令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。
上水道及び工業用水道の選択科目Ⅱ-2は、2問の中から1問を選んで解答するものです。
今回は選択科目Ⅱ-2-1です。
【問題】
Ⅱ-2-1 効果的な管路更新計画策定には管路診断が不可欠である。この管路診断業務を担当責任者として進めるに当たり,下記の内容について記述せよ。(答案用紙2枚以内)
(1)調査,検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順について,留意すべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的・効果的に進めるための関係者との調整方法について述べよ・。
【解答例】
1 管路診断業務に関する調査・検討事項
管路の診断方法は間接診断と直接診断がある。
間接診断は、日常の維持管理業務により得らた記録をもとに管路の機能低下とその要因を解析し、将来の変化を予測する。調査事項としては、①管体基本情報(布設年度、管種、口径、延長、塗装や被覆の有無等)、②社会的情報(給水人口、給水量、重要施設の有無、道路状況等)、③事故情報(事故率)、④苦情件数(苦情率)、⑤漏水量、⑥耐震性(継手、液状化)等がある。⑦埋設環境情報(土被り、土壌の腐食性、交通量等)、⑧水道水の状況(水圧、水量、水質)により管路の状況を推定できる。更新の判断を客観的に行えるよう、適切な調査項目を選択することが重要である。
直接診断は、管路を直接調査して機能を測定・評価する。調査事項としては、①管内面の状況(腐食、剥離)、②管外面の状況(管厚、塗装厚、被覆の有無、腐食)、③継手の状況(ボルトナットの腐食等)がある。
2 業務の手順と留意点・工夫点
診断業務は以下の手順で実施する。
(1)管体基本情報の把握
工事完成図、給水台帳、資産台帳、点検簿、経歴簿等のデータベースにより情報を収集する。最新の情報を診断に反映する必要があることから、マッピングシステム等を活用し、効率的に情報を整理する必要がある。
(2)間接診断
路線を設定した上で診断に必要な情報を収集する。法定耐用年数と経過年数で更新の必要性を判断する方法もあるが、管種、管厚、土壌等に基づく腐食予測式を作成し、更新時期の目安を見極めることが重要である。その上で、断水時の社会的影響、道路陥没等の二次災害のリスク等を踏まえて、更新時期を判断することが望ましい。
(3)直接診断
管路の多くは埋設されているため、間接診断が基本となるが、これだけで劣化状況を把握できない場合、直接診断を行う。状況確認、実測を行うためには、試掘が必要になるため、道路規制や掘り返し規制に留意する。露出管については、エックス線探査等により管厚調査を行う。
(4)評価
診断結果を整理し、路線毎の総合的な評価を行う。優先順位を決定した上で計画的に更新を行うことを提案する。
3 関係者との調整方法
技術者は、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等の関係者との間で、口頭や文書等の方法を通じて、明確かつ効果的な意思疎通を行う必要がある。
ICTを活用し、依頼主に迅速かつ確実に情報提供を行うとともに、関係者間で情報共有を行う。また、過去の記録を調査するだけではなく、維持管理部門の関係者に聴き取りを行い、現場の実態を診断や評価に反映することが重要である。業務に支障が生じないよう、事前にスケジュールを作成・提示し、関係者が相互に信頼し、相手の立場を尊重して、業務の調整を円滑に行う必要がある。
【解説】
選択科目Ⅱ-2は、リード文でテーマを設定し、(1)~(3)で具体的な質問をする構成になっています。
問題Ⅱ-2-1のリード文の1段落目に「効果的な管路更新計画策定には管路診断が不可欠である」と書いてあります。この問題は管路の機能診断がテーマになります。このテーマについては、H22-Ⅱ-1-4において管路診断、H28-Ⅱ-2-2において管路更新計画につながる管路診断が出題されています。
なお、3つの質問のうち、(3)の関係者との調整方法とあります。この設問は、上下水道だけではなく、建設部門や機械部門等、他の部門でも出題されています。つまり、一般的なことを答えればいいわけです。文部科学省において『技術士に求められる資質能力』が公表されていますが、この中に、コミュニケーションという項目があります。関係者は雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等になります。また、関係者との調整は口頭又は文書で行い、効率的とは少ない労力で情報交換を行うことを意味するのでICTの活用等が考えられるます。また、効果的とは高い成果を出すことなので、関係者が協力して課題に取り組むことを意味します。
※参考文献
・水道維持管理指針
・水道施設機能診断マニュアル
・技術士に求められる資質能力
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