慶應ビジネススクールでロート製薬山田邦雄会長から聞くー日本経済への直言
昨日は慶應ビジネススクール(KBS)の私が担当している「ファミリービジネス概論」の第7回目の講義があった。今回は外部講師として、KBSの元OB会会長でもあるロート製薬の山田会長から「ロート製薬のチャレンジ経営」というタイトルで、ファミリービジネスのリスクや可能性の話を伺った。
ロート製薬は奈良県の宇陀市で創業され、最初は「万病の元は胃にある」ということで胃薬をつくる会社だったようだ。2代目がロート製薬初代社長で、ここから目薬を作り出したが、意外なことに収益の中心はパンシロンだった。高度成長の時には飲み会が多かったこともあり、1960年代にはパンシロンが月330万こも売れたことがあったという。
1999年に山田邦雄氏が3代目社長になってからは、ファミリービジネスのオーナーのリーダシップで海外シフトや化粧品ビジネス、再生医療へのチェレンジを行っている。それとともに、新たな働き方の方向性も示している。一つがいち早い副業の解禁だ。山田会長いわく「サラリーマンは能力の30%くらいしか使っていないので副業で能力を使うべき」というご指摘は耳に痛い。
日本経済の将来には大きな危機感をお持ちで(当然だが)、ここ20~30年に日本企業が忘れていたものを取り戻さねば子供たちに申し訳ないと言われた。いわゆる失われた30年問題だ。日本人は横並びで人と同じことをしているのが一因で、ハミ出さねばアメリカのGAFAのような企業は生まれない。
ロートでもいろいろなチャレンジをされているが、だいたい成功は3分の一くらいだそうだ。しかし、ヒット3割は野球でいうと優秀なバッターだ。10割バッターはいない。日本企業は10割を目指している間に海外に先を越されたという指摘は、「減点主義」の日本企業の弱点を示している。
ビジネススクールの教育に関しては「失敗の研究こそたくさんやるべき」というお考えで、これは私の1年目の実感であり、共感もできる。これは教科書よりも実際の経営者から聞いた方が身に付くが、なかなか「失敗を話してくれるオーナー経営者がいない」という問題はある。
昨日の講義は「特別講演」として、KBS生誰もが聞けるものだったが、多くの学生が集まり皆、大満足だった。山田会長にはKBSの元OB会会長として、またご指導を頂きたい。
斎藤健さんが再び閣僚へー今の政界では最も骨のある政治家の一人
斎藤健さんが法務大臣となった。ハーバードの大学院で1992年の卒業同期だ。もっとも斎藤さんの方が少し年上ではある。2006年に経産省を退職され、選挙に出た時には驚いたが、そこで落選し、周囲の人は皆去っていったという話を聞いたことがある。まあ、これは誰でもそうで、やはり経産省出身の小林興起さんからも同じ話を聞いた。
2009年に議員になってからは、農業政策を中心として農水大臣もされたので、今回の人事は意外感もある。石破派だったが今は無派閥だ。ある経産省の斎藤さんの先輩は、石破派では事務総長とかはしておらずそれほどコミットしていなかったので、石破さんがああなってもダメージは少なかっただろう、と評していた。この辺りの動きもさすがだ。
今の自民党は岸田さん以下、どうなっているんだという議員、大臣がたくさんいるが、多分、斎藤さんが最も政策通で、人格識見にも優れている人物ではなかろうか。農水大臣をしていた時の資産公開では預金ゼロになっていた。斎藤さんなら有り得る話だ。
思い出すのが、農水大臣の時に安倍政権の閣内にありながら石破さんを応援していたので、「大臣をやめろ」と言った人(ハーバードの先輩だが)に対して「ふざけるな!」と怒鳴りつけたことだ。斎藤さんの方が筋が通っている。閣内にいることと誰を総理候補として応援するかは全く関係がない。
優秀な人が政界に行かなくなってから久しいが、地盤沈下の政界の中で斎藤さんには一人でも気を吐いてほしい。自分のためでなく、国家のために働く斎藤さんを変らず応援したい。
慶應ビジネススクールの授業で文明堂の宮崎社長を招くー婿養子経営の強み
慶應ビジネススクール(KBS)の「ファミリービジネス概論」は既に6回を過ぎたが(全9回)、その第5回では文明堂東京の宮崎進司社長を招き「婿養子経営の強み」について話して頂いた。宮崎社長には、2019年に週刊エコノミストで私が「同族経営の底力」という連載をしていた時に、第3回で婿養子について語って頂いた。当時は大野姓だった。
連載の時にも苦労したが、なかなか「婿養子」の方から婿養子経営のことを直接伺うのは難しい。皆、婿養子ということを公表したがらないからだ。今でも特に地方に行くと「あの家は婿養子だから、、、」ということを言う人が多い。嫉妬心もあるのだろうが、そんな雰囲気だから婿養子という文脈では出て頂けないことが多い。
ところが宮崎社長の場合は、たまたま結婚した相手が文明堂の一人娘であり、そのことは結婚の直前まで知らなかったという非常にレアなケースだ。だからこだわりもなく婿養子になった。しかも、婿養子を集めた「ムコの会」を主宰している。40名ほどのメンバーがいるようだ。
宮崎社長の軽妙な語り口に皆ほれぼれし、婿養子がなぜ強いのか(シガラミがないので事業のリストラや新規事業への進出が容易など)について明解なご説明があり、質疑も時間オーバーまで続いた。特に女性陣からの質問が多かった。受講生もファミリービジネスの現経営者か将来の経営者なので、若い女性経営者候補は婿養子への関心もあるのだろうか。
大学の授業も、特にビジネススクールでは外部講師を呼ぶことが多いが(特に「実学」を旨とする慶應ビジネススクールでは必須だろう)、なかなか実務家でうまい説明ができる方は少ない。もちろん経営が本業だからだ。星野リゾートの星野代表も話が上手だが、宮崎社長もファミリビジネス分野では双璧であろう。またお世話になりたい方だ。
慶應連合三田会での伊藤公平塾長の話ー日本の大学は「なぜ」に答える余裕がない
10月16日の連合三田会では、河野太郎大臣の基調講演に続き、伊藤塾長が加わり対談風な話になったが、伊藤塾長はこの5月から海外の提携大学中心に大学学長と懇談をしてきたという。
その中で気付いたのは、日本の大学は学生からの「なぜ」に答える余裕がないのではないかということだそうだ。日本の教育システムを考えれば当然で、大学でも教科書があり、それを一応は終わらせることが必要だ。教科書を読んで、湧き出た疑問を議論するような授業はないのではないか。また教授もそういう授業はやったことがないのでやりたがらないだろう。
しかし、この「なぜ」を突き詰めていく議論、過程に意義があるという。もちろん、途中で「なぜ」が続くと教授も答えられなくなるのだが、この過程で多くの思考力や発想力、想像力が身に着くのではないか。アメリカの中、高は知識の詰め込みではなく、こういう授業をやっているようだ。もちろん大学でも同様だ。
日本の大学でも学部はきついかも知れないが、大学院だと自由度があるので、こういう「なぜなぜ」授業も可能ではないかと感じている。前回の慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス」の講義でも終わりの方で若い受講生から「なぜ」の質問が出て、皆で議論した。ビジネススクールに来ている人はだいたいこういう議論が好きなので、時間をオーバーしてもやるだろう。
慶應でも伊藤塾長の下で、だんだんと「なぜ」に答える授業が増えてくるのだろうが、私の授業では、福沢先生の言われた慶應義塾の目的である時代の「先導者」の育成を目指して、一足早く「なぜ」に答える授業を始めてみようと思っている。
初めて慶應連合三田会に参加ー河野太郎氏がメインゲスト
さる10月16日(日)は、日吉で3年ぶりとなる対面での連合三田会があった(オンラインとのハイブリット開催)。オンラインもあったせいか、参加者はコロナ前の3分の一くらいだったそうだが、それでも大変な人数だった。慶應卒業後、早30数年が経つが連合三田会に出たのは初めてだ。
今回突然参加したのは、何よりも40年来の知り合いの菅沼安嬉子氏が連合三田会の会長として初めて対面で御挨拶されたからだ。普通はそうした場合は原稿を読み上げるのが常だが、この方は原稿なしで話す人だ。自分で何度か練習すると覚えられるというから相当な才能の持ち主だ。
半年ほど前、菅沼会長にお目にかかり、雑談の中で「今年の連合三田会でメインゲストは誰がいいと思う?」と聞かれた。私は間髪を入れず「河野太郎でしょう。伊藤塾長と対談させたらいいですよ」と申し上げた。河野太郎氏と伊藤公平塾長は旧知の仲なので、この線がいいと思ったのだが、その後、先月プログラムを見たところ本当にそうなっていたので驚愕したのだ。
もちろん、私の意見をそのまま採用したのではなく、いろいろな人から意見を聞き、また河野太郎氏がデジタル大臣になったことも大きかったのだろうが、何となくこの対談は聞かなくてはならない気がして日曜日に日吉まで行ったのだった。
また、9月から基本、毎週月曜日の夜に日吉の「慶應ビジネススクール」で講義をやっていて、日吉が身近に感じられていることもハードルを低くした。しばらく祝日などで講義がなかったが、また来週から始まるので、真剣に授業を聞きにきてくれる受講生のために、こちらの準備もぬかりなくやろう。
3年ぶりにスイスでファミリーオフィス国際会議に参加ーまだ少人数
先週は3年ぶりとなる対面でのファミリーオフィス国際会議がスイスで開催された。私はコロナ後は海外に行っていないこともあり参加したが、さすがに参加者は少なく、欧州の参加者ばかりで議論もあまり盛り上がらなかった。
ファミリーオフィスの会合は秘匿性が高いため、なかなかオンラインの開催は難しく、対面が主流となる。その場合でも、会合で出た議論は紹介はできても誰が言ったかは話してはいけないイギリス流の「チャッタムハウス・ルール」がある。
私はいつもの「世界初のファミリーオフィスは三井の「大元方」だった」と説明し、議論を起こそうとしたのだが、今回は参加者が少なかったこともあり活発な議論ができたとは言い難い。来年以降に期待だ。
会合の翌日は、スイスを電車で一周したが、ついに「マスク」をしている人に会うことはなかった。ちなみに会合でも皆マスクをしていなかったので、私も久々にマスクを外して話した。
また近頃話題の「海外の物価の高さ」だが、スイスでも御多分に漏れず、驚いた現実があった。首都ベルンでラーメン屋があったので入ろうとしたが、値段を見て1スイスフラン150円弱で計算すると、何と4000円だ。翌日帰国する状況だったので、さすがに入ることはなかったが、スーパーへ行ってもコーラが600円だし、知らない間に世界は大きく動いていたと実感した。
よかったのは、成田で事前にMYSOSのアプリを入れていたせいか、以前と変わらずスムーズに出てこれたことだ。これからは機会があったら再び海外に出て、日本でも江戸時代からファミリーオフィスがあり、今のところ文献で確認されている中では世界一古いという、「日本発ファミリーオフィス論」を紹介していきたい。
慶應ビジネススクールでのファミリビジネス講座始まるー二世が多い
昨日から慶應大学大学院ビジネススクール(KBS)での「ファミリービジネス概論」という講座が始まった。日本で一番ファミリービジネス関係者が多いはずのKBSで、ファミリービジネスの講座ができるまで、なぜか時間がかかってしまった。この分野に関心のある教授がいなかったこともある。
第1回は参加者30数名から、なぜこの講座に参加したかと、この講座に期待することを伺った。KBSはかつては全日制で2年間仕事をやめねばならなかったが、現在はEMBAという社会人用のコース(職務経験15年以上)が加わり、いろいろなバックグランドの方が参加している。
この講座の受講生は、明治ビジネススクールでの経験から、金融機関や士業(公認会計士や税理士)が多いと思ったが、そういう方はほとんどおらず、①勤務先がファミリービジネス、②家業がファミリービジネスのどちらかで、特に全日制の方々に二世が多いのに驚いた。家業を継ぐべきか継がざるべきかの悩みは大きい。星野佳路さんの悩みのようだ。
福沢先生が 慶應義塾をつくった目的は「実学」を教えることだった。それを慶應の中で一番体現しているのがビジネススクールだ。この分野では日本のルーツ校でもある。1978年にKBSを作ったのが私のゼミの指導教授である石川忠雄塾長だったこともあり、「役に立つ講座」を目指したい。
誰もが困る後継者問題②ーいい世襲とわるい世襲の違いは?
日本のマスコミはなぜか「世襲」という言葉に嫌悪感を持つ。マスコミは世間の風を読むので、つまり日本全体が「世襲」にアレルギーを持っているということだ。これは日本人独特の嫉妬心にも関係するが、当然、世襲にも「いい世襲と悪い世襲」がある。
マスコミは「いい世襲」を取り上げることがなく、報道されるのは全て「わるい世襲」ばかりだ。これでは一般人も「世襲は全てわるい」と感じてしまうが、冷静に考えると世の中の半数以上の世襲は「いい世襲」だ。そうでないと日本には長寿企業など存在しない。日本は世界一の長寿企業大国でもある。
世襲で最悪なのは、最初は世襲批判もあるので息子に継がせないと公言しながら、晩年になって突如「親心」を出し継がせる例だ。これでは継いだ息子の方も、準備もしておらず悲惨な結末を生むことが多い。ダイエーがいい例で大塚家具など、マスコミを騒がしたのはほとんどこの例だ。親の代で創業し、事業承継に慣れていない事情もあるだろう。
他方、最初から継ぐべき人が決まっていて、幼いころからそういう教育を受けてきた人は最初は「世襲批判」を受けるが実績で批判をなくすことが多い。トヨタがその例で、ほとんどの長寿企業はこの例だ。たまには大王製紙のギャンブラー息子のような例もあるが、これは子弟の金銭教育を怠ったためだ。
日本の伝統芸能の能や歌舞伎はまさに「世襲」だ。同様に、変化の少ない経営環境にある老舗もほとんどが世襲だ。その方がうまくいくと経験的に分かっているからだろう。他方、変化の激しいIT業界などは世襲では対応できないだろう。
こうしてみると、「世襲がいい業界とわるい業界」があることにも気づく。政界だって世襲批判は強いが、自民党の上層部で活躍している人のほとんどが2世議員というのも不思議ではある。世襲が成功するかどうかは「業界」と「親の教育」だと考えているが、まだまだ日本では全体として世襲が幅を利かせそうだ。
日本電産の永守さんも困る後継者問題①ーファミリービジネスの最大の難題
昨日から日本電産のゴタゴタがニュースになっているが、問題はよくある後継者問題だ。
ファミリービジネスでは必ず起こる問題で、私自身もファミリービジネスの経営に関わっている中で、社長が一番気にしているのが後継者問題だ。日本電産の場合は子息に継がせるという問題ではないが、多くは世襲問題だ。これには日本独特の「世襲批判」がからむ。
そもそも世襲批判というのは、親が能力のない息子に継がせることが問題なのであって、政治家では当然批判されるべき話だ。特に日本ではタレント議員が横行するなど誰でも政治家になれるし、それでもやっていけるというのが問題なのだ。しかし、企業では能力のない息子が後継者になると「会社が潰れる」ので、やってはいけないのが大きな違いだ。
なぜか日本ではこの二つがごちゃまぜになっていて、何でも世襲は批判される傾向にある。しかし、企業はもちろん政治家でさえ能力のある息子が継げば何の問題もない。事実、トヨタの豊田章男さんも2009年に社長に就任した時には、お決まりの「世襲批判」を受けたが、その後のトヨタの好調ぶりを見て今では批判もなくなり「創業家の凄み」さえ言われるようになった。
政治家の問題点は、企業における業績のような評価基準がないことだ。だから能力のない人でも「何となくやってしまう」ことになる。企業の場合は能力のない息子が継ぐと会社が潰れるので、これが大きな自浄作用になるのだ。だから、昔から老舗は息子の能力がないと「婿養子」を取ったり、いろいろな知恵があるのだ。
しかし、問題はそう単純ではない。「理」ではそうだが人間には「情」も絡む。息子に能力がないことがわかっても継がせたいのが親心で、これはどうしようもない。そこで現実には能力のない二世がトップとなり問題になることがある。これをマスコミが必要以上に面白おかしく報道し、ファミリービジネスのイメージが悪化することになる。
昨日の日経新聞の柳沢幸雄前開成校長の話ー5月に北鎌倉女子学園で詳細を聞く
昨日、日経に柳沢さんのインタビュー記事が出ていた。とはいっても字数の関係で背景がよくわからない内容になっており、要は「1000人の令和版遣唐使を出せ」ということだが、その背景はこんなことだ。
そもそも、柳沢さんとはハーバードに行った30年以上前に「ハーバードで地球温暖化の研究をしている日本人がいる」と聞いて会ったのが最初だ。その後、アメリカにいた2年間お世話になって、東大に移った後も時々お会いしていた。息子が大学に入った報告もあり、5月の連休明けに、柳沢さんの現在の職場である北鎌倉女子学園に行き、たまたまこの話を聞いた。
背景は柳沢さんが東大の蓮見総長の時代に、総長の補佐として大学改革にあたっていた時代に遡る。もちろん、ハーバードでの教職の経験を買われて東大改革に携わったのだ。ところができたことは「60歳定年を65歳に伸ばした」ことだけだったという。私は「それだけでもすごい」と言ったのだが、何と東大の60歳定年制は大正時代に定められたものだそうだ。
東大に限らず大学改革は至難の業だ。秋学期制を導入しようとした東大浜田総長もひどい目にあった。大学の教授は、その仕事柄いろいろな理屈をつけて改革に抵抗してくるので(ある大学のオーナーに言わせると大学教授は「屁理屈を考える天才」だそうだ)、現状維持になってしまうことが多い。
柳沢さんはその経験から「大学は供給側(大学自身)が自ら変わることはなく、需要側(学生側)の圧力からしか変わらない」という名言を吐露した。需要側を変えていくには現状の留学生数では話にならず、1000人規模の留学生を出すことで、その少なくとも半数は帰国して大学に戻ってくる。彼らは世界標準の学びを日本に持ってくるので日本の大学も教授も変わらざるを得なくなる。これしか日本の大学を変える方策はないという。
なかなか柳沢さんらしいシャープなアイデアだが、奨学金の手当の問題や、そもそも今の日本でそれほど多くの優秀な学生が留学を望んでいるかという問題もある。がしかし、これほどのドラスティックなことをしない限り「日本の大学は変われませんよ、世界から取り残されますよ」というのが柳沢さんのメッセージであり、私も全面的に賛同する。