森のクマさん~運命のお導き~ ◇5 | 有限実践組-skipbeat-

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 おはようございます、一葉です。

 こちらは総拍手94949に該当したスカイシー様からのリクエストの続きです。


 お楽しみいただけたら幸いです。


 前のお話こちら⇒【



■ 森のクマさん~運命のお導き~ ◇5 ■




 

 


 

 

 空気はずっと冷えたままだった。

 昼すぎになれば少しは暖かくなるのかも、と期待していたキョーコだったが、上空は曇り空のまま。その空模様はまるでいまの自分の心境そのものだった。



「 おーい、お嬢ちゃん 」


「 っっっ?! 」


「 こんな所でなにしてんね? 」


「 あっ、あの、どんぐりを・・・ 」



 声を掛けられてびっくりした。

 まさか山に人がいるとは思っていなかった。


 声をかけて来たのは中年の男性で、その背に長い棒のようなものが見えていた。



 あれは猟銃?

 あんなに大きいものなんだ。

 銃なんて初めて見た。



「 どんぐり? 」


「 今年、ナラ枯れの被害が酷いってニュースで聞いて、それで、近所の公園に落ちていたどんぐりを拾ってきて、山に撒いていたんです 」


「 ほぉ、そうなんか。優しい嬢ちゃんだね 」


「 ・・・っ・・・お、おじさんは・・・ 」


「 わし?わしか。わしは山林の見回りだ。ま、本業は料理人なんだがな。普段はジビエを提供している 」


「 ジビエ?って、もしかしたらクマ・・・とか? 」


「 ああ、そんな大物は稀だな。普段は野兎やイノシシ、シカなんかが多いな 」


「 可哀想 」


「 そうだな。だがそれを言ったら豚や牛や鶏は可哀想じゃないんかってことになるぞ? 」


「 ・・っっっ!! 」


「 どちらにせよ、野生動物が増えすぎればエサが足りずに餓えて死んだり、畑に被害が出たりする。嬢ちゃんが言ったように今年は特にナラ枯れが深刻だったから余計にな。そうならないようにするためにも、山林の秩序を保つためにも間引きは必要なことなんよ 」


「 そうなんですね 」


「 お嬢ちゃん。冬の山は危険だ。特に今日は冷え込みが酷い。明るいうちに山を降りな 」


「 ・・・はい、もう少し撒いたら帰ろうと思います 」


「 ああ、それがいい。気をつけてな 」



 ご心配ありがとうございました。そう言ってキョーコは、その男の人が来た方向に向かって歩みを進めた。


 歩きながら不思議なものだな、と思った。



 命を救いたくてドングリを撒きにきた自分と

 森や畑を守るために野生動物の命を奪う力を持った男性とすれ違ったのが、妙に意味深に思えた。



「 ・・・・ハァー・・・・・ 」



 深く吸い込んだ空気が、目の前で白い雲を作る。

 だがその雲はすぐに霧散し、山の森に何の影響も与えることはなかった。



 まるで今の自分のよう。

 吐いた息が森に何の助けにもならないように

 いま一生懸命ドングリを撒いている自分のそれも

 もしかしたら何の意味も無いのかもしれない。



 どんぐりの実は、実は水に浸して沈んだものだけが発芽の可能性を秘めているのだと昨夜知った。


 だからこんな風に無作為に拾ってきたどんぐりをただ撒き散らしても、それに意味など無いのかもしれない。



 撒いたどんぐりが森の動物に食べられることもなく

 春に発芽することもないとしたら

 自分がしているこれは、ただ森にゴミを撒いているということにならないだろうか。


 昨日の朝、流した涙と同じように

 この行為もまた自己満足が引き起こした偽善でしかないのかも。



 確実にどんぐりを発芽させたいのなら、秋に拾ったドングリを選別したあと、すぐ撒かずに湿らせたままビニール袋に入れ、冷蔵庫で保管するといいらしい。

 それを冬越しさせ、暖かくなってきてから土に撒けば案外すぐ発芽するという。



 でもキョーコはそれをしなかった。

 正確に言えばしたくなかった。

 何故なのかは分からないけれど、すぐ山に持って行かなければと思った。



 一歩を進むたびに雪の冷たさが足先にジンと響いていた。

 その感覚も段々となくなって来ている気がする。

 そう言えば息も白く弾まなくなってきている。

 少しは暖かくなってきたという事だろうか。

 それとも・・・・・。




 ふぅ・・・っとキョーコの意識が遠のいた。

 そのまま前倒れにダイブしてしまった雪に冷たさはなく、ただ優しくふわふわしていた。



 サクサクサク・・・



 不思議なことに、少し離れた場所から雪を踏む音が聞こえた気がした。



 それは決して自分の足音では無いし

 さっき出会ったおじさんのものでもないはずだった。



 なにかが近づいてきている。

 それは一体何だろう?



 リスだろうか

 野ウサギだろうか

 それとも何か別の動物・・・?



 誰でもいい

 なんでもいい


 ただ私が持って来たどんぐりを食べてほしい。

 私が撒いたどんぐりでその命を繋いでほしい。



 二人で家を出て来たのに

 ついて来て欲しいって言ったのはショーちゃんのはずなのに


 置いてきぼりを食らっちゃって

 一人ぼっちになっちゃって、もうどうでも良くなっちゃった。



 以降、毎日考えていたことは

 自分に何の価値があるのかなってことだけだった。

 生きている事になんの意味があるのかなって・・・。


 そんな自問自答をもうどれぐらい繰り返してきただろう。



 だけど

 もし自分が持って来たどんぐりたちが森の動物たちの役に立ったなら。少しは気分が晴れる気がする。

 ただそれだけで、自分がやったことに意味を見出すことが出来る。

 やって良かったって思えるの。

 自分がこの世にいる意味があったんだって、思うことが出来るから・・・・。




 ああ、あの子。

 あのとき出会ったクマの子は元気だろうか。

 ・・・・ううん、違った。

 確かあの姿は仮の姿だって言っていたっけ。


 だとしたらクマだったのはあの時だけで

 今は妖精の姿のはず。



 名前、なんて言ったっけ。

 さっき思い出したはずなのにド忘れしちゃった。

 ええっと・・・


 あ、そうだ。

 確かこう名乗っていた。



「 クオン・・・・・・・ 」



 懐かしいよ、あの頃が。

 毎日あなたと笑って過ごした、あの夏からの数か月が懐かしい。



 どうして忘れていたんだろう。

 あんなに優しい思い出なのに。






 ⇒森のクマさん6


口調を変えてしまっていますが、森で出逢ったおじさんは実は大将のつもりです。らしくないと思う人もいるかもですが、あくまでもイメージで。



⇒森のクマさん~運命のお導き~◇5・拍手

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