第93回 「ポラスになった中内さん」
例年、夏の風物詩として南越谷で行われる阿波踊りに出かける。
今日では、日本三大阿波踊りの一つとして、56万人の人出で賑わっている。
このイベントは、ポラスグループの創業者の中内俊三さんが、メセナ活動として、地元の皆さんに「ふるさと意識」を持っていただこうと始めたもので、今年で、21回目の祭りとなる。その創始者の中内さんが、6月10日亡くなられた。
中内さんとは、強風の日に4人乗りのセスナ機に乗り合わせて以来、18年にわたりお付き合いさせていただいた。
中内さんは、バナナの引き売りから事業を起こし、自分の家を持つ際にひどい不動産屋の多いことに着目し、「自分がユーザーとして不動産屋を興し、人の役に立ちたい」と、志を抱いてスタートしたアントレプレナーである。
身辺を飾らず、いつもプレスのないズボンを穿き、顔面笑顔で、大きな声で、会話の語尾に「○○ね!」を付け、「ウィル」を語る人であった。中内さんが一代で築かれた企業グループは、現在20社1300億の規模となっている。
当社を起業した際、ポラスグループの新規事業における人材採用のお手伝いを始め、様々な仕事をさせていただき、多くのことを学んだ。
中内さんの思考は、常に地域に根ざし、地域の皆さんにとって、良かれと思うことに集中して、地域密着経営を完成させた。
「その話、いつまでにやろうかね!お客さん喜ぶよね」「お客さんに申し訳ないことは、しちゃいかんね!上場すると、株式市場に目を向けていかないといかんしね!」と、よく語っておられた。
常にお客様第一に考え、会話の中にいつも、「お客さん」と「ね」(そうだろう・そう思うだろう・と、相手のコンセンサスを求め)自分の頑固なまでのこだわりを持った経営理念を貫いた、土の香のする豪放磊落で且つ繊細な人であった。
阿波踊り発祥の地徳島では、先祖の供養の為に、阿波踊りをお盆の時期に行うとのことだが、地域のポラス(北極星)となった中内さんを供養する今年の阿波踊りは、これまでにない語り継がれる南越谷の賑わいの夏となった。
第92回 「カリスマ」
カリスマという言葉を辞書で調べてみると、「神様からの贈り物」と書いてある。
リーダーにはカリスマ性が求められるといわれる。
仕事柄、これまで多くの経営者と関わってきたが、最近カリスマと思える経営者との出会いが少なくなったように思う。
その背景には、子供の頃の偏差値教育や、IT社会の到来によって情報流通が発達し、オープンになり秘密がなくなり、誰でも平等に知識を得られるせいか、神秘的な知性や、感性を感じさせるはずの言語や知識に特異性がみられず、カリスマ性が維持できなくなってきたのかもしれない。
カリスマとは、人間の枠を超えた神秘的なものであり、人に脅威に思われたり、時には狂気を感じる凄みも持ち合わせているように思う。
例えば、ワタミの渡辺社長は、カリスマ経営者の一人だ。
ワタミの起業までのプロセスをとってみても、なかなか凡人には真似の出来ない、発想、胆力、体力、行動力が備わったカリスマ経営者らしい創業時代である。
知人のお好み焼きの店のオープンで初めて渡辺さんとお会いした際、鉄板焼きを囲んでいて、鉄板の熱さより、彼の語りが熱く、魂の炎の熱さを感じる思いがした。
人の話を体で丸ごと真剣に受け止め、熱心に聞き、そしてYES/NOをはっきり言う。
その後、何度かお会いしたが、ある時「渡辺さんに会いたいという人がいる」というと「いつでも直接来ればいい。
真剣な話なら、僕はいつでも聞く」と爽やかな笑顔で答えてくれた。どんなに忙しくても、時間をとって約束を守りぬく人である。
自分自身の思いをとことん追求し、魂の叫のような語りで、社員に自分の夢を語り、人を集め、思いに日付を入れて実行してゆく経営者はそうはいない。
カリスマ経営者には、自らの信じた世界観を持ち、人に緊張感を与える人が多い。
そして、完璧でなく、一つのことに「よくここまで、こだわってやるものだ」と思える執念によって、人を巻きこみ、新たな世界に人を連れてゆく魅力を持ち合わせているように思える。
【神様の贈り物】とは、人の気を集め、新たな世界を見せてくれるプレゼントなのかもしれない。
第91回 「その人を活かす」
ベンチャー企業の経営者の方々から「急ぎこういう事の出来る人材が、欲しい」との相談をよく受ける
ビジョンを具現化してくれる「こんな人材が欲しい」と理想の人材像を考え、日々探し求めることは、経営者にとって極めて大切なことである。
ジャストインタイムでそういった人を迎えられる確率は、特に創業間もないベンチャー企業では難しい。
ところが、スピードが競争優位になると考え、妥協した人材を迎えた結果、短期で会社を離れてしまうケースが後をたたない。
多大なエネルギーとコストを賭けて、納得感のないまま退職という結果を招いてしまうことは、互いに不幸なことである。
ベンチャー企業から大きく成長した、京セラ、セコム、ソニー、ホンダ、といった日本を代表する企業は、創業時から素晴らしい人材が集ってきたのだろうか?決してそんなことはないはずだ。創業から成長していく過程で、社員の入れ替わりは当然あったとは思えるが、成長した企業の創業者たちは、よく「この人となら、何が出来るか?」「何を任せられるか?」という言葉を、語っている。
人との出会いの機会を、自社の経営フィールドで生かすことに、幅広い視点で、努力してきたように思う。
決断の際に重要視したことは、その人と経営者との「価値観」の「相性」である。
「価値観」は、育った環境で培われるものだが、創業経営者との「共有する価値観」をもとに、その人材のポテンシャルを活かしきる経営が、よりスピード感のある企業として、成長しているように思える。
例えば、30代で有能な管理本部長を求めても、30代で管理のスキルを全て持ち合わせている人は、経歴で探すことは不可能である。全ての条件をクリアしていなくても、「価値観」を共有できた人材のポテンシャルを活かしていくことで、有能な管理本部メンバーになるはずだ。
逆に経験や前職の役職を重視して、高条件で迎えたにも拘わらず、経営批判のもと去られるケースも、ベンチャー企業においては、よく耳にする。
これまで仕事柄、経営者や個人との相性が大切であると考え、「価値観」や「意思決定の基準値」「スピードリズム感」を相性の重視要素として縁を創ってきた結果、多くの方々が経営の要職で活躍している。
経営者が「この人となら、何ができ、何を任せられるか?」そして、個人が「この経営陣なら、共に仕事をしてみたい」と互いに活かし合う視点で、人と企業が出会った時、大きな成果が創造されている。枠にはめた視点や、焦り、そして、経歴だけに頼り、価値観の共有を甘んじてしまうと、結果互いの不利益に繋がってしまう。
経営のビジョンを明確にして、価値観を共有する人をどのように活かすかが、経営者に求められ、そして、参加する個人には、そういった企業を診る目が必要だ
第90回 「志」
ゴールデンウィークに、明治維新の立て役者となった坂本竜馬の像と精神に触れてきた。
太平洋の荒波が寄せ、大きく弓なりに白線を描く高知の桂浜に、悠然と立つ竜馬は、はるか遠くを見つめていた。
幕末の時代、黒船来航により、時の政権は国の体をなさないほどに混乱し、様々な思想をもった派が生まれた。
倒幕に向かい始めた頃、中でも島津斉彬のもと、薩摩藩を率いる西郷隆盛や大久保利通、そして、長州藩の高杉晋作や桂小五郎といった身分を越えた同志による活動が激しかったと聞く。
当時、薩摩藩と長州藩は、互いに敵対関係にあったにも関わらず、坂本竜馬の仲介により薩長同盟が結ばれた。
竜馬が様々な人に送った手紙の文面から感じとれる精神の肉声や、住人から伝えられている「現地の竜馬像」を聞いてみた。
子供の頃の竜馬は、よく高い山や海に行き、常に遠くを見つめている子であり、武市半平太を兄貴分として慕っていたという。
遠くを見据え、本質を見抜き、固定概念なく人の意見を受け入れ、利害なく即に行動する、自由闊達な開放的な人間「坂本竜馬」を感じた。
当時の常識に囚われることなく、恋愛も仕事も自分の意思で決定し行動していた竜馬は、黒船を率いる外国に、日本が一体となって対応してゆくべきであるにも関わらず、内輪もめしている現況に強い憤りを感じていた。
国のあるべき姿を見据え、薩摩藩や長州藩のキーパーソンである西郷隆盛と桂小五郎に対し、これまでの信頼をベースに、それぞれがおかれている立場においての苦悩をしっかり受け止め、「新型兵器の鉄砲の入手困難な長州には、薩摩から最新ライフル銃を・・米に苦しんでいた薩摩へは、長州の米を・・」といった互いの利害を調整し、同盟に至らせた。
この同盟によって互いの藩のエネルギーが重ね合わさり、時の政権を奪い、新たな立憲国家が誕生し、明治という近代国家時代が幕を開けた。
坂本竜馬という人物の明治維新への貢献度は、あまりにも大きい。
昨年、企業間のM&Aが、2200件を超え、短期で多くの企業連合による強力な企業が生まれた。
1000億円以上の案件も14件と、薩長連合を思わせるような大型合併が進み、これまでの各業界のガリバー企業に挑み、新たな変革を起こす動きが盛んになってきている。
来年、商法改正により、ますます外国企業の日本企業買収に拍車がかかりそうになってきている。
(まるで、黒船来航を思わせる。)
これまで考えられなかったことだが、大企業さえも生き残りを賭け、奔走している今こそ、誰よりも真剣に、互いの真の利益を考え調整役に徹するプロデューサー竜馬のような人材が求められている。
桂浜に立ちつづけ、「遠くを見つめる」坂本竜馬の姿は、「志を持つ」ことが、変革の時代の今、いかに大切で素晴らしいことかを、130年の時が流れた今も無言で諭し続けていた。
第89回 「資産」
新卒で日本を代表するメーカーに入社し、社内留学制度でアメリカに留学しMBAを取得すると、2年後に年収が上がるので外資系のメーカー企業に転職した人から、転職の相談を受けた。
転職したばかりなので、その理由を尋ねると、「最近、自分と同世代のライブドアの堀江さんはじめ、ベンチャー企業の若いトップ達のファンドに関わるニュースが頻繁に出てきて、自分はモノ創りの会社にいて、これでいいんだろうか?」と焦りを感じるとのことであった。
一気呵成に企業を成長させ、一攫千金を夢見る気持ちは、解かる。
資本の論理だけの目線から、経営拡大やキャリアアップを進めようと行き過ぎているように思うことがある。
経営もキャリアの基本は土台があって、成り立っている。
基礎のトータルな力なくして、ファンドやマーケッター、そしてビジネスマネージメントに向き合ってゆくと、瞬間花火のような状況に陥ってしまう。
すべての企業の営みは、現場で行われている。
現場で生み出された成果が、あるから営業の仕事がある。大学で学んだマーケティング理論で、商品は生まれず、当然ヒット商品を創造できない。
マネーゲームに走ることなく、モノ創りを深く理解した人が、マーケットに向かい、ファンドを活かし、マーケティングを展開した結果、生命力を持った商品がヒットし、結果として力強いキャリアが創られる。
2年程前、501会で、マッキンゼーを退職してベンチャーを起こし、赤字で苦しんでいたDNAの南場さんに、「何故そこまで頑張れるのか?」と質問した際、「自分でこういう事業があれば便利だと思い、多くの人に言ってやり始めたので、やめるとかっこ悪いから!!」と返ってきた。
今年の2月公開を果たし、この会社の時価総額は、1200億を超えた。
マネー先行の世界の人達を否定する気はないが、目に映る表面の世界だけでなく、その背景や土台、根に目を向けて、長期の目線から事業やキャリアが大切だ。