美の壺File124「木の椅子」 | 芸術家く〜まん843

芸術家く〜まん843

お越しくださりありがとうございます

美の壺File124「木の椅子」写真①
美の壺File124「木の椅子」写真②

椅子の研究家として知られる織田憲嗣さん。収入のほとんどを椅子につぎ込み今や世界一ともいわれる木の椅子のコレクションを持っています。その数なんと1200脚。
最も思い入れがあるのが学生時代に出会った一脚の木の椅子。材料のウオールナットを漆で仕上げ木の持つ風合いを活かしています。
織田「日本ではたかが椅子なんですけど欧米ではされど椅子。椅子というのは非常に難しいデザイン。クリアーしたものがヨーロッパやアメリカでも非常に高い評価を得ています」
ゆるやかな曲線と上から下へ流れるような直線が優美なたたずまいを生んでいます。作ったのはアメリカの大建築家フランク・ロイド・ライト。
黒い格子状の背もたれが高くそびえるこの椅子も建築家の手によるもの。近代ヨーロッパの建築に大きな影響を与えたマッキントッシュの作品。
織田「かなりの部分建築家が椅子をデザインし8割ぐらいは世界の建築家がデザインするくらい建築家のものが多いです」
精緻に設計された木の椅子。そのフォルムには建築家の個性が凝縮されているのです。
◆壱のツボ~デザインに建築のエッセンス
中村好文さんも椅子をてがけてきた建築家の一人。これまでに多くの椅子を設計してきました。
中村「建築っていうのは注文主施主がいるんだけど予算や工期もある、いつも制約を受けている。これが思うようにならない。でも家具のデザインは自分の発想だけで完成までもっていける。椅子は本当に一番身近な構造物。そこから建築も発想したい」
この椅子も世界的に有名な建築家の作品。独創的な造形で知られるアントニ・ガウディ。「直線は人類、曲線は神のもの」ガウディは曲線で人智を超えた表現に挑みました。人が腰掛けるための小さな家具。そこに建築家たちは建物の原点を刻んだのです。
同じ形をした三脚の木の椅子をご覧ください。一見同じに見えますが近づくとそれぞれ異なる木目が・・・木の質感によって椅子の表情が全く異なります。三脚の椅子の作者は宮本茂紀さん。50年以上木の椅子を作り続けてきた名工。最も大切なのは木目を見極める作業。これはトチの木に特有に表れる「縮(ちぢみ)」という紋様。 横に積み重なったように見える縞(しま)模様(もよう)が古くから珍重され家具に使われてきました。
宮本「これを削るよね。削って仕上がったにしてもそのときの雰囲気と全く変わる。色の変わりかたが染色と違うからなじみ深い。愛着もどんどんわいてくる」
◆弐のツボ~時を経た木の味わいを堪能せよ
優れた木の家具を生み出してきた北欧の国デンマーク。こちらはビラウゴウドさんご夫妻。リビングには200年以上に渡って受け継がれてきた木の椅子があります。デンマーク伝統のロッキングチェア。
ビラウゴウド「あの椅子は私が若かった頃母方の祖母から譲り受けました。これを見ると母や祖母たちが長年使ってきた趣が感じられるわ」
頑丈な作りであるからこそこの美しさが保たれてきました。デンマーク最古の家具工房では最高の技術を持った職人が王室御用達の椅子を作ってきました。この日は年に2回買い付けるアフリカ・コンゴ産のマホガニーをチェックする日。デンマークではヴァイキングが活躍した時代から世界中の木材を取り寄せ頑丈な船を造ってきました。
木材は地下にある貯蔵庫で一年間寝かせます。十分に乾燥させることで気温の変化によって木が折れたり曲がったりしないようにする為です。木目のポイントは流れに沿って切ること。こうすることで折れにくく美しい椅子のパーツができるのです。脚や背、ひじ、それぞれのパーツにマホガニーの気品ある木目が流れています。これは、その形の美しさから「椅子の中の椅子」と呼ばれる「ザ・チェア」。白木で作られた椅子も半世紀以上使い込まれたことで独特のキャラメル色の味わいが醸し出されました。たくさんの椅子に囲まれて暮らすのはデザイン史を研究する柏木博さん。
柏木「椅子のパーツはすべて背とか腕とか脚とかいってるわけですがすべてこれは身体を表している言葉をそのまま。ですから椅子の多くを見ると人間を感じる身体を感じるということがあると思うんです。で部屋の中においておくと誰も座っていないんだけどそこに人がいるような気がする。たとえば椅子とテーブルと読みかけの本が置かれているだけで人は不在なんだけどそこにいるって感じがしますよね。そういうものが部屋のあちこちにあるというのが風景として楽しい」
◆参のツボ~たたずまいに人のぬくもり
椅子職人の山岸高光さん。山岸さんはデンマークから特別にライセンスを受け椅子デザイナーの巨匠フィン・ユールの椅子を作っています。椅子の形はどこか人間の体に似ていると山岸さんは言います。
山岸「極端なこといえば女性の体にたとえればソフトでしなやかな曲線ていう感じ」
形が人間そのものを表すという椅子も生まれました。「モンローチェア」です。ポーズをとるマリリンモンローのをそのままに表しました。最後にご紹介するのは独身男性が使う椅子です。
スーツがかけられるように形どられた背もたれは人体のフォルムを思わせます。温かみのある木の椅子は人に一番近い家具。一つ一つが違った表情を持っています。

鑑賞マニュアル美の壺

◆古野晶子アナウンサーの今週のコラム
今週から「美の壺」のコラムを担当します古野晶子です。どうぞ宜しくお願いします!最初のテーマが“木の椅子”と聞いたとき思い浮かんだのは実家にあるロッキングチェアでした。私が産まれる前からそこにあり眠気を誘う程好い揺れと木の手触りが気に入ってよく座っていたものです。そのときの記憶を懐かしく思い返しました。椅子はそれ一つで部屋の印象を大きく変えると言ってもよい程存在感があるアイテム。中でも「木の椅子」は温かい雰囲気にしてくれます。椅子のひじや背をじっくり見ていくと木目の美しさや使いこまれた木ならではの独特の色に深い味わいを感じます。番組では見ごたえのある素敵な椅子がたくさん登場するのでじっくりご堪能下さい。