の肛門下垂、又はデキモノ(血栓性外痔核or直腸脱…直腸瘤?)と肛門痛」および「胃下垂による腰痛、下腹部痛、残便感」などの治療のために当院に来院されていました。
これらの愁訴がほぼ改善した後、Sさんは体調管理に気を使うようになり、健康的な生活を送っていたそうです。しかし3カ月ほど前から排便困難な状態になったそうです。具体的な症状は、排便(便意)はほぼ毎日あるそうですが、便は極めて硬く、便が肛門付近で止まってしまい、トイレで何度力んでも出ない事が続いていて、そんな時は肛門付近を指で押して出していたそうです。市販の便秘薬やMCTオイル、食物繊維を含んだ食材を食べるようにしていても無駄だったそうです。最悪の場合、浣腸を何度もしていたそうです。この様な状態がずっと続いていたせいで、最近では「もう、トイレできばる元気も無くなりました」との事で、今回の来院となりました。
(Sさんは本件で病院の受診はされていません)

② Sさんの診察
【今回の「排便困難」の病歴】
・便の量は普通くらいで、便の性状は、毎回石ころの様に硬い便だそうですが、便の太さそれほど小さくは無く、普通の太さで、便に筋は通っていないそうです。便の色は濃くも薄くも無く、普通の色で、血便も無かったそうです。何とか無理をして出しても、強い残便感が残るそうです。
・この3か月ほどいきみ方が強かったせいで、8年前に改善して良好だった痔による出血が何度か再発したそうです。
・食欲は普通だそうですが、Sさんは「胃下垂が再発したのか、胃が動いていない気がします」と仰っていました。
・下肢に神経痛などは無く、歩行に支障は無いそうですが、両下腿に静脈瘤があるそうです。また両手、両足の冷え性もあるそうです。
・尿の量や排尿間隔は普通だそうです。
・50代で閉経していますが、生理痛は特に無かったそうです。子宮の筋腫や後傾後屈など、特段の婦人科疾患も無かったそうです。お子さんを一人産まれていますが、安産だったそうです。
・腹部聴診上、血管雑音はありませんでした。グル音はやや弱めに聴取出来ました。
・腹部触診上、恥骨結合から臍の下方にかけての正中線上深部(約10cm)で、直腸と思われる硬結部が触診できました。それは肛門側ほど硬くなり、圧痛もありました。肝脾腫や同部の叩打痛はありませんでした。また下腹部全般に宿便(残留便)と思われる粘土状の抵抗感が広がっていました。
【Sさんが8年前に「血栓状の肛門下垂、又はデキモノ」の件で当院に来院されたときの病歴】
・十数年前に内痔核(イボ痔)に罹患し、その時は手術をされました。しかしその後も何度かイボ痔が再発し、その度に手術をされていたそうです(手術の回数は正確には覚えていないが、3回くらいだそうです)。そして今回は2か月ほど前から肛門の1~2cmほど奥から枝豆ほどの大きさのイボ痔が出来ていたそうですが、今まで何度も手術をしてきて、「もう手術はやりたくない」との事で、今回の来院となりました。

➂ 治療目標と整体治療
⑴ 直腸の筋力を回復し、便の排泄力を回復する
⑵ 骨盤神経叢の自律神経失調を解放し、便の吸収過多を改善する
⑶ 上・中・下直腸動静脈の循環を解放する
⑷ 消化管平滑筋の機能を改善し、宿便(残留便)の排泄を促す
⑸ 念のために専門医で精査を受けることを勧める
・直腸解放テクニック
・骨盤神経叢解放テクニック
・上・中・下直腸動静脈解放テクニック
・消化管平滑筋テクニック
「(治療の)翌日、翌々日、三日目と、出しにくかったですが何とか排便できました。硬さはあまり硬そうでなく、普通ぽかったです。ただ昨日(三日目)はいつもの2倍以上の大量の便が一度に出て、びっくりしました」と仰っていました。
・3診目来院時、
「(治療の)翌日は硬めの便が普通に出ましたが、翌々日、三日目、四日目と大量に出ました。そのせいか今日(五日目)は少ししか出ませんでした。まだかなりきばらないと出ないですが、一度で大量に出るようになっています」と仰っていました。触診上、直腸と思われる正中線上の硬結部は、その臍側でやや弛緩して、圧痛も軽減していました。但し中部から肛門側ではかなり硬結したままでした。
・4診目来院時、
「治療してもらった日は硬めの便が大量に出ました。翌日と翌々日は少量しか出ませんでしたが。そして三日前と昨日も大量に出ました。まだ出しにくいですが、でも以前に比べると出しやすくなった気がします」と仰っていました。また「残便感は無くなっています」とも仰っていました。触診上、直腸と思われる正中線上の硬結部は、その臍側から中部にかけて弛緩し、圧痛も軽減していました。但し肛門側(特に左側)ではかなり硬結したままでした。
・5診目来院時、
「今週は、治療の翌日と次の日にいつもの2倍近くの便が出ました。その次の日は出なかったですが、またその翌日と翌々日に大量の便が出ました。残便感はもうないですね。でもまだ少し便を出しにくいですね」と仰っていました。触診上、直腸と思われる正中線上の硬結部は、その臍側から肛門近くにかけて弛緩し、圧痛も軽減していました。但し肛門側の左側ではかなり硬結したままで、圧痛も強いままでした。
・6診目来院時、
「便の出しやすさは大分マシになりました。一昨日は今までで一番大量に出ました。その日は昼過ぎにも硬めの便がかなり多く出ました。」と仰っていました。触診上、直腸と思われる正中線上の硬結部は、その臍側から肛門近くにかけてかなり弛緩し、圧痛もほぼ解消していました。但し直腸肛門側の最深部左側ではまだ硬結したままで、圧痛も残っていました。
この段階で、直腸の硬結部は少しだけ残っていましたが、Sさんの症状はほぼ緩解し、また宿便(残留便)も大幅に排泄できたので今回の集中治療を終了し、以降は1~2カ月に一度程度のメンテナンス治療に変更する事にしました。

⑤ 今回の症例の概説、、、
排便困難の主な原因・・・
・排便困難は慢性便秘が最も一般的な原因ですが、その他にも不摂生な食生活、運動不足、痔核、直腸瘤、腫瘍、排便反射の低下など、多岐にわたります。またその中には腫瘍などの生命に直結する疾患もあるので細心の注意を要します。・
・ところで今回のSさんの排便困難症例に関しては、上記①「Sさんの病歴」や➁「Sさんの診察」にもあるように、排便はほぼ毎日あり、便は太くてスジも無く、血便も無いなど、上記の原因に当てはまる具体的な所見がありませんでした(但し、腫瘍や直地楊柳など精査しないと分かりにくい病態もあるので、Sさんには精査を受けるように勧めています)。
過去の痔核の手術歴が関係する?!
・ただ一つ、気になることがありました。それは今回の所見ではありませんが、Sさんが8年前に「血栓状の肛門下垂、又はデキモノ」の件で当院に来院されたときの病歴でした。それは、Sさんは過去に三回以上もイボ痔(痔核)の手術を受けていた、ということです(☚Sさんによると手術の回数が多かったので、正確な回数は覚えていなかったそうです)。つまり肛門から直腸付近の臓器/組織に「手術」という外科的侵襲が加わっていた既往歴がある、という事です。
Sさんの排便困難の原因(仮説)・・・
・ここからは推測ですが、Sさんの排便困難は、度重なる手術によって直腸~肛門を構成する筋組織自体(場合によっては壁内神経叢を含む)に後遺障害が残り、それがSさんの加齢に伴ってその機能障害が進行し、便を排泄する筋力が限界を超えて低下したため、排便困難が生じているのではないか、という仮説です。
直腸の筋肉
食道から直腸までの消化管に内在する壁内神経叢
・その根拠の一つとして、触診検査において「恥骨結合から臍の下方にかけての正中線上深部(約10cm)で、直腸と思われる硬結部が触診できました。それは肛門側ほど硬くなり、圧痛もありました。」といった所見が挙げられます。
・あるいは直腸~肛門周辺の血管や自律神経系組織にも、度重なる手術によって生じた血腫や膿の残渣が付着/癒着し、それが原因して直腸~肛門への血流が減少したり、または自律神経の伝達に齟齬が生じたりして、それも上記の仮説に一因しているかもしれません。
骨盤神経叢
直腸付近の動静脈層
Sさんの排便困難の整体治療方針・・・
・以上の仮説から、➂「治療目標と整体治療」に掲げる治療目標
⑴直腸の筋力を回復し、便の排泄力を回復する
⑵骨盤神経叢の自律神経失調を解放し、便の吸収過多を改善する
⑶上・中・下直腸動静脈の循環を解放する
⑷消化管平滑筋の機能を改善し、宿便(残留便)の排泄を促す
⑸念のために専門医で精査を受けることを勧める
を設定し、それに対応する整体テクニック
・直腸解放テクニック
・骨盤神経叢解放テクニック
・上・中・下直腸動静脈解放テクニック
・消化管平滑筋テクニック
を施術する事にしました。
Sさんの整体治療結果・・・
・触診上、直腸肛門側の最深部左側ではまだ硬結したままで、圧痛も残っていましたが、結果はおおむね良好で、それ程きばらなくても排便は可能になり、また相当宿便(残留便)も排泄できたので、上記仮説で妥当であったのでは、と思います。
・ただ一つ気になることは、Sさんは病院での精査を受けていなかったことです。Sさんは三回以上も痔核の手術を受けても痔核が再発したり、あるいは別件ですが、漢方医から処方された漢方薬による副作用で悩んでいたこともあり、病院などの医療機関に対して極度の不信感を持っておられるようでした。ですから病院での精査を勧めてもなかなか受診されようとはしませんでした。
・Sさんは「一カ月に一度くらいはメンテナンス治療を受けに来たい」と仰っていましたので、今後Sさんが来院した際には、重篤な病態が隠れていないかを注意深く診ながら、念のために病院での精査を勧めていきたいと思っています。
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