R1技術士試験の解答例(⑧排水処理) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。

上水道及び工業用水道の選択科目Ⅱ-2は、2問の中から1問を選んで解答するものです。

今回は選択科目Ⅱ-2-2です。

 

【問題】

-2-2 河川表流水を原水とする急速ろ過方式の浄水場においてスラッジの脱水効率の低下が問題となっており,改善が求められている。あなたが,この改善業務を担当責任者として進めるに当たり,下記の内容について記述せよ。(答案用紙2枚以内)

(1)調査,検討すべき事項とその内容について説明せよ。

(2)業務を進める手順について,留意すべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。

(3)業務を効率的・効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

 

 

【解答例】

1 脱水効率を改善に際して調査・検討するべき事項

急速ろ過処理の浄水場の排水処理施設は、調整、濃縮、脱水等の工程で構成される。調整工程は、排泥池で沈澱池の引抜汚泥を、排水池でろ過池の洗浄排水を受け入れる。濃縮工程は、濃縮槽でスラッジの濃度を高める。脱水工程は、急速ろ過方式の場合、一般に機械式の脱水機で実施する。スラッジの脱水効率が低下している場合、脱水工程だけではなく、その前段の調整・濃縮工程、ろ過池の洗浄排水、沈澱池の引抜汚泥等についても調査を行い、原因を究明した上で、適切な対策を講じる必要がある。

2 業務の手順と留意点・工夫点

(1)脱水後の汚泥ケーキの含水率、発生量、各工程におけるスラッジの性状、発生量、施設の能力、運転状態について確認する。

①脱水施設は、異常の発生がスラッジの脱水効率に直結するため、運転時間の不足、給泥量の過多等の点検を行う。さらに、加圧方式の場合、圧力不足、ろ布の閉塞や折損、バルブ類の異常、遠心分離方式の場合、電動機の異常等について確認を行う。

②調整・濃縮施設は、上澄水の返送ポンプ、スラッジの搔寄機、移送ポンプ等の点検を行う。

③凝集沈澱ろ過施設は、ろ過池の洗浄頻度、逆流洗浄時間、沈澱池の排泥弁、排泥頻度、界面計等の点検を行う。キャリーオーバーはろ過池洗浄の増大につながるため、原水・処理水の水質・水量、薬品注入量、攪拌速度、傾斜版の折損の有無等を確認する。

(2)運転方法の変更・調整、ろ布等の清掃、設備の補修等を実施し、施設の機能回復を図る。老朽化が進んでいる場合は、更新を行い、更新にあわせて構造上の問題を解消する。例えば、脱水機を更新にあわせて遠心分離方式から加圧方式に変更し、能力の増強も図る。

(3)必要に応じて追加整備や増設を行う。例えば、脱水前処理として高分子凝集剤注入設備、ろ過濃縮装置の追加整備等を行う。コージェネレーションシステムの導入にあわせて排熱による汚泥の乾燥を実施する。脱水効率の向上による産業廃棄物の発生量、処分費の縮減、環境保全効果等を総合的に評価した上で適切な対策を講じる。濃縮槽等の施設の増強は、用地確保を行った上で実施する。

(4)PDCAサイクルにより経過観察をしながら、継続的に改善を行う。

3 関係者との調整方法

技術者は、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等の関係者との間で、口頭や文書等の方法を通じて、明確かつ効果的な意思疎通を行う必要がある。

このため、ICTを活用し、依頼主に迅速かつ確実に情報提供を行うとともに、関係者間で情報共有を行う。また、過去の記録を調査するだけではなく、維持管理部門の関係者に聴き取りを行い、現場の実態を診断や評価に反映することが重要である。業務に支障が生じないよう、事前にスケジュールを作成・提示し、関係者が相互に信頼し、相手の立場を尊重して、業務の調整を円滑に行う必要がある。

 

 

【解説】

選択科目Ⅱ-2は、リード文でテーマを設定し、(1)(3)で具体的な質問をする構成になっています。

問題Ⅱ-2-2のリード文の1段落目に「スラッジの脱水効率の低下」と書いてあります。この問題は排水処理がテーマになります。このテーマについては、過去H19--1-4において汚泥の減量化、H22--1-3において排水処理施設の構成・機構、H25--1-1において排水処理施設のプロセスが出題されています。

ただし、脱水効率を改善する手順については、維持管理指針等にも掲載がないですし、これといった参考文献もありませんでした。この解答例も、正直なところ何を書くべきか悩みましたが、脱水、調整・濃縮、凝集沈殿ろ過を適切に実施できているか確認し、適切な対処をするという基本的な考え方を示すにとどまっています。この問題は難しかったと思います。それから、Ⅱ-2-1の管路の診断も難しかったと思います。このため、今年の試験は、Ⅱ-2、2枚物が合否を分けると思います。

  なお、3つの質問のうち、(3)の関係者との調整方法とあります。この設問は、上下水道だけではなく、建設部門や機械部門等、他の部門でも出題されています。つまり、一般的なことを答えればいいわけです。文部科学省において『技術士に求められる資質能力』が公表されていますが、この中に、コミュニケーションという項目があります。関係者は雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等になります。また、関係者との調整は口頭又は文書で行い、効率的とは少ない労力で情報交換を行うことを意味するのでICTの活用等が考えられるます。また、効果的とは高い成果を出すことなので、関係者が協力して課題に取り組むことを意味します。

  

※参考文献

・水道維持管理指針

・水道施設機能診断マニュアル

 ・技術士に求められる資質能力

 

 

 

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