【問題】Ⅰ-2 平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震などの被害を受け、平成30年12月14日に閣議決定された「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が平成30年度から令和2年度に進められ、さらに令和3年度からは「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」が進められている。この状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)社会の重要な機能を維持するため重要なインフラである上下水道が国土強靭化に資するため、対策すべき課題について、技術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の具体的な対策を示せ。
(3)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)上記事項を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
【解答例】
1 国土強靭化に係る上下水道の課題
(1)風水害や大規模地震等への対策
気候変動の影響により風水害が激甚化、頻発化し、南海トラフ地震等の大規模地震の発生も切迫している。上下水道施設が被災した場合、国民生活と経済に甚大な影響を及ぼすことになる。このため、上下水道における災害対策の充実が課題になっている。
(2)予防保全による施設の老朽化対策
高度成長期以降に集中的に整備したインフラが一斉に老朽化するなか、上下水道のライフライン機能を維持しつつ、ライフサイクルコストの縮減等を図る必要がある。このため、予防保全型インフラメンテナンスへの転換が課題になっている。
(3)デジタル化の推進
国土強靭化に関する施策の実効性を高める必要があり、業務の効率化、災害関連情報の予測、収集、集積及び伝達の高度化が求められている。このため、上下水道におけるデジタル化の推進が課題になっている。
2 最重要課題に関する解決策
風水害や大規模地震等が上下水道に及ぼす影響は甚大であり、取組を加速させる必要があることから、これを最重要課題と位置づけ、以下に解決策を示す。
(1)下水道施設の流域治水対策
豪雨発生時における浸水被害の防止・軽減を図る。雨水排除機能を強化するため、管渠の増設、増径、雨水ポンプの設置、増強等を行うとともに、関係機関と協力して雨水放流先の河川整備を促進する。雨水の貯留機能と浸透機能を強化するため、雨水貯留管、雨水貯留施設等を整備するとともに、雨水浸透桝、浸透側溝等の整備を促進する。
(2)上下水道施設の地震対策
浄水場や汚水処理場等の構築物は、耐震壁やブレースを整備し、機械電気設備は耐震性のアンカーボルトの設置等を行う。管路は耐震管を採用し、災害拠点病院や避難場所等の重要施設を含む路線は優先的に耐震化する。液状化により暗渠やマンホールが浮上しないよう、セメント改良土による埋戻しや過剰間隙水圧消散工法のマンホールの設置等を行う。
また、水道も下水道も複数の施設が連結して機能しているため、システム全体で耐震化を図る。
(3)上下水道施設の浸水・土砂災害・停電対策
浸水が想定される取水場、浄水場、汚水処理場等の施設は、防水壁、防水扉等を設置する。
土砂災害警戒区域内のポンプ場、配水池等の施設は、土砂流入防止壁の設置し、敷地内に傾斜地が存在する場合、これが崩壊しないよう法面整備を行う。
落雷等による停電に備え、浄水場等の基幹施設は、バックアップ電源として自家用発電設備を設ける。
(4)全てのリスクに共通した対策
災害や事故により施設が機能停止になった場合に備え、連絡管を整備し、施設のネットワーク化を図る。小規模な施設については、近接する大規模施設と統廃合を進め、集中的に災害対策を行う。
また、ソフト面の対策として、BCPの策定、マニュアルの整備、防災訓練等を実施し、非常時でも迅速に対応できる体制を整える。
3 解決策の波及効果と懸念事項への対応策
前述の解決策を実行することにより、国土強靭化に寄与することができ、災害時においてもライフラインを確保することができる。
ただし、解決策を実施するには、膨大な費用と期間が必要であり、中小の自治体や事業体では、実現性を担保できない可能性がある。
このため、将来的な財政収支と必要な事業費を把握し、解決策の優先順位を考慮して、長期的な事業計画を策定する必要がある。こうした計画は、PDCAサイクルにより継続的に改善し、実効性を高める。また、官民連携や広域連携等により事業運営の効率化を図り、強靭化に係る事業費を確保する。
4 業務遂行において必要な要件
分析、評価、計画、設計、施工、維持管理等、業務遂行の全段階において、公衆の安全、健康及び福利を最優先にする必要がある。また、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、持続可能性を勘案して業務を進める必要がある。
【解説】
国土強靭化については、問題文にも示されている通り、平成30年12月に「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が公表されました。
その後、国土強靭化に関する取組の加速化・深化を図るため、令和2年12月に「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」(これ以降「5か年加速化対策」)が公表されています。
このように国が、上下水道を含むインフラの強靭化を推進しており、このことが今年の試験で当該テーマについて出題された背景になっています。
5か年加速化対策は、3つの事業を展開した上で、重点的・集中的に対策を講じるものです。
まずは、3つの事業ですが、以下のとおりです。
①激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策(これ以降「災害対策」)
②予防保全型インフラメンテンナンスへの転換に向けた老朽化対策(これ以降「老朽化対策」)
③国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進(これ以降「デジタル化推進」)
それから、これら3つの事業毎に、合計で123項目の対策が提示されいます。
こらら対策には、上下水道に関するものが含まれています。
災害対策では、
①流域治水対策、
②水道施設の耐災害性強化対策及び上水道管路の耐震化対策
③工業用水道の施設に関する耐災害性強化対策
④下水道施設の地震対策
が関連性が高いです。
また、老朽化対策においては、
⑤下水道施設の老朽化対策
が関連性が高いです。
ここで、必須Ⅰ-2の(1)を見てみましょう。
(1)社会の重要な機能を維持するため重要なインフラである上下水道が国土強靭化に資するため、対策すべき課題について、技術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
この問題は、豪雨や地震等の災害対策に主眼を置いたものですが、問題文のなかに「上下水道が国土強靭化に資するため」という一文があります。
このため、災害対策について自分の考えを詳述するというよりは、前述の5か年加速化対策の内容を示すことが、解答を作成する際のポイントになります。
つまり、問題文のなかに「技術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し」という一文がありますが、この3つの観点とは、①災害対策、②老朽化対策、③デジタル化推進を述べることを求められるわけです。
このうち何が最重要になるかと言えば、当然、災害対策になります。
その具体として、以下の対策をコンパクトにまとめれば、解答の完成です。
①流域治水対策
②耐災害性強化対策
③地震対策
ここからは、個人的な感想です。
問題文のなかに、具体的な基準や方針の名称が出てくるものは、こうしたものが記された文献に書いてある内容がアンサーになります。
この必須Ⅰ-2の場合、内閣官房が公表した「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」がその文献になります。
これをしっかりと読み込んで、試験に挑んだ方は、3つの観点で課題を整理して、災害対策について、説明できたと思います。
満点近い点数を取ることができたと思います。
しかしながら、この文献を読んだことがない場合、①災害対策、②老朽化対策、③デジタル化推進という3つ観点は、ちょっと思いつかないです。ちなみに、僕も、今年度の予想問題を作るに当たって、この文献をしっかりと読み込んでいません。なぜなら、昨年度、選択Ⅲ-2で強靭化について出題されていたからです。
「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」を読まずして、この問題に挑んだ場合、どうなるか?
防災・減災に関する一般的な取組を述べることになります。
例えば、①地震、②風水害、③事故という3つの観点に沿って、課題を整理して、①被害の予防、②バックアップ対策、③応急対応策という対策について詳述することになります。
このコンセプトで、解答を作成したら、どうなるか?
防災・減災、強靭化に関する取組として、言及していることは正しいです。
しかしながら、5か年加速化対策の内容にノータッチです。
このため、なかなか厳しい採点結果になると思います。
ここで、この問題から得られらた2つの教訓です。
まず1つ目です。
2年連続で同じテーマが出題されることがある
ちなみに、必須Ⅰ-1も昨年度と同じテーマでした。
そういえば、クリプトスポリジウムについても2年連続で出題されました。
というわけで、前年度の問題についても、ちゃんと復習をしておくべきですね。
次に2つ目です。
問題文に 「」 付きで、基準や方針の名称が出てくる場合、気を付けた方がいい
どんな記述試験も、必ず模範解答があります。
その模範解答から外れてしまうと、高得点は取れません。
そして、問題文に文献の名称が具体的に示されていれば、当然、その文献の内容がそのまま模範解答になってしまいます。
つまり、上下水道界で、話題になった基準や要綱、それが文献化されているのであれば、読み込んだ方がいいです。
逆に、もしも受験生がその文献を読んでいないのであらば、その文献の概要を述べるのは困難です。
つまり、その問題の出題テーマに関する予想問題を作っていても、問題文のなかに示された文献を読んでいないのであれば、その文献を選択するのは、とてもリスキーになります。
来年の受験生は、この点に注意が必要ですね。
※ 国土強靭化について見たい方は、内閣官房 国土強靱化とは? (cas.go.jp) をどうそ。
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