特にやる事も思いつかず、未だに何の情報も得られぬまま、ただ床を
眺めていた。会話もほとんどない。
右隣に座っていた老婦人が、「地震、マグニチュード8.8だそうよ。」と
言いながら、ラジオのスピーカーを自分の方に向けてくれていた。
情報を得る物が何もない自分達を気遣ってくれたのだろう。
好意に甘えさせていただき、ラジオから出てくる声に耳をよせる。
どうやら、普段自分達が警戒していた宮城県沖地震とは異なるらしい事、
とんでもなく大きな地震だということはわかった。
老婦人の前に座っていた年配の御婦人が小さくて薄いポータブルテレビ
を見ながら自分達に、「全国で津波注意報が出ている。」と言って、画面を
見せてくれた。
テレビの画面を覗き込むと、そこには太平洋側の海岸全てに着色された
日本地図が映っている。
詳しい事は解らないが、とにかくとんでもない事になっていると理解する。
もっと詳しい情報がほしい。携帯のインターネットはなかなか接続出来ず、
電話は勿論、メールさえ発信出来ない。自分には出来る事がない。
携帯画面を見ながら何か操作している若い男性が数人視界に入る。
ワンセグか?機種が違うと電波の入りが違うのか?それとも暇つぶしの
ゲームか?等と勝手な想像をしてみるが、今の自分は携帯バッテリーを
温存しなくてはならない。 我慢だ。
避難所に来てから、どのくらい時間が経ったのかすらわからない。
この状態では、時間という概念に意味を見い出せない。
少しずつ体育館の中が薄暗くなっていくように感じられ、『もう夕方が近
いのかな』などと考える。
窓の外では雪がちらついていた。