インキュベーター社長日記 | インターウォーズ株式会社 吉井信隆のブログ
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第288回 「フードテックの産業革命」

5月18日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「フードテックの産業革命」

 

2021年1月、「NEXT MEATS HOLDINGS」がSPAC(特別買収目的会社)スキームを活用しアメリカの証券市場に上場した。同社は20年6月に法人化し、圧倒的なスピードで国内外に事業を展開する、代替肉のフードテックスタートアップだ。創業7か月で上場し、初日の時価総額が約4憶5200ドル(約468億円)となり、市場の注目を集めた。

 

同社の株式を保有するネクストミーツは「地球を終わらせない」との理念を掲げ、植物性焼肉・牛丼・チキン・ポーク・ツナ等の商品を開発し、イオンを始めとする大手スーパーやネット販売のOisixのほか、パレスホテルでもメニューに採用されている。また有名シェフとのコラボによって代替肉ならではのレシピを開発することで、新たな食の選択肢を広げ、市場を拡大している。

 

 

 

 

新潟県長岡市にある研究室「NEXT Lab」には世界から各分野の研究者が集まり、バイオテクノロジー分野では微生物や遺伝子の研究を、メカトロニクス分野では植物性タンパク質の物性変化やファクトリーオートメーションの研究を進めている。米仏やシンガポール、香港など海外10か国にスタッフが常駐し世界に挑戦している。

 

創業者の白井良さんと佐々木英之さんは食品の研究・開発経験のない2人だ。12年前に中国の深圳で出会った2人は「環境問題に対峙するビジネスを目指す」ことで意気投合。ハイスピードでチャレンジが可能な「環境問題や食糧危機に対する代替肉」に着目した。しかし、バックグラウンドのない2人の商品開発は困難を極めた。代替肉として本物の肉にはない商品価値を創るため、食感やおいしさを追求し、素材、熱、圧力など様々な点を改良しつつ、数えきれない試食を重ねた。

障壁にぶち当たるたびに、「何をどうしたらいいのか教えてほしい」と協力を求めて大学や食品メーカーの研究室に通い続けた。最大の難問は、食べたときの食感「口当たり、舌触り、歯ごたえ」だった。

試行錯誤を繰り返し、3年の歳月をかけて納得のいく代替肉を実現した。ネクストミーツの成功要因は業界の分析戦略アプローチではない。思想を共有した異色の起業家が出会い、「ピュアな志に共感した人々の共創」が成功の要因となった。

 

 

09年5月、シリコンバレー生まれの「ビヨンド・ミート」がナスダックに上場し代替肉市場が拡大した。市場規模は30年には20兆円を超えると言われる。牛肉と比較すると「水75%減、温暖ガス87%減、土地95%減」とはるかに少ない資源で生産でき、環境にやさしい代替肉が世界の食流通を変えようとしている。

 

ネクストミーツが世界にハイスピード経営で挑戦する姿は見ていてハラハラするが、彼らの創り出す未来の食風景を見てみたい。

 

 

 

 

第287回 「死の谷を乗り越える組織」

4月13日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「死の谷を乗り越える組織」

 

「デスバレー(死の谷)」という言葉をご存じだろうか。起業から事業化する黒字転換ステージへ進めるかどうかの障壁のことで、落ちれば死ぬほど深い谷に例えられる。

 

企業は構想を実現する事業化プロセスで売り上げを確保するため、資金や人材などの経営資源を調達・配置することが必要になるが、そのための資金は開発フェーズよりも大きくなることが多い。売り上げと利益が上がらなければ市場での認知も上がらず、有能な人材も集まらない。時間だけが経過し、資金ショートを起こしデスバレーで事業撤退や倒産に陥る。

 

当社の創業間もない頃、投資先がデスバレーを克服できずに倒産し、窮地に追い込まれたことがある。この経験から「デスバレーを越え成功する起業家と倒産する起業家の違いはどこにあるのか」と考え抜いた。

 

 

デスバレーを克服するには3つのキーワードがある。

ダイバーシティ組織、アライアンス、マーケターだ。ダイバーシティ組織とは、実績を持つミドル人材の経験知やノウハウを取り入れている組織のことだ。

デスバレーを越えIPOした会社組織には経験豊かな人材が社外役員やアドバイザーとして参加していることが多く、ダイバーシティ組織が変化に対応する役割を果たしている。ダイバーシティ組織を作ることで、現状把握から集中すべきこと、やらないことを見極め、ケイパビリティー(組織の推進能力)を高めることができる。

 

 

次に、デスバレーを越える戦略として、アライアンスによる手法がある。顧客基盤を持つ事業会社との提携や連合によって売り上げと利益をあげていく方法だ。限られた資金とリスクを抑え、不足しているリソースを補うことで成長を加速させ、事業化していくことができる。

 

そして最後に一番重要なのがマーケターの存在だ。多くの起業家とかかわる中で「起業家はアートな人が多く、マーケターは少ない」ことに気づき、投資先にマーケター人材を紹介するようになった。事業の主戦場(エリア、ターゲット、ビジネスモデル)に応じて、目標を達成する道筋を決められる経験知を持つマーケターの存在で、事業化の成否が変わる。

デスバレーを越えるマーケターには3つの要素がそろっている。

 

事業収益への影響が大きい施策をKPIに分解し投資する意思決定力で柔軟に対応できる」「事業化する数値を素早く計算する概算力が優れている」「ゼロから事業を立ち上げる起業家と相性が合うこと」だ。

特に起業家との相性は極めて重要な要素となる。

資金調達だけに頼ることなく、売り上げと利益を伸ばすことにフォーカスし、俯瞰(ふかん)的に捉えされるマーケターがいる組織が、デスバレーを乗り越えていく。

 

 

第286回 「変化続ける企業の共通項」

3月18日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「変化続ける企業の共通項」

 

この2年で環境が激変し、各国で異なった企業のあり方が映し出された。新型コロナウイルスのパンデミックによりデジタル大陸が拡大し、ディスラプション(破壊)が進行したことで様々なビジネス機会が生まれた。

 

米国ではフェイスブックがメタに社名を変え、数百人単位でエンジニア採用に注力し、メタバース領域に進出している。グリーンエネルギー・ヘルスケア・フードテック・バイオテクノロジー・DXといった、成長が加速する未来産業に果敢に取り組んでいる。事業環境が変化した時、「会社を潰さない」ために資金を確保し、「死なない」受け身対応に奔走しながら市場の回復を待つ企業が多い。

一方、新たなビジネス領域やイノベーションに挑戦する企業がある。価値観の変化をビジネス機会と捉え「そこに行こう」と決断するリーダーがいる。未來像を示すビジョンと働き方が明確な企業は「これをやりたい」という人材に起業機会を与え、トップダウンに頼ることなくボトムアップでイノベーションを起こしている。

 

 

その企業の一例がリクルートだ。

 

リクルートの旧社訓で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という半世紀にわたり語り継がれている言葉がある。創業者の江副浩正さんの組織論がこの社訓に凝縮されている。

一人ひとりの社員に「君はどうしたいの」という問いかけが日々繰り返され、「圧倒的当事者意識」が醸成されている。

 

 

 

イントレプレナー(社内起業家)が「不の発見」から提案したアイデアを事業にするカルチャーがあり、多くの新規事業が立ち上がり、持続的成長の原動力となっている。国内外のスタートアップの買収では既存事業とカニバリゼーションしても「他の誰かにやられるくらいなら、自らが自分たちのディスラプターになろう」と、2012年のインディードのM&Aをしたことから、グローバル企業に躍進を遂げている。現場の責任者は自分の担当するサービスを成長させることに注力しているので、その事業を脅かすような取り組みは難しい。

しかしリクルートは現場との摩擦を恐れずディスラプティブな決断をする体系的組織やカルチャーが備わっている。リクルートが成功しているのは天才的な起業家がいるからでもなく、整備された魔法のような環境があるからでもない。

垣根のないデジタル世界では、競争ルールそのものの変化により、競合との競争の方向性が大きく変わる。

 

人の思考は日常の仕事に向き合っていると短期的になりがちだが、先を見据えた長期的思考が持続的成長には必要だ。世界では、企業が国境を越えた競争を加速させている。日本の企業は受け身の短期的対応をやめ、長期的目線を持つ革新的人材を生み出す機会に変えるときだ。

 

第285回 「創造的破壊からの起業」

2月7日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「創造的破壊からの起業」

 

 

エストニアは人口わずか130万人の小国でありながら、多くのスタートアップが集まるハブとなっている。なぜ起業率が高く、スタートアップの集積地になっているのか、エストニアの投資家に聞いた。

第一に、国全体取り組みでデジタル化政策を推し進めたことだ。

所得税申告や運転免許証の更新など、行政手続きの99%がオンラインで完結する基盤を作った。第二に、非居住者でも仮想国民になれる電子国民制度を導入したことだ。

世界のどこからでもエストニアの電子行政サービスの一部を利用することができ、海外からの銀行振込や納税を可能にした。

 

これにより実際にエストニアに行かずともオンラインで法人登記ができる。また法人税(20%)が利益ではなく配当金に課税される仕組みで、配当しない限り課税されないため、資金繰りが苦しいスタートアップに寄り添った税制となっている。

法人の年次決算報告書がオンラインで申告できることも起業を後押ししている。こうした魅力的な政策に加え、2017年からは「スタートアップビザプログラム(スタートアップ設立のための短期滞在許可)」が開始され、外国人の起業家や人材を引きつけている。スカイプが03年にエストニアで誕生した後も、新たなユニコーンが7社誕生しているのは、成功した起業家が次世代のスタートアップに資金とノウハウを支援する、スタートアップエコシステムが形成されているからだ。

 

一方、現在の日本の起業率は世界最低水準となっている。それは技術や資本だけでなく、最も重要なリソースの起業家人材が圧倒的に不足しているからだ。日本は人材の流動性が低く、企業家を生むエコシステムが脆弱なため、スタートアップが誕生しない。かつての日本はハングリーで起業家精神の旺盛な多くのスタートアップが勃興し、経済を繁栄させたのだ。しかし1990年以降、先人の起業家たちが築いた企業の成功要因に固執し、情報革命の波に乗れないまま停滞している。

 

このような中でも、日本にイノベーションを起こした起業家は存在する。ファナック創業者の稲葉清石衛門さんや、ヤフー創業者の井上雅博さんなどだ。彼らのような起業家の共通点は、業界の外部からスタートした「企業内起業家」であることだ。業界の中心にいなかったからこそ、固定概念を持たずに業界の常識を覆した。

 

「新」という字は「立つ木に斧を入れる」と書く。それはまさに古い企業モデルのかたちを壊しモデルを創る「創造的破壊」が既存企業の経営者に求められていることを表す。創造的破壊から企業内起業家を育成し、スタートアップを生み出すエコシステムを創ることが、日本の成長の要となる。

第284回 「イノベーション・プレイス」

12月27日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「イノベーション・プレイス」

 

新型コロナパンデミックに直面し、多くの企業は受け身の経営を強いられた。

当社も「イントレプレナー塾」の運営方法や、キャリア相談の面談方法の見直しを余儀なくされ、オンラインへと切り替えた。

社員の働き方もテレワークへと移行した。

リモートで仕事をするようになり、通勤時間も通勤のストレスも無くなり、ワークスタイルが激変した。

オンラインでの会議や面談はどこにいても対応でき、移動時間もかからない。

情報共有が容易になり、様々なメリットが生まれた。

 

一方、雑談など他社とのコミュニケーションが起きにくいといった課題も浮き彫りになった。

人はリアルなコミュニケーションでないとウエット感が出ず、脳が回らないのかもしれない。

同じ空間で時間を共有し、熱量の高い話し合いから気づきを発見することが多いのではないだろうか。

イノベーションの「元祖」シュンペーターは「イノベーションとは会社に価値をもたらす革新であり、

異分野の人と人との新結合が起点だ」と言っている。

 

当社のインキュベーションオフィスを「イノベーションが起こる場」とするため、

緊急事態宣言中に全面リニューアルし、新たに「出島インキュベーション・プレイス」としてオープンした。

コンセプトは「異業種の人たちが集い、価値が生まれる共創の場」とした。

企業間の枠を超えて開放的なオフィス空間を共有し、偶発的なコミュニケーションや雑談など、オンライン上では生まれにくい交流を創るため、円形テーブル、ソファシート、カウンター席、スタンディングデスクなどの多様な席を設置した。

また、企画に集中できる一人用の個室やミーティングルームも導入し、事業案を創出するための環境を整えた。

 

   

 

イノベーションは異分野の人と人が共鳴することかた生まれる。

それには互いの会社から離れたところで、率直な対話ができる「場」が必要だ。

区切りのない曖昧な空間で、たわいもない会話から新鮮な生きた情報が飛び交うことが多い。

新規事業を立ち上げるテクニックはスクールで学べるが、肝心なのは熱量を持った様々な人との語らいだ。

それが事業発案の源泉となる。

 

フェイス・トゥ・フェイスで心を開放して話し合い、互いの理解が深まり共感が生まれる。

共感する人の輪が広がってくると、目的を実現するにはどの企業の誰がキーマンとなるのかが見えてくる。

企業の枠を超えたダイバーシティが、新たな価値を生むことにつながる。

出島インキュベーション・プレイスが、イノベーションが起こるプラットフォームになることを期待している。

 

 

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