今年の慶應ビジネススクール「ファミリービジネス概論」は35名でスタートー来年はもっと増えそう
9月12日から慶應ビジネススクール(KBS)で初めての「ファミリービジネス」講座が始まるが、事務の方から受講生の人数を知らせてきた。今年はコロナの影響で「単科受講」という外部の方の受講ができないので、私の明治ビジネススクールでの経験から30名程度だろうと考えていたが、やはり35名ということだった。
来年にはさすがにコロナも終結し、「単科受講」が復活するだろうから人数は増えるだろう。そうなると議論ができるか心配ではある。成績は授業点でつけるので発言しないと点数にならない。アメリカのビジネススクールの授業のようだ。
授業点重視ということと関係あるのか、分からないが、既に「〇月〇日は欠席です」などというメールが入っている。まあこうしてくれると出欠を取る必要がないので助かることはある。また聴講の希望もメールで来る。仕事の関係でこの講座に全て出れないので履修はできないが、出れる時には受講したいということだ。アメリカでもこういうことはよくあった。
KBSは初めてだが、いずれにせよ福沢先生の「実学」を今の慶應で最も体現しているのはKBSであることは間違いない。私のゼミの指導教授の石川忠雄先生が1977年に慶應塾長になり、最初に行ったのがKBSの創設である。もちろん「実学」を体現するためだ。
石川先生は亡くなる直前にもKBSのことに心を砕いていた(それとSFCも。要は自分がつくった二つの組織のことを心配されていた)。学生時代から就職、留学、また独立後も大変お世話になった石川先生の想いを少しでも実現させるため、「実学」にこだわった授業をしてみたい。
慶應連合三田会会長の菅沼安嬉子医師と久々に会うーご主人が高校の先輩
昨年驚いたことは、伊藤公平さんが慶應の塾長になったことだが、一昨年に驚いたことはやはり旧知の菅沼安嬉子医師が連合三田会の会長になったことだろう。雑誌で拝見し、一瞬目を疑った。どうしても連合三田会の会長というと、長年やっておられたセイコーの服部礼次郎さんのイメージがあり、財界の大物がなるという刷り込みがあった。
なぜ私が菅沼先生と知り合いになったか、それは大学3年の4月に風邪を引き、三田の近くの「菅沼三田診療所」という小さな内科医にたまたま入ったところ、そこの院長が甲府一高の24年先輩だったからだ。本当に偶然だ。その奥様が菅沼安嬉子医師だった。
その後は風邪とか下痢とかの時に年に1,2回伺っていたが、甲府一高の同窓会でもご主人に声をかけてもらっていた。その同期にはオウム事件の時に警視総監をされた井上幸彦氏がおり、お二人にご指導頂いていた。
ご主人の方は残念ながら3年前に亡くなり、非常に悲しい思いをしたが、安嬉子先生の方は意気軒高で、2年前に連合三田会会長という重責を担うことになった。その直後にコロナが発生し、毎年10月開催の日吉での連合三田会はリモートになっていたが、今年は半分対面で開催できるそうだ。
安嬉子先生は昔から鬼の記憶力の人で、連合三田会会長としていろいろな場で挨拶をされる時に「原稿なし」で話される。そうなると伊藤公平塾長の方も原稿を見ながらというわけにもいかず、最近は「原稿なし」になっているそうだ。思わぬところで伊藤塾長の負担が増えているようだ。
安嬉子先生が会長をされている間は連合三田会の会合にはなるべく参加することになる。同様に、伊藤塾長の間は慶應ビジネススクールを初め微力ながらご協力をさせて頂く。
慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス概論」は9月12日開始
今年から慶應ビジネススクール(KBS)で「ファミリービジネス概論」という講座を始めるが、全日程が決まった。今年は残念ながら、コロナの関係で「単科受講」ができないので、KBSに在籍している人しか受講できないが、来年からは誰でも受講できる予定だ。
本年は残念ながら、星野リゾートの星野佳路さんが社業集中のため来られない。2018年、2019年と東大で「ファミリービジネス講座」をした時には2年連続で来て頂いたが、今はアフターコロナのビッグチャンスなので社業に専念して頂きたい。来年からは来てくれるだろう。
外部講師は2名となったが、いずれもユニークな論客だ。一人はロート製薬の山田会長で元KBSのOB会会長だ。灘から東大物理に行かれロート製薬に入ったが、30代になってKBSで学び直しをされた。ロート製薬3代目で、ユニークなファミリービジネス経営の話は聞き洩らせない。特別講演になったので、KBSの人は誰でも受講できる。11月14日だ。
もう一人は文明堂の宮崎社長。私が「週刊エコノミスト」で同族企業の連載をしていた時にご登場いただいた方だ。その当時は「大野」姓だったが、創業家の宮崎姓に変え、正式に婿養子となった。「カンブリア宮殿」にも登場されたのでご存じの方も多いだろう。婿養子経営の強さ、あるいはファミリービジネスの強みと弱みなどを語って頂く予定だ。
他の講義は私と、元KBS校長の奥村昭博先生(ファミリービジネス学会会長)とで、ファミリービジネスの基本的な論点を解説する。初年度でまだコロナの余韻が残っているので、今年は完璧は期しがたいが、来年は「単科」の方と星野さんが来られるだろうから、相当充実したものになると期待しているところである。
「婿養子」はセクハラか?ー近江商人の意外な実態を聞く
先週、ある同族企業のトップと懇談していたときに、あなたは婿養子経営がいいというのだが、これは今日的にはセクハラにならないか、というご指摘を頂いた。確かに、私も昔から老舗はよく婿養子を取るが、女性の方は無理やり結婚させられていたのか、という疑問はあった。
この点、気になったので、歴代婿養子が多かったある近江商人の方に「実態」を聞いてみた。大阪の船場商人は、息子ではなく、娘が生まれた方が喜んだ(優秀な婿養子を取れるから)という有名な話もあり、やはり実態は気になるところだ。
江戸時代、あるいは明治時代には家業のために無理やり男女が一緒にならされたのなら、今日的にはセクハラといえる。パワハラにもなるかも知れない。ところが実際には、やはり人間なので、男女とも親の意向に逆らって結婚しなかったケースもあったようだ。ちょっと安心する話だ。
しかし、逆を言うと、娘を持つ親も婿養子にする限りは、娘も納得する頭も容姿もいい男を選ぶのは当然だ。実態はそういうケースが多く、男女ともOKで「ダメ」という話は少なかったようだ。だから、婿養子制度は全国的に数多く存在したのだろう。江戸時代といえども、セクハラだったら広まるわけもない。
最近は婿養子というケースはだんだん少なくなっている(そもそも結婚件数自体が少なくなっている)のは寂しいが、まだまだ「婿養子経営」で有名な企業も多い。今年の慶應ビジネススクールでの「ファミリービジネス講座」では、婿養子経営の優れたケースとして文明堂の宮崎進司社長に講義をして頂く。意外にも日本にしかない婿養子制度の優位性を今後も広めていきたい。
ちなみに、婿養子経営の優位性は早稲田大学ビジネススクールの入山教授と星野リゾートの星野代表がよく講演などで指摘している。
日本も再び超富裕層ビジネスブームが起きるか?ー三菱UFJ銀行のファミリーオフィス室
今となっては誰も覚えていないだろうが、日本でも2008年は「超富裕層ビジネス」が流行語大賞となった。私もテレビや雑誌の寄稿で忙しかった。同年秋のリーマンショックで超富裕層ビジネスは完全にしぼみ、その後の外資系証券の撤退もまた凄まじかった。
その後はアベノミクスで超富裕層ビジネスが復活すると思ったが、アベノミクスの効果も顕在化する前にコロナ禍に突入した。しかし、やはり金融機関にとっては「この層」しか儲けられる場所がないのは古今東西、自明な話だ。コロナ後の株式市場の復活などから、金融機関はどこでも超富裕層ビジネスを組織的に検討しだした。私のところにも話が来るようになった。
今のところ、形になっているのは三菱UFJ銀行のファミリーオフィス室だが、ともかくメガバンクに「ファミリーオフィス」という名の部署ができたのは大きな進歩だ。今後、他のメガバンクや信託、証券で「ファミリーオフィス」という名の部署ができるか?おそらく、できてくるだろう。
しかし、問題は大組織でファミリーオフィス業務ができるかどうかだ。特に、超富裕層の核たるファミリービジネスオーナーの最大の弱点である「ファミリーガバナンス」、いわゆる「家族の問題」を大組織で扱えるかどうかだ。これは個別具体的な話になるし、非常に泥臭い部分なので、欧米の伝統のあるプライベートバンクでも手をこまねている案件だ。
そもそも「超富裕層ビジネス」は多分、どの業界にとっても最難関の部分であるので、すぐにうまくいくはずがない。私も相当苦労した。しかし、どのみち避けては通れないビジネス分野だし、日本の超富裕層の割合も「二極化」で増えていくだろうから、日本にも「超富裕層ビジネス」が根付くよう、私も無い知恵を絞りたい。
日本に長寿企業が多い理由ー日本独自の「婿養子」と「大番頭」の存在
日本が長寿企業大国なのはよく知られた事実だ。100年企業は3万社以上存在し、世界一だ。第2位は予想通りのドイツだが、第3位は意外にもアメリカだ。中国が多そうな気がするが、100年企業はほとんど存在しない。日本と違って家業を息子に継がせたがらないようだ。これには士農工商の思想が強く影響している。
もっとも、商業が下で役人が上という思想は中国でも変わりつつあるようだ。IT系の大企業が勃興し、そういう儲かっている会社は息子に継がせている。当然の流れで中国も100年後はどうなっているか分からない。
そんな中国でも絶対にできないのが「婿養子」に家業を継がせることだ。中国人にこの話をすると「血のつながりのない人になぜ家業を継がせるの?全く理解できない」という。韓国人に話しても同じ回答だ。
さらに、大阪の船場商人は娘が生まれると喜んだ(いい婿養子を採れる可能性があるから)というと、中国、韓国の人は「これ以上、理解不能な話はやめて」と去っていく。日本人だと婿養子の話は全く違和感がなく、知り合いにもいるような話だが、近い国でもこれほど風習が違うのには驚く。中国、韓国だと息子が生まれないと家業は中断となる。
もう一つの「大番頭」も外国人には全く理解不能のようだ。「なぜ社長より偉い人がいるの」とアメリカ人にも聞かれる。説明は難しいのだが、日本人にとってはそんなに違和感はない。誰々はトヨタの大番頭だというような話は、経団連にいてもよく聞く会話だった。
大半の日本人が、企業は長寿がいいという判断だろうから、日本独自の「婿養子」と「大番頭」はもっと注目されてもいい。私は大学の講義や雑誌の連載などでは必ずこの話をしている。
なぜ欧米では同族企業のイメージがよくなったか?ージョンソンエンドジョンソン社の象徴的な「事件」
私がファミリーオフィスの国際会議に出始めた2014年ころに、よく講演で「日本のファミリービジネスへのイメージは悪いまま」という話をした。そうするとアメリカからの出席者から手が挙がって「いい間違いだ」と言われた。アメリカではファミリービジネスは「責任ある経営」として尊敬されているのだ。この彼我の差はなにか。
もっとも、アメリカでも1970年代までは大学での経済学でも、「会社は所有(株)と経営を分離しなくてはいけない」と教えており、ファミリービジネスからの脱却が唱えられていたようだ。その後のエンロンの破綻やリーマンショックなどで、いわゆる「専門経営者」がよくない存在だと分かり、「オーナー経営者の強さ」が認識されたのだ。
もっとも、これは大学で経済学や経営学を学んだ人の話。一般の人までも今日では「企業はファミリービジネスでないと」と認識しているのは、1980年代にあったある「事件」が大きな影響力を持ったからだ。それはジョンソンエンドジョンソン社の「タイレノール回収事件」だ。
アメリカの薬局に行くと必ず置いてあるタイレノールだが、この中に異物混入が発見された。会社の経営方針「クレド」で消費者第一をうたっている同社は、回収費用が100億円以上かかる(何といってもアメリカは広い)にも関わらず、この決断をした。これが全米の消費者の共感を呼び、同社の収益はそれ以降、むしろ向上したという「事件」だ。
こういうことは任期の短いサラリーマン社長=専門経営者には難しい。長期的な視野でビジネスができるファミリーでないととてもできない決断だ。翻って、日本で同じようなことが起これば、日本人の同族企業に対する評価も一変するだろう。
現時点で思い浮かぶ候補としては、昨年話題になったエーザイの抗アルツハイマー薬ではないか。日本での認可までは時間がかかりそうだが、そうなったら、現在の3代目である内藤CEOの30年に渡る執念が実ることになる。一つの製品開発に30年以上かけることはオーナー社長でしかできない。しかも人類への多大な貢献のある新薬だ。それを契機に日本でも同族企業が正当に評価されることが、同族企業大国の日本の経済発展のためには不可欠ではないか。
そもそも、なぜ同族企業は業績がいいのか?ーエージェンシーコストの重要性
日本のみならず、世界中でファミリービジネスの業績は一般企業(サラリーマン社長の会社)に比べていい。しかし、「直感的」には不思議な感じがする。ワンマンなオーナー社長がいて勝手なことをして、息子はドラ息子でそんなのに継がせるものだから会社は傾く、、、といったイメージがあるのではないか。
確かに、日本では全企業の97%がファミリービジネス(上場企業でも3分の一以上を占める)なので、我々の身の回りにこういった企業があることも事実だ。しかしともかく国全体でデータを取ってみると、なぜかファミリーの方がいいのだ。
既に、この研究も20年位前にアメリカでは相当進んでいて、今は既にはやりではないが、オーナーによる意思決定の早さとか長期的な視点、責任を持った経営などが強い理由に挙げられている。私が一番大きな要因と考えているのが「エージェンシーコスト(代理人コスト)」だ。
要は、人に経営を任せた時のコストのことである。高額な役員報酬を出さないと真剣に経営をしてくれないということだ。ゴーン氏のように桁違いの報酬を出しても裏切られるコストと言ってもよい。これがおそらく、まさに桁違いに大きいというのが私の仮説である。
残念ながらエージェンシーコストは「数量化」が難しい。専門経営者への報酬とオーナー自ら経営をした場合の報酬の差額で出す方法もあるが、上場企業ならともかく非上場の中小企業だと社長の報酬がよくわからない面がある(会社の経理と個人の経理が混在している)ので難しいのだ。しかし、これが想像以上に大きいので、結果的に同族会社の方が業績がよくなるというのが私の説だ。もちろん経営学者で同じことを言う人もいる。
やはり、自分のことは自分でするのが一番いいということか。
なぜ同族企業のオーナーは「同族ということを隠す」のか?ー劣った経営形態だと勘違い
未だに日本ではファミリービジネス(同族企業)のイメージが悪く、「古くて弱い経営」だと誤解されているのは残念だ。もはや欧米では「新しくてすごい経営」と正しい理解が進んでいる。
そういった違いからか、日本の同族企業は「同族」ということを隠す傾向にある。他方、アメリカの同族企業はSC.ジョンソンを初め「同族(A FAMILY COMPANY)」であることを広報の一助としている。皆さんの家にあるカビキラーのパッケージを見て頂きたい。「A FAMILY COMPANY」と赤字で誇らしげに印字されている。
私が経団連を退職してファミリーオフィスを始めたころ、超富裕層のクライアント=ファミリービジネスのオーナーから「ウチが同族ということはバラさないでくれ」と異口同音に言われたことがある。これには驚いた。バラさないでほしいというのは、我々が何か後ろめたいことをしている時だ。
その心はと聞くと、「同族と分かるとイメージが悪くなりイイ人が採れなくなる」ということで、まあ日本の現状だと仕方がないなと思ったものだ。ここは早く何とか改善しないといけない。ところが、最近、ある同族企業のオーナーと懇談している時に「隠そうとする」新たな理由を伺った。
それは世間からのイメージの悪さという「外的」な誤解だけでなく、自らの心の中に「一般企業と違って劣った経営をしている」という「内的」な誤解もあるということである。だからこそ、「バラさないでくれ」というおかしな表現になると得心した。
今まで、大学やマスコミを通じて、一般社会の人々への誤解を解く行動をしてきたが、「同族企業自身」への誤解を解く必要もあると実感した。さすがに、多くの同族企業の方々は自らの経営形態の長所、短所を理解しており、総合的には同族のほうがいいという分析の方が多いが、人間、自分のことは分からないことも多いので、客観的には同族の方が優れているという情報提供も必要だろう。
なぜ今、日本で「ファミリービジネス」が重要なのかー事業承継時の肝となる
日本では未だにファミリービジネス(同族企業)のイメージが悪い。一般的には「古くて弱い経営形態」と思われている。実は私も10数年前にこの分野に入ってくるまでは、そう思っていた。日本の経済学、経営学ではそう教わったからである。曰く「会社は同族から専門経営者へと進化する」。今でもそう教えている経営学者がいるかも知れない。
経営学の本場アメリカでも、ハーバードのチャンドラー教授でさえも、少なくとも1970年代まではそう教えていた。ところが、1980年代に入り「どうもおかしい」と気付く学者が出てきて、本格的にファミリービジネスの研究が進んだ結果、同族企業の方が非同族企業より業績がいいことが分かった。これは日本を含め世界中がそうだった。
問題はその後で、アメリカでは今や同族企業が「強くて新しい経営」ということが広く知られている。3年前、ニューヨークでタクシーに乗り運転手にこの話をすると「同族の方が責任を持った経営をしているので強い」と言ってきたのには驚いた。その通りだ。日本では多くの人は未だに「同族経営は弱い」と思っているのは残念だ。
ところが、「日本でも強い企業は全て同族で、代表はトヨタ、サントリー、武田、ブリジストン、日本電産、キーエンスなどだ」というと皆、納得する。トヨタとは対照的に、日産は同族経営をやめた結果、ゴーンのような専門経営者にボロボロにされた例もある。アメリカ自動車産業でも同族のフォードが生き残り、GMは破綻した例もある。
こういう「あたり前」のことをもっと広めたいのだ。というのは、同族は弱い経営と勘違いすることにより、事業承継の時に同族を放棄し、日産化する企業が増えると、日本経済はますます弱体化する可能性があるからだ。
幸い、最近では「本当は強い同族経営」に気づいたのか、同族を維持する大企業も増えている。ファーストリテーリングやエーザイがその例だ。今年からはファミリービジネスの本家本元である慶應ビジネスクールで「ファミリービジネス概論」の講座を始めるので、そこから、大いにファミリービジネスの強さを広め、日本経済の復活に一石を投じたい。