おニャン子ソロデビュー組は、さすがソロデビューするだけあって、それぞれに歌唱の個性が確立されています。
その子ちゃんは緩急やニュアンスの付け方などのセンスが抜群で。
秋絵ちゃんは本人の性格を反映したようなほんわかした歌声がまさしく癒し系で。
新田ちゃんは絶対的な声の個性と直線的な歌い方がいかにも「おニャン子的」で。
国生さんは勢いが凄いわりに拙い発音の仕方と不安定な音程がいじらしくて…。
全員挙げているとキリがないのですが、その中でも今回特に取り上げたいのが高井麻巳子ちゃんの歌唱です。
おニャン子随一のたおやかさ、女性らしさで当時のおニャン子ファンを軒並み今で言う「ガチ恋勢」へと変えていっていたマミちゃん。
アイドルに対する憧れはよく「疑似恋愛」的な感情だと揶揄されることがありますが、マミちゃんはその憧れが「疑似」ではなく「ガチ」・「モノホン」の恋に変わってしまいそうな稀有なメンバーだったと思います。
何と言うか、マミちゃんは他のおニャン子メンバーと同じくTV画面の向こう側の人で、「心のガールフレンド」であるに過ぎないはずなのですが、彼女のまとう女性らしい雰囲気って、ものすごくリアリティがあると言うか、生々しさがあるのです。
画面越しなのに実感が得られるような、決して「偶像」ではない、作り物でない本人から滲み出るかのような、芯から乙女って感じの空気感がマミちゃんにはあって、それが彼女の魅力でした。
彼女の歌唱も、そんな彼女の魅力に一役かっていると言えるでしょう。
まず1つ目に、マミちゃんはその子ちゃんや後期おニャン子ソロデビュー組などに比べてさほど歌が上手い方ではなく、どちらかと言えば拙さのある直線的な歌い方をしているのですが、声がとても綺麗なので、それほど下手に聴こえません。そして歌い方にクセがあまりないので、歌声がスッと気持ちよく耳に入ってくる。
加えて、彼女はとても丁寧に歌おうとしている姿勢が見て取れるので、その姿のひたむきさも相まって彼女を「守ってあげたくなる」ような存在へと昇華させているのです。
例えば、同じ直線的な拙い歌唱法のおニャン子メンでは新田ちゃんや国生さんが挙げられますが、新田ちゃんに関しては声の個性と存在感が強すぎて、「守ってあげたくなる」とはまた違うハラハラした感情が聴いているとわいてきます。
国生さんに関しては、見るからに姉御肌って感じで凄く強そうなので「守ってあげたくなる」アイドル像には繋がりません(でもその強そうなところが国生さんの魅力なんです)。
そして、第二に!
これが個人的には極めつけだと思うのですが、彼女はソロデビュー時~引退間際の活動後期まで、歌唱力が上達していないのです。
普通、シングルを出すごとに歌は上手くなっていくものです。
秋絵ちゃんなんて良い例ですが、本当によく頑張って、2thシングルの時なんか「音程外れの恋」なんて揶揄されていましたが、どんどん上手くなっていって本人にも歌手としての自負が生まれてくるまでに成長しました。
美奈代も、ムーンライダースの白井さんに曲を提供されるようになったあたりから、歌い方に貫禄が出てくるようになりました。
もともと上手だったその子ちゃんも、シングルを出すごとに歌声に深みが増していきました。
しかし、マミちゃんの歌い方はラストシングル『木漏れ日のシーズン』の時でさえ、デビュー曲『シンデレラたちへの伝言』とほとんど変わっていないのです。
※『シンデレラたちへの伝言』
↓
『木漏れ日のシーズン』
これは、一見ただ「成長がない」だけだととらえられてしまうかもしれませんが、私はそうは思いません。
上達することと同じくらい、ずっと変わらないでいることも大切です。
そして、変わらないでいることの方がひょっとすると、難しかったりもします。
「変わらないもの」故の魅力、というものも確かにあるのです。
むしろ、偶像であるアイドルにとって、ずっと変わらないでい続けるというのは、間違いなく魅力的ではないでしょうか。
マミちゃんの場合、上達して変に歌い方に艶がつくよりも、デビュー時と同じ素朴さを貫くのが正解だった気がします。
あの素直な歌い方は、誰にでもできるものじゃない。飾ることのないむき出しの、素直な歌い方。
個人的には、ちょっとユーミン的だとさえ思うのです。
ユーミンも、デビュー時から歌い方がほとんど変わっていません。そして何より、上手く歌おうとしてないところ…その「むき出し」の歌い方には、通じるところがあるのではないでしょうか。
…以上が、個人的な高井麻巳子の歌唱評でございました。
最後に、この季節にぴったりのマミちゃんの楽曲をご紹介して終わろうと思います。
アルバム『Message』より、『胸騒ぎのメランコリー』です。