いつもありがとうございます。一葉です。
こちらのお話は2018年キョコ誕から2019年蓮誕までを結ぶ原作沿いSS連載の7話目後編です。
ちなみに前編より長いです。長いです、長いです。
お楽しみ頂けたら嬉しいです。
前のお話はこちら↓
③真の目的
2018年キョコ誕SS~2019年蓮誕・VDまでの7話目後編
■ 機智なる者 ◇後編 ■
三日後の夜。
「 蓮、また明日。朝迎えに来るから 」
「 はい、よろしくお願いします。社さん、お疲れ様でした 」
「 お疲れ様 」
キョーコちゃんを送り届け、それから蓮を送り届け、マネージャーとしての本日の仕事が終了してから俺は、クオン・ミスリも利用したはずの郵便局荷受窓口を訪れた。
理由はマリアちゃん分の荷物を引き取るためだ。
深夜に手が届く頃合いだったこともあって、郵便局自体が既に真っ暗。当然のごとく人の気配はまるでなかった。
多くの郵便局が遅くまで、場所によっては24時間対応もしている荷受窓口には、当たり前と言えば当たり前なのかも知れないけどカーテンが引かれていて、郵便局内側はやはり真っ暗。しかし受付窓口のこちら側は心細いながらも照明が付いていた。
御用の方は呼び出しベルを鳴らして下さい…の指示通りに赤いボタンをプチッと押す。
応答の声はもとより呼び出しベル音でさえ何も聞こえはしなかったけれど、真っ暗だった局内に明かりが灯ったことで人がいることは判った。
まもなくカーテンが開けられ制服姿の女性が現れた。
「 お待たせしました。お名前をお願いします 」
「 社倖一です。俺宛の局留め郵便を受け取りたいのですが 」
「 身分証をお願いします。免許証はお持ちですか? 」
「 はい。実は免許を取ったばかりで~~~。これです。お願いします 」
「 確認させていただきます 」
手にした俺の免許証と一緒に受付の女性が窓口から遠ざかる。
宛名と免許証の氏名が一致する荷物を探しに行ったのだろう、と思った。
その証拠に戻ってきた彼女は、トリラーメンメーカーからの発送物以外に疑いようのない、トリラーメンキャラクターが堂々と描かれた小さめの段ボールを抱えて戻ってきた。
「 一応確認したいのですが、どちらからの荷物かお分かりですか? 」
「 そりゃあもう。トリラーメンの全プレに応募しなきゃ貰えないグッズですから!! 」
「 ぷっ。そうでしたか。届いて良かったですね。では宛名がお間違いないかご確認いただいて、こちらの受領証に印鑑かサインをお願いします 」
「 はい。じゃ、サインで… 」
「 お願いします 」
…で、俺としては当然ただ荷受けをするだけじゃなくて、出来るならクオン・ミスリに関する情報も手に入れたかった。
とはいえ例えばいま俺が、コレと同じような荷物を引き取りに来た人はいますか?…なんて質問を投げても、個人情報に当たりますからお答えできません、と回答されるのは目に見えている。
もしくは窓口業務は複数名おりますし、一日に何十人もお客様がいらっしゃいますので覚えていません、と言われるオチか。
けれど、俺はこう思ったのだ。
少なくともいま、東京都内で敦賀蓮を知らない人なんて居ないのでは無いだろうか、と。
だとしたら蓮があの外見のまま荷受けに来たら絶対誰かが覚えているはず。
けれど、俺が蓮の本名を知らないように
社長がそれを俺に教えてくれないように
おそらく蓮自身がそのこと自体を隠している。
だとしたら余計に荷受けをするなら時間外以外にあり得ないと思った。
昼間は仕事があって当然ムリだという理由の他に、昼間より時間外引き取りの方が断然ひと目に触れる確率が低まるからだ。
…とはいえ蓮が自分の正体を隠しているなら蓮の姿で窓口に来るとは到底思えない。しかも蓮は役者だ。
別人になりすますことなどもはや造作も無いことだろう。
けれどあいつがどれほどの実力を持った役者だとしても、出来ることと出来ないこと、というのは必ずあるのだ。
サインの手を止め俺は受付の女性に顔を向けた。
「 関係者でも応募しなきゃ貰えないとか、面倒ですよね。そのためにお手を患わせてしまってすみません 」
「 え? 」
「 直接渡してくれたらこうして時間外に来る必要は無いし、郵便局さんの手間も省けるし、梱包の手間や発送費だって浮くっていうのに、会社ってときどき意味不明なことしますよね。そう思いません? 」
「 …そうなんですか 」
「 そうなんですよ。たぶん、俺より先にクオンも引き取りに来ているはずなんですけど。アイツは文句とか言ってなかったですか? 」
「 え?…いえ、ごめんなさい。ちょっとわから… 」
「 待てよ?ひょっとして窓口で受け取りサインをしたあと、ここに頭をぶつけてたり?でっかいから気をつければいいのに、すぐ気を抜いてどこかに頭をぶつけるのが得意なんですよね、アイツ。イケメンが台無し 」
この郵便局の受付窓口は一般的なカウンターの高さにあった。窓口の上部までは床からおよそ175cmというところだろうか。
受け取りサインをするなら普通はカウンターの手前の自分寄りの位置でする。だから少々上背がある人が気持ち腰を曲げたとしても、姿勢を正すときは腰が軸となって頭が円を描くことになる訳だから大抵の人はココにぶつかることはないはずだ。
よっぽど背が高くない限りは……。
「 ぶふっ!!!そう言えば、先日ぶつけた男性がいらっしゃいました。時間外に引き取りにいらした方で… 」
「 やっぱりですか?!そいつ、クオンって名前じゃありませんでした? 」
「 ……ごめんなさい。お名前はちょっと…。でも、届いた荷物がとにかく嬉しかったみたいで、頭をぶつけたときに危うく荷物を落としそうになって凄く慌てて、落とさずに済んだときは心の底から安心したみたいな深いため息をついていて。そうそう。本当にすごく背の高いイケメンでしたよ 」
「 ……っ!!! 」
蓮だ!!…と思った。
そこまで細かく印象に残っているのに名前を教えてくれないのはやはりそういうルールがあるからに違いない。
けど、間違いないと思った。蓮に間違いないと。
だとすると、蓮の本名は本当にクオン・ミスリ…?
そのとき唐突に社長の言葉が脳裏を過ぎった。
――――――― 蓮の素性を探るような真似をするなんざ…
ふと口元を緩めた。自然とゆっくりまぶたを閉じる。
そうだった。ここまででいい。
俺は、蓮の秘密を暴きたいわけじゃないのだ。
ただ俺は知りたかった。
お前が誰の力も借りず、自助努力だけでキョーコちゃんのグッズをコンプリートしたのかどうかだけを…。
「 ……荷物、ありがとうございました 」
「 はい、お疲れ様でした 」
翌日の朝、約束通りに俺は蓮を迎えに行った。
いつもながら時間きっちりに現れた蓮に感心し、頬の筋肉を弛緩させて目を細める。
「 社さん、おはようございます 」
「 おはよう、蓮 」
ちなみに今日
キョーコちゃんは午前中、学校なのだ。
「 そういえば蓮。俺、社長からお前に…って預かり物をしていたんだ。ほらこれ 」
「 ありがとうございます。ハンドタオルですか?……あれ?これ… 」
「 そ。トリラーメンキャンペーンで実施している京子グッズの一つ 」
「 なんでまた? 」
「 社長曰く、どうせお前のことだから指をくわえて見ているだけだろうから、ミスタークーの依頼品と一緒にお前の分も一個だけ応募してやった、と言っていた 」
「 ……へぇ。そうですか 」
静かに後部座席に乗り込んだ蓮は、ハンドタオルに印刷されているキョーコちゃんの笑顔をしげしげと眺め、優しげな笑みを浮かべた。
それを横目で見守った俺は運転席に乗り込み、手袋を装着しながら後ろの蓮に話しかけた。
「 指をくわえて見ているだけ…なんて、心外だよな、蓮 」
「 はい? 」
「 お前、動いていたもんな。屋台カーの手配だけじゃなく、支払いだって自分でしてたし 」
言いながら車のエンジンをかけ、バックミラーを覗いた。するとミラー越しに俺を見ていた蓮と視線がモロにぶつかった。
蓮は特になにを構えることもなく、さらりとこう言ってのけた。
「 そういえばその節はお世話になりました。二人でずいぶんな量の袋麺を開けましたよね。そのお陰で俺、最上さんの初めてのキャラクターグッズ、全部コンプリート出来たんですよ。社さんが協力して下さったお陰で… 」
「 ……え? 」
「 でも、まだコンプリートした人だけが貰えるシークレットグッズは届いていないんですけどね 」
「 ………… 」
悪びれる様子はどこにもなく、蓮はそう言って鏡越しにニッコリと笑った。
一方の俺はと言えば、予想外すぎる蓮の言葉に若干プチパニックを起こして何度も目をぱちくりさせていた。
「 ……いいのか、蓮 」
「 何がです? 」
「 そんなこと、俺に告白していいのか? 」
「 どうしてです?何かダメな理由があるんですか? 」
「 ………っ…… 」
もしかしたら、我ながら回りくどいことをしたのかも知れない。
そう言えば俺、どうせ聞いても蓮は何も答えないに違いない…と決めつけていたからコイツに何も聞こうとしなかったのだ。
でもよく考えたら蓮は最初から俺に隠していなかった。
初めて屋台が現場に来た日、俺は蓮の車に積まれていた沢山の袋入りトリラーメンを蓮と一緒にこれでもかと開封した。
以降5日間それが続いた。蓮がそれを求めたからだ。
「 …っ……ふふっ……ふっふっふ…… 」
「 なんです、急に。怖いですよ、社さん 」
「 いや、ただの思い出し笑い。何でもない。何でもないんだけど…… 」
それにしても迂闊過ぎだろう。
こいつは想像すらしないのだろうか。
俺が、メーカーから応募者一覧リストを手に入れたかも…なんてことは微塵も考えないのか。
いや、それもそうか。普通は考えないよな、もちろん。社長だって驚いていたぐらいだし。
「 けど、なんです? 」
「 いや。俺、いま思いついたんだけどさ、キョーコちゃんの誕生日にクリスマスとバースディ祝いを兼ねたトリパーティを3人でしただろ、お前の家で。だから今度のお前の誕生日にまた3人でトリパーティをしないか?お前のバースディ祝いに 」
「 ……それは嬉しいですね。どこでやるんですか? 」
「 そりゃもちろんお前の家だろう 」
「 ええ、別にいいですよ。じゃあ予定に組んでおいて下さい 」
「 任せろ。キョーコちゃんには俺から言っとく。ちなみに主役から何かリクエストはあるか? 」
「 そうですね。強いて言うなら最上さんが手作りしてくれたバースディケーキが食べたいですね。出来ればチョコレートケーキが 」
「 おっ、いいな。じゃあそれ、3人で楽しく作るかぁ? 」
「 いえ、俺は最上さんだけが作ってくれるチョコレートケーキがいい… 」
「 お前の気持ちも判るけど!ここは俺に任せろ、蓮!! 」
何だか妙に晴れやかな気分で俺は自分の胸を力強く叩いた。
E N D
事前告知していたクオン・ミスリの種明かしはこちらです↓
■ 蓮くんの裏事情 ■
もし、自分の本名を誰かに明かさねばならない状況になったとき、頭の中に何人かの顔が思い浮かぶ。
社さんはその内の一人だ。
「 どうしようかな。本名ではなるべく人と接触したくないんだけど… 」
ほんの数十分程度なら、今はもうクオンの姿に戻ることに特に抵抗を感じない。
けれど本名であるクオン・ヒズリの名を容易に晒したくはなかった。
なぜならヒズリという名の有名人は日本でも有名過ぎるから。
万が一にも自分があの人の血縁だと想像されてはならないし、ましてやあの人の息子が日本に居るかも知れないなどと誰に思わせてもならない。
「 …で、どうするか。……あ。思いついた 」
答えは案外簡単だった。
つまり俺がクオン・ヒズリでなければ良くて、その違う名前の俺が俺であると認めて貰えればいいだけだ。
荷物が届いているかは事前に電話で確認した。
引き取り回数が少ないほど人の接触は少なく出来る。
だからギリギリのギリまでそれを待った。局留め郵便の保存期間は10日間と決まっているのだ。
一度帰宅してからクオンに変わり、時間外窓口へ赴いた。
呼び出しベルを鳴らすとすぐに照明が点灯した。
出てきた女性に荷受けの意を伝えると身分証をお願いしますと言われて、俺は用意していたパスポートを提示した。
何故か、と言うと、アメリカが発行したパスポートにはカタカナ表記が存在しないから。
「 えーと……お手数ですがこちらにお名前を書いて頂けますか?日本語、書けます? 」
「 カタカナなら… 」
「 良かった。じゃ、お願いします 」
「 ハイ 」
出されたのはメモ用紙ではなく受領証だった。
たぶん、俺のサインを見て判断して、そのまま受領証として使おうと考えたのだろう。
だったらなお都合がいいと思った。
なぜなら京子グッズの中には嵩張らないものが数点ある。
それらはレターパックの類いで発送されているはずで、だとしたらそれに限っては自分の筆跡がそのまま宛名になっているだろうからだ。
「 ……クオン・ミスリさん 」
「 ハイ、ソーデス 」
「 少々お待ち下さい 」
「 ハイ 」
最近は指定のハガキじゃないと申し込みが出来ないタイプの応募が増えたと思う。
この理由は明確で、企業が手間と無駄を省くためなのだ。
ハガキを書いてきた人のそれを、そのまま宛名として使用すれば転記のミスが防げるし、加えて時間も短縮出来るし人件費も抑制できる。
企業も企業として努力をしているのである。
「 お待たせしました。クオン・ミスリさん。届いてましたよ 」
「 アリガトウゴザイマス、助カリマス。荷物ハ何個アリマスカ?電話デ確認シタトキハ4コダト聞キマシタガ 」
「 確認済みだったんですね。そうです、4つ届いていました 」
「 …っ…てことは結局、残り6個のままか 」
「 え? 」
「 イエ、ナンデモナイデス!! 」
「 お荷物はこちらです。パスポートもお返ししますね 」
「 ハイ、アリガトウゴザイマシタ 」
「 お疲れ様でした 」
「 マタ来マス 」
ちなみに、その女性はパスポートの名前をまじまじと眺めた時、これをミスリと読むのか?…という顔をしていた。
しかしクオンという名前は合っている訳だから、あとはその荷物の宛名が俺の物であるという証明が出来さえすればそれで話は済むのだ。
手っ取り早くサインを求めてくれて本当に良かった。
俺の筆跡がそのまま貼ってある荷物があって助かった。
お陰で彼女はこう思ったはずだ。日本語と同じように、表記通りに読まない外国語もあるのだと。まぁ、実際あることだし。
余談だが、後日残りの6つのグッズの引き取りの時も窓口に出てきたのが同じ女性だった。
だから二度目の引き取りの時は荷受けがそれよりスムーズだった。
受領サインをしたあと受領証と荷物を交換する形になって、カウンターに置かれた荷物を両手で抱えた俺は、つい勢いよく頭を上げて受付窓口と衝突し、危うくグッズを落としそうになってしまって凄く焦った。
割らずに済んで本当に良かった……と、回想を終えて俺は改めて胸を撫で下ろした。
END
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※8話目「王子の主張」 に続く。
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