闇色のイバラ ◇31 | 有限実践組-skipbeat-

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 おまけ話【30話・或る秋の日



■ 闇色のイバラ ◇31・冬の始まり ■






「 魔法使いさま、朝ですよ! 」


「 判ってる!だけど本当に頼むからキョーコ、いまは寝かせてくれ。

 ほんの数時間前に戻って寝たばかりなんだっ!! 」



 私が魔法使いさまの元へ戻ってしばらく後、魔法使いさまが営んでいた店が没収された。


 接収したのは光さまで、魔法使いさま曰く、曰くな仕事をするなと小言を貰ったらしい。



「 ……魔法使いさま? 曰くな仕事…って何ですか? 」


「 仕事内容なんて興味を持たなくていい!! 」



 結局いままでのお仕事は何だったのか。それを魔法使いさまは教えてはくれず、お店を没収されてしまってこれからどうするのだろうと思ったけれど。

 新しい仕事は光さまから直で下った。



 いま、魔法使いさまは王宮からの依頼を受け、この国の地図を作る手伝いをしている。


 魔術を使って地理や地形を把握することができる魔法使いさまが一人いれば、現地に派遣する人員及びそれにかかる無駄な時間と労力をかなり省けるということと、人が入れない様な地形でも正確な地図を作ることが出来るのだ。


 10人分の仕事をしてやるからその分を寄越せと魔法使いさまは言ったらしいのだけど、言われた光さまは一つも動じずニッコリと笑い、2~30人分程度の賃金支払いを約束してくれたらしいのだけど……。



「 王子なんてどんなボンクラかと思いきや。あいつ人使い荒すぎ!!ひと目に付かない方が良いだろうって気を使ってくれたまでは良かったけど、その分、仕事量が半端ないんだ 」



 ……力を使うこと自体は特に疲れたりしないそうだけど、ひと目を避けるために作業が夜遅くに限定されてしまっているので、この頃の魔法使いさまは昼間に寝てばかりだった。



「 魔法使いさまぁぁぁ…!だって朝食冷めちゃいますよ?! 」


「 大丈夫!キョーコの料理は出来立てはもちろん、冷めても充分美味しいから。じゃ、おやすみ! 」


「 ……っ… 」



 自分の頬に触れる魔法使いさまの温もりは以前と何も変わらず。


 ベッドに沈み込んだ大きな身体は私の目の前ですぐに意識を手放した。




「 ……もぉ。せっかくいいお天気になったのに… 」



 正直に言えば少し寂しいと思った。

 だけど仕事なら仕方が無い。魔法使いさまは私のために頑張ってくれているのだ。


 それに、待つこと自体は苦行じゃなかった。



 でも、たまには一緒に出掛けてみたいって、そう思う時もある。


 仕事をしている時の魔法使いさまってどんなだろうって凄く興味があったから。

 その姿をちょっと見せてくれるだけでいいのに…。



「 ……仕事だからって言って、ぜんぜん連れて行ってくれないんだもの 」


 魔法使いさまは必ず一人で出かけてしまうのだ。




 テーブルに並べた食事はねぎらいと愛情を込めたつもり。

 それもじきに冷めてしまうだろう。



 塔の中に差し込む眩い光に目を細めた私は、すっかり寝入ってしまった魔法使いさまを見下ろしながら微笑を浮かべて溜息をついた。


「 ……おやすみなさい 」




 ひとり、塔の螺旋階段を降りると、あの人のそばに居たくて駆け上がったあの日のことを思い出す。


 魔法使いさまが言っていた筋肉痛は本当に酷くて、三日間寝たきりになった私を魔法使いさまは、だから言っただろう?…と笑いながら面倒を見てくれた。



「 わ…風が心地いい…… 」



 魔の森にも花が咲く場所がある。


 陽だまりが転がる場所も

 風がそよぐ場所もちゃんとあるのだ。



 足元をくすぐる草の葉を感じながら魔の森を散策するのはもう何度目だろう。



 昼間なら出ても平気だよって言われてから、時々私は外に出ていた。



「 あ…かわいい…… 」



 だけど、一人でいても考えるのはいつだってあの人のことばかり。



 草原に生えた花を愛で、数えるほどの本数を摘んだ私は食べられる花と観賞用に摘んだ花を別々に持って塔へ戻った。



 昼頃には起きているだろうと踏んで太陽が一番高くなってから塔へ戻ってみたけれど、自分を出迎えてくれたのはテーブルに並べられたままの朝食で、この日、魔法使いさまが目覚めたのはあろうことか夕方だった。


 寝ぼけ眼でふらふらとしながら彼はソファに腰を下ろした。



「 ……おふぁよ、キョーコ 」


「 おはようじゃありません!もう夕方ですよ?どうするんですか、朝食と昼食は!! 」



 そんなに作ったって食べられないに違いない。

 判っていたけど戻った時はお昼だったし、きっと起きてくれると信じて作ってしまったのだ。



「 ご…ごめん。でも大丈夫!俺、ちゃんと食べるから。いただきます!! 」


「 ……… 」


「 ……あれ? キョーコは、食べなかった、の? 」


「 二人で食べたかったんです 」


「 ……じゃあだいぶお腹が空いただろう?ごめんね。温め直して二人で食べよう? 」


「 冷めても美味しいって言ったくせに 」


「 うん!冷めても美味しいよ? あ、じゃあこのまますぐに頂こうか 」


「 いいですっ!温め直しますから。ちょっと待っててください 」


「 ……キョーコ……あの…ごめんね? 」


「 …――――――― … 」




 謝るぐらいなら優しく気付いて。



 私が今日、どれほど寂しかったのか。

 あなたのために昼間、何をして来たのか



「 ……あ、れ?キョーコ、もしかして今日、この花を摘んできたの?魔の森の原っぱから? 」


「 …――――――― そうです。その花が最後でした 」


「 ……綺麗だね。そうか、もう秋は終わったんだね 」





 ――――――― 季節は穏やかに巡ってゆく。



 それを目の当たりにするたびに

 二人で重ねた時間を想う。




『 ……キョーコ。今年はこんな花が流行っているらしいよ 』



 塔を出ることが赦されなかった間

 私が退屈しないように…と、あなたはいつも気遣ってくれていた。



 あなたが持つ優しさを私は何より愛してる。



「 魔法使いさま 」


「 うん? 」


「 明日は一日、私にかまって 」


「 ……うん、約束する。一人にしてゴメンね? 」



 頬に触れる唇の熱さは何も変わらず


 抱きしめてくれる手に灯るのは愛しさと恋しさ。



「 キョーコ 」


「 なに? 」


「 いつも俺を待っていてくれてありがとう 」


 言われて目の奥が熱くなった。



 ううん、違うの、魔法使いさま。



 あなたのそばに居たいと

 痛切に思い知ったのは自分だから。



 それに


「 ……待つことは苦行じゃないから平気です 」




 あなたは来てくれると知っているから私は何も苦しくない。



 でも…あなたは?

 魔法使いさまはいま、少しも寂しくない?




 もうすぐ――――――― …




 もうすぐ私がこの世に生まれてから18回目の誕生日がやって来る。

 ここで暮らす様になって10回目のバースディが……。




 沈みゆく冬の太陽の儚い光に照らされながら



 きっと私はこの時

 ここから先の自分の生き方を決めたのだ。







 ⇒32話に続く


どんな内容に続くのかは見えていると思いますが、どうぞ最後までお付き合い下さいね。


ちなみに…ですが、地図作成が終わった後も光王子は闇の遣いに仕事を与えていくと思われます。

ある意味、安泰。



⇒闇色のイバラ◇31~冬の始まり~・拍手

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