森のクマさん~運命のお導き~ ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 おはようございます、一葉です。

 こちらは総拍手94949に該当したスカイシー様からのリクエストの続きです。


 お楽しみいただけたら幸いです。

 前のお話こちら⇒【



■ 森のクマさん~運命のお導き~ ◇6 ■





 最初に目に飛び込んできたのは長い棒。

 人の背に張り付いていたそれに、クオンは見覚えがあった。



 ・・・あれは銃。猟銃だ。

 自然の秩序を守るため、という名目のもと、出会った動物たちの命を身勝手に奪ってゆく殺戮道具。


 ただ、その中で唯一救いがあるとしたら、一瞬で事足りるという事だろうか。



 どんな事情があったとしても

 生きているものが息を引き取る瞬間は哀しいものだ。

 ならばせめて苦しまずに。心の底からそう願う。


 ・・・・・なぁ、リック。



 まぁ、それも銃を扱う人間の腕次第だから絶対とは言い切れないが。



 クオンは息をひそめた。

 やがて銃を背負った男が遠ざかっても、しばしの間クオンはじっとしていた。


 なぜなら人間の気配が遠くなるほど行動範囲は広げられるのだ。だからもうしばらく動かないでおこう、と思った。

 ここで見つかってしまえば一巻の終わりだから。

 命を奪われることに比べたら、もう少しの間じっとしているぐらい、どうってことないから。



 息をひそめている間

 クオンはそっと森の空を仰いだ。


 太陽は真上を過ぎているようだが、厚い雲に遮られて山の森は凛とした空気で満ちている。

 見渡す景色はどこもかしこも雪景色で、間違いなく真冬そのもの。

 こんな真冬に巣穴から出たところで、餌にありつける訳が無い。


 やはりここまでなのか、とクオンは思った。


 しかもだいぶ体も重かった。それも当然のことなのだ。

 冬眠中のクマは活動期と比較すると4分の1ほどの心拍しかないのだ。

 そもそも真冬に動けるように出来ていない、それがクマ。ならばじっとしていればいいものを。



 けれどもう、じっとしていても春まで命を繋げられる自信もなかった。



 ・・・・もう、いいだろうか。



 クオンがようやく動き出そうとしたとき、またもや人の気配が近づいてきている事に息をのんだ。そもそもクオンがその場にとどまったのは風下だったからなのだ。


 まさか、さっきの人間がもう戻って来たのか?

 焦ったクオンは苦虫をかみつぶしたような思いでまた身をひそめた。


 このままでは埒が明かないじゃないか。まだ雪解けにもなっていないこんな時期に、やはり自分は命を落とすことになるのか。

 半ばあきらめの境地でクオンはそっと首をもたげた。



 空気を揺らさないようにと細心の注意を払い、巡らせた視線の先にいたのは先ほどとは全く違う人物のようだった。

 ゆっくり、ゆっくり歩んで来る。あの人影は・・・・・。



 ・・・・こんなところに、女の子?



 ショートカットの

 リュックを背負っているらしい

 頬も指先も真っ赤にした女の子。


 その手に何かを持っていた。

 ビニール袋のようだった。

 枯れた木の根元を出すように雪を掘り、ビニール袋に手を入れたあと、その中のものを撒く仕草を繰り返している。



 一体なにをしているんだろう?こんな真冬に。




 不可思議に思ったクオンは小さく首を傾げた。そのまま彼女の行動を見つめ続けた次の瞬間。


 ドサ・・・と、鈍い音がして、クオンは肩を大きく揺らした。

 目ん玉が飛び出すかと思うほどびっくりした。


 突然発生した、まるで積もった雪がまとまって地に身を投げたかのような重い音は、実は彼女が雪に倒れ込んだ音だった。



 あわわわわ・・・どうしたんだ?

 雪に足を取られたのか?

 それとも好きで雪に飛び込んだのか?


 銃を持っている気配はなく、先ほどの動きからもどうやら彼女は動物の命を奪いに来たわけではないらしい。

 それどころか、どこか頼りなげに見える彼女がクオンはすっかり心配になってしまって、そんなバカなと思いながら視線を外すことも出来なかった。



 きっともうすぐ起き上がるはず。

 まるで祈るような気持ちで見守っていたのだが、倒れた彼女が自力で起き上がるような気配は微塵もなく。


 いやいや、そのままじゃまずいだろう?!何しろ彼女は顔から雪にダイブしている。


 もしそのまま放置しておけば窒息死は免れない。




 迷いに迷った挙句

 クオンは一歩を踏み出した。


 サクサクサク・・・と雪を踏みしめる自分の足音がやけに大きく聞こえる。



 どうか可愛い死神などではありませんように・・・。そんなことを祈りながら近づいて行ったクオンの耳に、彼女のつぶやきが聞こえた。

 クオンは再び、心臓が止まりそうなほど驚いた。



「 クオン・・・・・ 」



 クオン、と。

 はっきりそう聞こえた気がしたのだ。

 そんなバカなと思った。


 恐る恐る手を伸ばし、大きなクマの手で彼女を雪上で転がすと、頬を真っ赤に染めた彼女の顔が現れた。

 その顔が、かつてのキョーコの笑顔と重なってクオンは目を瞬かせた。



「 嘘だろ、まさか君、キョーコちゃん? 」



 確かに面影がある気がした。

 いや、違うかもしれない。

 自分がただそう思いたいだけかも。


 なぜならキョーコちゃんが山に来る訳が無い。

 そもそも彼女の記憶は消したはずなのだ。



 けれど・・・。



 この子はいま、自分の名を呼んだ。

 確かにそう聞こえた。

 だとしたら、やはりこの子はキョーコちゃんなのではないだろうか。



 なにがなんだか理解が出来ず

 迷いに迷って視線を彷徨わせたクオンは

 やがて枯れた木の根元に、キョーコが撒いたどんぐりを見つけて

 胸の奥が熱くなり、感動で背筋を震わせた。




 違う。

 少なくともこの子は間違いなくキョーコちゃんなんだ。


 だって俺の名前を呟いた。

 そんなことが出来るのはキョーコちゃんしかいないんだ。

 なぜなら、人に名を明かしたのはキョーコちゃんが最初で、そして最後だったから。


 どうしてなのかは分からないけど、キョーコちゃんがここに居る理由がもし自分の魔法の効力が解けたせいだとしたら、決してあり得ないことではない。



「 君は、キョーコちゃん・・・? 」


 それでも信じられなくて、クオンは瞼を閉じたままの彼女の耳元に囁いた。

 けれど彼女からの返事はなく


 それどころか

 もうずいぶん長い間このくそ寒い山の中をさまよっていたのだろうキョーコの体はだいぶ冷え切っていて、か細く吐かれる息が全く白く濁っていないことに気付いて、クオンは危機感を覚えた。




 いけない!このままではこの子、凍死するかも。



 クオンは雪に顔を突っ込み、キョーコを掬い上げる形で自分の背中に彼女を乗せた。

 本当はカッコよく抱き上げられれば良かったのだけれど、あいにくクマの身である自分では二足歩行は出来ないし、そもそも手のひらを上に返すことさえ出来ない。



「 よっこいしょ 」


 キョーコの重さを感じて四足に力を籠める。

 そんなのんきな掛け声を口にしたのは、こんなことは大したことじゃないよ、という意味合いを込めてのことだった。


 クオンが歩み始めようとすると、キョーコが手にしていたビニール袋からどんぐりたちが滑り落ちた。それらが雪の大地に小さな築山を作った。


 クオンの胸が震えた。クオンは雪ごとそれらを頬張った。


 泣きたいくらい、嬉しかった。




 「 ありがとう。でもどうするんだよ。こんなに冷たくなっちゃって・・・ 」



 クオンはキョーコを先ほどまで自分が寝ていたねぐらに連れ帰り、ひとまずクマザサの上に彼女を寝かせた。


 動物は、体温が10度下がるごとに代謝機能が半減する。逆に言えば、本来代謝機能を落とすためには体温を下げる必要があると考えられた。

 つまりそうすることで、少しでも長く体内に蓄積されたエネルギーを保つことが出来るというわけだ。


 しかし冬眠中のクマはこれに該当しなかった。クマは体温をあまり低下させずに代謝を大幅に落とすことが出来る動物なのだ。

 だからこそできること。自分の体温でキョーコを温めよう。そうしなければならないし、そうすべきだとクオンは思った。


 本来なら体に溜め込んだ脂肪で4ヶ月の冬を乗り切るはずだった。

 しかし秋の実りの少なさから脂肪分が不足して、クオンは途中で目覚めた。だからこそキョーコと出会うことが出来た。



 クマがクマザサの上で眠るのは、土から伝わる冷気を少しでも遮断するため。それをあるだけかき集めて敷き詰めたクオンは、その上に自分が寝転んでからキョーコをそっと腹の上に抱きかかえた。

 またキョーコの手からどんぐりが転がり落ち、クオンはそのいくつかを有難く頬張った。




「 ごちそうさま。大丈夫だよ。俺が助けてあげるからね 」



 もしかしたら、自分がクマになったのはこのためだったのかもしれない。ふとクオンは思った。



 もしかしたら俺がクマになったのは

 今日、このとき、この子を助けるためだったのかも。


 リックを喪い、罪を負い

 罰を受けてクマになった俺だけど

 もしかしたらそれは全て必然で

 きっと俺は今日この子を救うためにクマにされたんだとしたら・・・?


 秋にお腹いっぱい食べられなかったことも

 そのせいで目が醒めてしまったことも全て

 きっとこの子を救うために必要なことだったのだ。



 そう考えたら、胸を張りたいほど誇らしい気持ちを覚えた。

 さっきまで泥沼の中にいた気分だったのが嘘みたいに清々しい。



 殺されて死ぬか

 飢えて死ぬか


 ではなく


 この子を助けて死ねるなら。




 もうそれでいいと思った。

 俺はもうそれでいい、と。



 こんな姿の自分でも、誰かのために出来ることがあるのが嬉しい。

 それがかつて自分の心を救ってくれた彼女のためなら尚更。

 キョーコを助けることが出来るなら。



「 ・・・キョーコちゃん。逢えて嬉しかったよ 」



 大丈夫。君は助かるからね。



 冷たいキョーコを抱きしめながら、クオンは満足げに彼女と一緒に眠りについた。



 それから、どのぐらいの時間が経ってからだろう。

 外に人の気配を感じた。


 恐らく、あの猟師がやってきたのだろう。


 なぜならクオンは気づいていたのだ。

 キョーコを自分の背に乗せたあの時、既に猟師が戻って来ていた事に。あの場所は風下だったからすぐに分かった。


 あの猟師は恐らく、自分がキョーコを巣に連れ帰るところまで目撃していたはず。



 なのにここにたどり着くまでこんなにも時間がかかったのは、クマのねぐらに踏み込むために仲間を集めていたのだろうと想像出来た。

 もちろん、確実にクマを仕留めるために、だ。


 その証拠に、人の気配は一人や二人ではなかった。



「 雪の上に、俺の足跡も残っているしな・・・。迷う訳が無いんだから 」



 間違いなく、複数人の狩人がもうすぐここに辿り着く。

 そうしたらクマである俺は射殺されるだろうけれど

 少なくとも、それでキョーコは助かるのだ。



 だからもうそれでいい、とクオンは思った。



 まさか猟師たちに自分の正体を明かすわけにはいかないから。

 純真無垢な子供になら許されることでも、元とはいえ妖精王子であった自分が、まさか妖精国の存在を明言するなんてそんな恥知らずなことはとても出来ない。


 だからこれはもう、仕方のないことなのだ。



「 キョーコちゃん。どんぐりをありがとう。美味しかったよ 」



 最後の最期に

 お腹の上のキョーコをぎゅうっと抱きしめたかったけれど

 クマである自分の手でどれほどの力加減なら大丈夫なのかが分からなくて、残念だけどクオンはただポンポンポン、とキョーコの背を叩くにとどめた。



「 おい、ここだ!奥に進むぞ 」


「 本気かよ?本当にクマが女の子を・・・ 」


「 本当だって!行きゃあ分かるんだ、来いっ! 」



 野太い声が聞こえてきた。

 自分のねぐらに猟師が侵入してくるなんてことは、クオンがクマになって初めて体験する恐怖だった。






 ⇒森のクマさん7


クマのクオンの腹に乗ったキョーコちゃんの図は、トトロの上に乗っかったメイちゃん・・・みたいな感じでご想像ください。



⇒森のクマさん~運命のお導き~◇6・拍手

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