憂さ憂さうさぎ -46ページ目

憂さ憂さうさぎ

世の中は憂さだらけ!
はき出す場所のない憂さを、ここで晴らしてみましょうか。

そういえば避難所に来てから数時間、トイレに行っていない。

ついさっき体育館の外に簡易トイレを設置したと、係の人が言っていた。

友人が 「トイレ大丈夫?我慢しない方がいいよ。簡易トイレまだきれい

だろうから、今のうちに行っておいでよ。」と言ってくれた。

『簡易トイレってどんなだろう?』などと少し不安を抱えつつ、行っておく

ことにする。

 

体育館の外に出ると、すぐに大きな黒っぽい塊が二つ目に入った。

簡易トイレである。それぞれ2~3人ずつ順番待ちをしていて、自分も

後ろに並んだ。順番を待ちながら簡易トイレの観察を始める。

洋式と和式一ヶ所づつで、どちらも黒に近い緑色の厚いビニールシート

で囲われている。洋式の方が幾分大きいように見えた。

和式トイレは数段の階段を上る形式になっている。

出入りする面はカーテン状になっていて、フックのような金具で留められる。

設置して間もないおかげか、トイレットペーパーも設置されていた。

入口のカーテンを閉めてしまうと、中はほぼ真っ暗で、ほとんど手探り

状態であった。

 


 

数日前、やっと水道が使えるようになりました。

応急処置で使えるようにしたために、また断水するそうです。

とりあえず水道が使えるようになった事で気が緩んだのか、

昨日から体調を崩し、ちょっと熱を出しています。

今までの経験から、一週間もすれば復活出来るはずなので、

とりあえず、しばらくはぐうたらする予定。


今はまだ、病院に行っても見てもらえるかわからないし、とにかく

自分で体調管理をしないと!ですね。


三週間ぶりのシャワーは本当に気持ちよかった。

水って素晴らしい!!


もとの場所へ戻って、友人に一枚だけ毛布を持ってきた経緯を友人に

話し、「一緒に毛布を使おう」と言うと、友人は優しく微笑みながら言った。

「うん、それでよかったんだよ。」ふっと心が軽くなる。


とにかく、痛くて固い氷のような床から逃れたくて、折りたたんだ毛布を

尻の下に敷き、二人並んで腰を下ろす。

自分の左側に座った友人は、冷え性の自分に上着を多めに掛けてくれた。

それにくるまって膝を抱える。二人とも口数は少ない。


自分の右隣では老婦人が毛布にくるまりながら、なおも寒そうにしてる。

友人は、その老婦人に「上着まだ持ってますから、お貸ししますよ?」

と声をかけ、自分が持っていた上着を差し出したが、そのご婦人は遠慮

している様子だった。


正面の少し離れたところに、鳥かごが見えた。子供二人を含む親子連れ。

食糧や飲み物、敷物等も持参していたようで、体育館の中程を広く使っている。

親の方は少々険しい顔つきだが、鳥かごを挟んで向かい合って座る子供達

の方は毛布に埋もれながら、一見はしゃいでいるようにも見える。

子供達は楽しそうに、避難所の毛布で鳥かごをくるみ始めた。


さっき自分が持ってくることを躊躇った、一枚の毛布の使い道・・・。



避難所へ到着したのは、まだ明るい時間帯だった。

避難所には自分の友人も来ていた。

非難している人はまだ少なく、『避難しなくても大丈夫だったのか?』

と感じるほどだった。とにかく、寄り掛かれる場所に座ろうと、しばらく

体育館の中をうろうろ彷徨った後、バスケットゴールの真下を避けて

とりあえず二人で壁際の空いているスペースに納まり、膝を抱えた。

床がやけに固く冷たい。尻が痛い。

少しでも寒さをしのぐため、持参した数枚の上着で自分の体を覆った。

 

避難所の中には、地震に関する情報を得られるものが何もなかった。

時折訪れる大きな余震の度に、体育館の天井で揺れる照明に視線を

向け、『落ちてくるなよ』と呟いた。

その時避難所にいる人達の視線の大半が天井の照明に向いていた。

 

しばらくすると、体育館に大きな段ボールがいくつか運び込まれた。

毛布だ。

「毛布を配ります。小さいお子さんやお年寄り優先です。」という声に、

人々が集まって行く。

自分は ”小さい子供” じゃなければ ”お年寄り” でもない。壁に

もたれたまま、毛布に集まっていく人達をしばらくの間ながめていた。

 

少したって、毛布の周りから人が減ったのを見計らい、「まだ毛布が

残っていたらもらってくるから」と言って立ち上がる。

近づいていくと、「段ボールも解体して使ってください。」という声がした。

見ると、段ボール数個と、毛布が入っていたと思われる銀色の袋が

一面に散乱している。

『段ボールでもいいかな』と思い、近くにあったそれに手を伸ばしたが、

自分の手が届く前に他の人が持って行った。

足元にあった銀色の袋を拾うため、屈んで手を伸ばそうとすると、あっと

いう間に無くなっていく。それらを手にして去っていく人々の顔はみな

怖いと思えるほど真剣で 『弱肉強食』 そんな言葉が脳裏をよぎる。

自分のように、消極的で行動がゆっくりしていては、何も手に入らない

ということか・・・。

 

すぐ近くで銀色の袋を開封している男性に、「まだ、毛布ありますか?」

と声をかけたが、彼はこちらを振り向くこともなく、返事もなかった。

優しさや気遣い等といったものが一切感じられないこの一画に立ち、

沈んだ気持ちで周りを見渡す。

 

少し離れた場所に、開封されたばかりの数枚の毛布が積まれていて、

それをもらうために歩み寄る。毛布は二枚。それをつかもうとした時、視界

に人の姿がはいってきた。

『毛布を2枚とも持って行ってしまったら、他の人が使えなくなるのだろうな』

と感じた瞬間、自分の手は毛布を一枚だけつかんでいた。

 

運よく掴むことのできた一枚の毛布と曇った心を抱えながら、友人のもとへ

戻って行く。





 

避難所へ行くと決めて、めちゃくちゃになった家の中から食べ物を探す。

見つけたのは、柿ピーとバナナ。

とりあえずで見つけた食糧と、水と貴重品を鞄につめこむと、厚手の上着

を数枚持って家をでた。家の鍵はかけておく。


避難所へ行く道すがら、窓ガラスや剥がれ落ちた壁の一部が歩道に散乱

している場所を数ヶ所通る。しかし、目に見えて『崩壊している』ような建物

は無かった。あれだけ揺れたのに、地震の被害は少なかったのか?という

考えが頭をよぎる。

どうしてなのか、道路の真ん中に鳩の死骸があって、その周りにまだ新し

い血と鳥の羽根が散らばっていた。

そんな道路を車が何台も通過していく。その車一台一台に一生懸命声を

かけている女性がいた。

その声に耳を傾けると「徐行してください。」というものだった。

地震の後家から出てきた人々が、道を行き来しているのだから、状況的に

徐行するのは当然だと思うのだが、車の運転手は”徐行”を意識しているのか

どうか・・・。

そんな車を見ながら、何故か不思議というか複雑というか、自分でもよく

わからない気持ちになっていた。

大きな通りへ出ると、全ての信号機が消えていて、『街ごと停電している』事

だけは解った。


もうすぐ、避難所だ。