7 本番力を磨く
7.3 ひろげる作業
●ひろげる作業とは
「くっつける作業」のところで述べたとおり、試験本番では、「くっつける」のみで対応できるのが理想なわけです。
でも、そうならないことがあります。
くっつけるための文書が存在しない場合です。
例えば、3枚記述する場合、1枚半は書けそうだが、残り1枚半が埋まらないというケースです。
ここであきらめてしまうと、試験の結果は明らかです。
合格するためには、こうした状況下でも次のように考える必要があります。
「記憶をたどって、どうにかして、文章を書き足そう」
これが「ひろげる」という作業です。
繰り返しになりますが、予想問題は完全的中しません。
合格するためには、「ひろげる」作業を行う必要があります。
試験本番、限られた時間でいきなり「ひろげる」作業をするのは無理です。
このため、勉強する段階で「ひろげる」作業を行う準備しておく必要があるわけです。
具体的に何を準備するのか?
試験本番で「ひろげる」作業をやるためには、出題されたテーマに関する文章と情報が必要です。
勉強するプロセスにおいて、次の2つのこと準備しておく必要があるわけです。
①よみがえらせるための文章
②整理した情報
●よみがえらせるための文章
よみがえらせるための文章といっても、そのためにわざわざ文章を作るわけではありません。
勉強するプロセスで自然な形で甦らせることができる文章を作ることになります。
では、甦らせることができる文章は一体どこにあるのでしょうか?
これまで述べてきたとおり、解答の作成は、「70%の解答」の作成と「100%の解答」という二段階で行います。
「70%の解答」の段階で、多くの文章を作成したとしても、「100%の解答」の段階で、原稿用紙以内にまとめるため、文章を削除します。
つまり、よみがえらせるための文章というのは、「70%の解答」の中に存在します。
編集作業を経た後の解答には、よみがえらせるべき文章は残っていません。
「70%の解答」の文章量が相当量あってこそ、編集作業の際に削除する文章が存在します。
つまり、文章を甦らせるためには、「70%の解答」を作成する際、調べたこと、思いついた、様々な情報をとくにかく多く書き出しておく必要があります。
できるだけ多くの文章を作成することが、結果的に、よみがえらせることのできる文章を準備することを意味します。
こうした地道な努力により、試験本番で「ひろげる」ことが可能になります。
●整理した情報
予想問題が的中していない状況下で、前述したように、これまでに作った解答の一部を甦らせることで対応できることもあります。
でも、そうではない場合もあります。
出題されたテーマについては、文章を作ったことがないという状況です。
それでも、試験本番では何とか文章を作成して、原稿用紙を埋める必要があります。
そんな時は、次のように考えるはずです。
「どうにかして、あの情報を文章化しよう」
では、その情報は一体どこに存在するのでしょうか?
それは、「情報の体系化」の時です。
「5.5 情報の体系化」で各テーマに関する「現状・問題点・対策」を整理することについて述べました。
「現状・問題点・対策」とは、具体的には、下図の内容です。
ここに記されている情報があれば、試験本番で「ひろげる」作業が可能です。
予想問題が完全的中しない以上、「ひろげる」作業を念頭においた準備が必要です。
この準備を行うのが「情報の体系化」です。
試験に出題される可能性のあるテーマについて、自分目線で「現状・問題点・対策」を作るべきです。これを作る過程で、できるだけ多くの情報を頭の中に刷り込むことが重要になります。
さらに、試験直前、「現状・問題点・対策」の内容をチェックすることも重要です。
試験直前は、勉強時間の累積がピークになります。
自ずと知的な感度も高くなっています。
こうした時期に、ちょっとした時間で「現状・問題点・対策」を見ると、情報が記憶に残りやすいです。
あらゆる試験に共通して言えることですが、「情報の体系化」をしっかりとやることが重要です。
できるだけ多くのテーマについて、「現状・問題点・対策」を作ってください。
●「ひろげる」能力を磨く
「ひろげる」作業を行うため、①よみがえらせるための文章、②整理した情報を準備することの重要性について話をしてきました。
これにより「ひろげる」能力が身に付きます。
そして、技術士試験に合格する確率を高めたいのであれば、この能力を磨く必要があります。
どうすればいいのか?
これは簡単ではないですが、これをやることで、本番力を向上することができます。
その方法とは、以下のとおりです。
抽象的な予想問題を用意して、解答を作成する。
あらゆることに言えることですが、情報の抽象度をあげれば、全体を理解することができるようになります。
全体を理解して記憶できれば、部分的なことについても言及できるようになります。
例えば、以下の問題が出題されたとします。
①送配水管の「漏水防止」の方法を数例挙げ、その内容を説明せよ。
これに対して、受験生が、以下の問題の解答を用意していたとします。
②送配水管の「漏水修理」の方法を数例挙げ、その内容を説明せよ。
この時、受験生が自らが用意した「漏水調査」の解答をそのまま書いたら不合格になってしまいます。
なぜなら、漏水修理は漏水防止の一部でしなないからです。
漏水防止には、漏水予防と漏水修理があります。この両方を記述することによってはじめて合格点をとることができます。
逆に、受験生が「漏水防止」に関する解答を作っていて、試験本番で「漏水調査」について出題された場合はどうでしょうか。
用意していた「漏水防止」の解答の中から、「漏水調査」の部分を抜き出せば、ある程度の解答を作ることが可能です。
これは、「漏水調査」よりも、「漏水防止」の方が、抽象度が高い情報であることに起因します。
抽象度の高い情報について整理しておけば、それよりも抽象度の低い情報について問われても、柔軟に対応できるわけです。
そう考えると、予想問題の抽象度をできるだけ高め、その解答を作成しておけば、どんな問題に対しても、柔軟に対応できることになります。
例えば、次のよう抽象的な予想問題を用意して、解答を作成していたとします。
③送配水管の「維持管理」について説明せよ。
この解答は、送配水管の「維持管理」について述べる必要があります。
「漏水防止」、「漏水調査」だけではなく、電食防止、残留塩素管理、流量水圧測定等についても言及する必要があります。
こうした解答を作っておけば、試験本番で出題されたのが、「漏水調査」であっても、「漏水防止」であっても、何らかの文章を書くことができるはずです。
もちろん、この作業は大変です。
ただし、抽象的な予想問題について解答を作っていれば、予想が完全に外れるという事態を回避でき、結果、試験本番で、どんな問題に遭遇しても、ある程度は何とかできる能力を身につけることが可能になります。
●試験本番では「観点」にひもづける
試験制度の改正があった令和元年度の試験では、出題テーマに関する課題を複数抽出するものでした。
ところが、令和2年度から、課題だけではなく「観点」もあわせて示すことが求められるようになりました。
例えば、令和2年度の上下水道部門の必須Ⅰ-1は、水循環に関する問題でしたが、問題文の中に水量、水質、水辺環境という3つの観点が示されていました。
つまり、水循環に関する課題は様々ものがありますが、水量、水質、水辺環境に関するものをピックアップして、これら3つを項目立てした上で解答を作成する必要があるわけです。
問題文では、水量、水質、水辺環境のことを「観点」と呼んでいますが、勉強する方の立場からすれば、「情報の整理項目」と言えます。
水循環における水量、水質、水辺環境という「観点」は、比較的一般的なものですから、試験本番で、この問題を見ても焦ることはないと思います。
ところが、そうでない「観点」の場合もあります。
例えば、令和2年度の上下水道部門の選択Ⅱ-2-1は、リスクマネジメントに関する問題でしたが、問題文に、特定、分析、評価、対応という4つの「観点」が示されていました。
この問題の場合、リスクマネジメントの手順を問われていたため、特定、分析、評価、対応というプロセルに沿って、解答を作成することが求められるわけです。
リスクマネジメントのことを熟知していれば、当然、文章を書くことができます。
ところが、危機管理や災害対策のプランを策定する内容しか知らなかった場合、その内容を、特定、分析、評価、対応という「観点」にひもづける必要があります。
この部分を疎かにして、自分が記憶していることを書きたように書いてしまうと、題意に外れていると判断されてしまう恐れがあります。
このため、試験本番では、問題文に示された観点と自分の知識をひもづけして、勇気を振り絞って、新たな解答を作る覚悟が必要になります。
●本番力を身につけることの重要性
試験問題は解答が存在しますが、実務には正答が存在しない場合が多いです。
そして、実社会の問題を解消するために必要なのが本番力です。
試験勉強を通じて本番力を身に付けることは、資格を取得すること以上に価値があることだと思います。
本番力を身につけることを意識して、勉強がんばってください。
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●過去問と解答例
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