R1技術士試験の解答例(⑨水質管理) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。

上水道及び工業用水道の選択科目Ⅲは、2問の中から1問を選んで解答するものです。

今回は選択科目Ⅲ-1です。

 

【問題】

-1 我が国の水道普及率は約98%となり,ほとんどの国民が水道を利用できるようになっている。一方で近年の水道を取り巻く環境は大きく変化し,特に水道水に対する安全性・快適性への関心がますます高まってていることから,今後はさらにレベルの高い水質管理を実践することが求められている。

このような状況を考慮して,以下の問いに答えよ。(答案用紙3枚以内)

(1)安全・快適な水道水を供給するために,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。

(2)抽出した課題のうち,あなたが最も重要な技術的課題と考えるものを1つ挙げ,解決するための技術的提案を複数示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。

 

 

【解答例】

1 水道水質に関する課題

水需要者からの安全性・快適性に対するニーズに応えるため、水源から給水栓までの水安全計画を策定した上で、浄水処理、水質監視、水質検査等を適切に実施する必要がある。水道水質に関するリスクは以下のようなものがある。

(1)クリプトスポリジウム等の病原性微生物は、経口摂取による健康被害が発生するが、通常の塩素剤では不活化できない。

(2)2MIBやジェオスミン等の異臭味物質は、水源における藻類や放線菌に由来し、溶解性物質であることから通常の浄水処理では除去が困難である。

(3)トリハロメタン等の消毒副生成物は、発がん性が報告されており、原水中に含まれる有機物等と塩素剤が反応して生成するもので、通常の浄水処理では除去が困難である。特に、浄水処理対応困難物質は、公共用水域への排出基準が設けられておらず、塩素剤と反応してホルムアルデヒド等の物質を生成するため問題になっている。

(4)トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物は、土壌浸透等により地下水に混入するもので、通常の浄水処理では除去が困難である。

(5)残留塩素濃度は、水道法上で0.1mg/ℓ(遊離残留塩素)以上確保する義務がある。また、おいしい水の観点から0.4mg/ℓ以下にすることが望ましい。ただし、全ての給水栓でこれを達成するのは困難である。

(6)河川水における原水濁度は、ゲリラ豪雨や土砂崩れにより著しく上昇し、浄水場の処理能力を超えるケースがある。気候変動の影響によりこうした事象が各地で多発する可能性がある。

(7)油や毒物等の有害物質は、事故や犯罪により公共用水域に混入する可能性がある。

2 最重要課題に関する解決策

上記の課題のうち、クリプトスポリジウム等は、自然界に存在するリスクであり、広範囲で健康被害が発生する可能性があるため、最重要と位置づけた。

以下の解決策の中から、ライフサイクルコスト、維持管理性、将来的な水質汚染リスク等について比較検討し、総合的な判断に基づき、最適なプランを選択する。

(1)ろ過処理の整備

 急速ろ過、緩速ろ過又は膜ろ過を整備する。ろ過水濁度を0.1度以下に抑制する必要があるため、高感度濁度計を設置した上で、ろ過水流量を適切に管理する。砂層ろ過の場合、マッドボールの発生や部分的な砂の流出等によりブレークスルーする可能性があるため、砂層の適切な管理が不可欠である。急速ろ過の場合、前段の凝集沈澱処理を適切に実施し、必要に応じてスローダウン、スロースタート等を行う。膜ろ過は、膜の破損リスクに配慮して、水圧の常時監視を行う。

(2)紫外線処理の整備

 紫外線処理は、強力な殺菌力でクリプトスポリジウ等を不活化する。令和元年5月以降、地下水だけではなく、ろ過処理後の表流水へ導入が可能になった。紫外線処理は、十分な照射を確保する必要があるため、濁度2度、色度5度、紫外線透過率75%超という条件を満足する必要がある。濁色度計、UV計等を設置し、常時監視を行う。

(3)浄水場の統廃合

 クリプトスポリジウム対策を実施済みの浄水場の系統から送水管を整備し、問題のある浄水場を廃合する。送水元の浄水場の予備力を活用することになるため、水需要予測を行った上で、統廃合の是非を判断する必要がある。

(4)水源の変更

 浅井戸から深井戸への変更、井戸の場所の変更等、既存浄水場を維持した状態で、指標菌が含まれない地下水に水源を変更する。ただし、指標菌に関する原水の定期検査、井戸内部の点検、外部との遮断性の確認は必要である。

3 解決策に共通して新たに生じうるリスクと対策

水道の水質管理は、相反する要求事項が含まている。必要性、経済性を優先して脆弱な施設を整備すれば機能性、安全性が損なれる。こうしたリスクの隠ぺい、偽装により、二次災害が発生する可能性がある。また、設計段階では適切な技術であっても、新たな調査、知見により、地球環境、人体への影響が発覚する場合もある。

こうしたリスクを踏まえ、複数の選択肢を検討し、最適な解決策を提案する。さらに、PDCAサイクルにより改善する。技術者が公共の福祉の確保、法令遵守、継続研鑽を実践できるよう、指導・教育体制を確保する。

また、対策を実施するためには多く費用と期間を要することから、広域連携や官民連携を推進し、合理的な対応策を講じることが重要である。

 

 

【解説】

選択科目Ⅲは、リード文でテーマを設定し、(1)(3)で具体的な質問をする構成になっています。

問題Ⅲ-1のリード文の2段落目に「水道水に対する安全性・快適性」と書いてあります。この問題は水質管理(全体)がテーマになります。このテーマについては、過去H20-C1において水源から給水までの水質管理、H28-Ⅲ1において水源、浄水場、送配水のリスクを踏まえた水質管理が出題されています。比較的、書きやすいテーマです。

次に、(1)(3)の質問についてです。

質問(1)では、多面的な観点から課題を抽出することを求められています。多面的ということは複数の課題を列記する必要があり、異臭味、残留塩素濃度、トリハロメタン等の消毒副生成物、クリプトスポリジウム、高濁度等について言及します。

質問(2)では、課題の一つをピックアップして複数の解決策を説明することになっています。クリプトスポリジウムをピックアップするのが無難です。なぜなら、対策の種類が多いので書きやすいからです。また、快適性で考えるなら、異臭味物質がいいと思います。これも、対策の種類が多いので書きやすいです。

次に、質問(3)ですが、「解決策に共通して新たに生じうるリスク」というフレーズがあります。必須科目と同じ質問です。共通した新たなリスクとは、トレードオフのような問題になります。これを踏まえると、複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)になります。その対策は、リスクの影響の重要度を考慮し、複数の選択肢を提起した上で、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善することになります。

 

※参考文献

・水道施設設計指針

 ・技術士に求められる資質能力

 

 

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