森のクマさん~運命のお導き~ ◇1 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 おはようございます、一葉です。

 こちらは総拍手94949に該当した、スカイシー様からのリクエスト成就作です。


 現代設定メルヘンパラレル蓮キョとなります。それ以外の設定はお話から読み取ってくださいませ。

 お楽しみいただけたら嬉しいです♪



■ 森のクマさん~運命のお導き~ ◇1 ■





 吐いた息が空気を白く濁した。


 突き刺すように喉を通り過ぎる冷え切った空気が、とうに雪景色へと変貌していた山を支配している。



「 ・・・っ・・・ 」


 もう、お昼近いはずなのに。

 相も変わらず視界が薄暗いのは、ここが冬山だからだろうか。それとも曇り空のせい?


 白く弾む息が、水に溶けてゆく綿あめより儚く山の木々に吸い込まれてゆく。

 大地に根を降ろした雪たちが足取り重く歩みを進める私の体温を奪っているのか、一瞬、背筋がブルリと震えた。



「 あ、この辺、あちこちの木々が枯れているわ 」



 私は背負っていたリュックを降ろし、その中からビニール袋を取り出した。

 ビニール袋はスーパーなどでよく見かける定番サイズのもので、中にどんぐりの実が入っている。


 どんぐりは公園に落ちていたのをかき集めて拾ったものだった。それを、大枝に守られ雪からの支配を免れていた枯れ木たちの根元にいくつかずつをまとめて撒いた。

 黙々と作業をしながら、私の胸が深く軋んだ。



「 本当に枯れちゃっているのね。ごめんね、もっと早く行動していたら良かった 」



 言いながら、でもそれは無理だったのだとも思った。

 なぜなら山と平地では季節の進みに差があるのだ。


 今年、山ではナラ枯れが深刻な事態になっていると、そう教えてくれたニュースをキョーコが見たのはもう数か月も前のこと。


 その時はそうなんだ、と思っただけだった。

 もしかしたら深刻な事態というのがどういうものか、良く分かっていなかったからかもしれない。



 けれど数日前、早くも冬眠から目覚めてしまったのだろう野生のクマが、エサを求めて雪山を歩いている姿が報道された。


 冬眠に入る前、クマたちは多くのエサを貪る。そうして春まで眠りにつくはずだった。しかし、満足のゆく餌にありつけなかったクマの場合、予定より早く目覚めてしまうことがあるという。


 そんなアナウンサーの説明に耳を傾けていたキョーコは、自然と目に涙をにじませていた。



「 ・・・・・・かわいそう。お腹が空くってつらいもんね 」



 キョーコが連想したのは、幼かった頃の自分自身だった。


 弁護士である自分の母は、なぜか自分に冷たく当たる人だった。

 世間体を気にする人だったからご飯は作ってくれていたけれど、一緒に食べた記憶などは一切無く、それどころか物心ついた頃にはもう母とも一緒に暮らしてなどいなかった。


 一人きりで食べる食事は決して美味しいものではないため、食は進まず。そのためキョーコは常に飢えていた。なにより母からの愛情が不足していた。

 それは深刻な飢餓状態だと言っていいレベルに。



 冬山にクマ出現のニュースには続きがあった。

 山を下り、人里に現れたクマは残念なことにその場で射殺されたという。


 ビックリしたキョーコは両目を見開いて画面を睨み、大きく眉をひそめて両手で口を覆った。



「 うそ。お腹が空いているだけって判っているのに?殺さなくてもいいじゃない!! 」



 人を守るためだった。それはもちろん大切なことだろうと思う。

 だけど。


 ナラ枯れの被害が深刻だと報道したにもかかわらず、それに関して何の対策もしてこなかった人間にも非があるのではないだろうか。



 心の中で、頭の中で、そんな悶々とした文句を湧き上がらせたけれど

 結局それは自分にも言えること。


 私があれこれ文句を言える立場じゃない。



 そう思って、テレビの前で偽善の涙を流したあと、キョーコは口を閉ざして時間を確認した。もう出かける時間だった。

 制服に身を包んで、玄関先で立ち止まる。



「 行って来ます 」



 言ってから苦笑を漏らした。

 毎朝思う事だけど、一人暮らしの「行って来ます」ほど滑稽な挨拶もない気がする。


 母がいなくなってから、老舗旅館のお世話になった。

 そこには多くの人がいたけれど、ただそれだけだった。


 中学を卒業し、旅館の一人息子と一緒に家を出た。

 最初は一緒に暮らしていたけれど、そのうち彼が出て行った。


 もしかしたら、年上の女性の所にでも転がり込んでいるのかもしれない。昔から女の子にキャーキャー言われる奴だったから。



 そんな訳でいまは一人暮らしだ。


 高校には通っている。

 世間体を気にする母が、旅館に自分を置いて行ったときに一緒に持たせていた通帳に、毎月一定額の振り込みがあるのだ。


 しかしそれも家賃と学費を払えばほとんど残らないため、キョーコはアルバイトで食いつないでいる状況だった。



 空腹で目覚めてしまったクマの話は、キョーコにとってとても人ごとには思えず。

 だからこそ、心を深くえぐり取られたみたいに胸がいつまでも疼いていた。



 行って来ます。もう一度小さく呟いたキョーコは、高校に向かうためにいつもの道を歩き出した。

 アパート近くの公園は、キョーコの通学路だった。






 ⇒森のクマさん2


あれ、なんかかなりシリアスになっちゃった。でもこれ、メルヘンパラレルなんですよぉぉぉぉ。



⇒森のクマさん~運命のお導き~◇1・拍手

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