令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。
今回は必須科目Ⅰ-2です。
【問題】
I-2 上下水道事業は,我が国の生活基盤を支えるインフラとして重要な役割を果たしている。一方で,その事業活動は,インフラ整備,水輸送のための管路システム及び水処理におけるエネルギー消費等により,地球温暖化に影響を及ぼしている。
上記のような状況を踏まえ,以下の問いに答えよ。(答案用紙3枚以内)
(1)上下水道事業においては地球温暖化防止のためのさまざまな取組が求められている。これについて,技術者としての立場で多面的な観点から上下水道事業に共通の課題を抽出して分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える上下水道事業に共通の課題を1つ挙げ,その理由を述べるとともに,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)業務遂行において必要な要件を技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。
【解答例】
1 上下水道に共通する地球温暖化防止に関する課題
地球温暖化は、海水面の上昇、豪雨や渇水の発生等を招く。上下水道にも甚大な影響を及ぼすことになるため、エネルギー消費量の原単位や再生利用エネルギー利用率等を数値目標として設定した上で、以下のことについて対策を講じる必要がある。
(1)省エネルギー
上下水道は施設型産業であり、事業運営に伴い大量のエネルギーを消費するため、省エネルギーに取り組む必要がある。高効率機器の導入、運転管理・維持管理の効率化、排熱利用等を行う。
(2)再生可能エネルギー導入
施設の運転にはエネルギーが不可欠であることから、クリーンエネルギーの使用が有効である。施設用地を利用した太陽光発電、管路や管渠を使った小水力発電、下水汚泥によるバイオマス発電、さらには、風力発電、地熱発電等の導入を行う必要がある。
(3)省資源
事業運営に伴う資源の使用は環境負荷の増大につながる。このため、リデュース、リユース、リサイクルを推進し、浄水場や終末処分場における薬品注入量の抑制、汚泥の減量化や有効利用、施設の長寿命化等に取り組む必要がある。
(4)その他
電気自動車や燃料電池の採用等、二酸化炭素の排出を抑制できる機器を導入する。また、水源涵養林の取得、施設の緑化、グリーン購入等により、二酸化炭素吸収に繋がる取組を進める。
2 最重要課題に関する解決策
上記の課題のうち、省エネルギーは、地球温暖化防止として効果が高く、老朽化した設備の更新等にあわせて導入することができるため、最重要と位置づけた。施設毎の解決策を以下に示す。
(1)インフラ整備
施設の更新にあわせて統廃合を進め、位置エネルギーを有効活用できる施設配置を選択する。
機械・電気設備について、新設・更新にあわせて高効率型を採用する。特に、電動機については超高効率型を採用するべきである。ポンプ、ブロワー等、水量・風量の調整を行う設備はインバータ方式、インレットベーンの採用等を行う。
空調設備において、ヒートポンプ型を採用する。照明設備において、LEDを採用する。
(2)管路
管路の漏水は、水輸送エネルギーの浪費につながるため、定期的に漏水調査を漏水の修理を行うとともに、計画的に更新を行う。
残存水圧を利用できるよう、増圧ポンプを基本とし、適宜、加圧配水方式を採用する。
管路の減口径は、エネルギー損失につながるため、布設コスト、維持管理性、消費エネルギー等のバランスを考慮して、適切な口径を選定する。
(3)水処理施設
複数の浄水場、終末処分場を有している場合、消費エネルギーを最小化できるよう、水運用の効率化を図る。
汚泥の乾燥処理や自家発電設備にエンジンを使用している場合、排熱利用を行う。
汚水処理の向上、公共用水域の水質向上により、浄水処理の負担、消費エネルギーの縮減が可能になることを踏まえ、流域全体が協力して環境保全に取り組むことが重要である。
3 解決策に共通して新たに生じうるリスクと対策
地球温暖化防止対策は、相反する要求事項が含まている。必要性、経済性を優先して脆弱な施設を整備すれば機能性、安全性が損なれる。こうしたリスクの隠ぺい、偽装により、二次災害が発生する可能性がある。また、設計段階では適切な技術であっても、新たな調査、知見により、地球環境、人体への影響が発覚する場合もある。
こうしたリスクを踏まえ、複数の選択肢を検討し、最適な解決策を提案する。さらに、PDCAサイクルにより改善する。技術者が公共の福祉の確保、法令遵守、継続研鑽を実践できるよう、指導・教育体制を確保する。
また、対策を実施するためには多く費用と期間を要することから、ハードだけではなく、ソフト面の取組も不可欠である。広域連携や官民連携を推進し、合理的な対応策を講じることが重要である。
4 業務遂行において必要な要件
分析・評価、計画、設計、施工、維持管理等、業務遂行におけるの全段階において、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する必要がある。また、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保に努める必要がある。
【解説】
問題Ⅰ-2のリード文ですが、2段落目に「インフラ整備、水輸送のための管路システム及び水処理におけるエネルギー消費等により、地球温暖化に影響を及ぼしている」と書いてあります。この問題は地球温暖化防止対策がテーマであることが解ります。
上水道も下水道も、水処理施設、貯水施設、管渠、設備で構成されているため、地球温暖化対策は共通したものが多いです。
上下水道、それぞれについて記述すると、同じことを繰り返し説明することになるので、内容をまとめて述べることが求められています。
なお、エネルギー関連については、H23の必須において、電力使用量の削減が出題されています。
次に、(1)~(4)の質問についてです。
質問(1)ですが、多面的な観点から課題を抽出することを求められています。地球温暖化対策としては、省エネルギー、再生可能エネルギー、省資源等を列挙すればいいです。
「抽出し分析せよ」というフレーズがありますが、これは省エネルギー、再生可能エネルギー、省資源等の取組が地球温暖化対策に繋がることを説明すればいいと考えます。
質問(2)ですが、課題の一つをピックアップして複数の解決策を説明することになっています。
「課題を1つ挙げ、その理由を述べる」という指示があります。なぜその課題を選択したのか理由を述べる必要があるわけです。
リード文に「エネルギー消費等により地球温暖化に影響を及ぼしている」と書いてあるので、省エネルギーを選択するのが無難だと思います。下水道では汚泥を使ったバイオマス発電がクローズアップされているので、再生可能エネルギーを選択するのもいいと思います。
また、問題文に、「インフラ整備、水輸送のための管路システム及び水処理におけるエネルギー消費」という文言があるので、インフラ整備、管路システム、水処理の3つについて対策を列記すればいいと思います。
質問(3)ですが、「解決策に共通して新たに生じうるリスク」というフレーズがあります。
解決策はそれぞれ方法が異なるため、本来、新たに生じるリスクも異なるはずです。
これを踏まえると、ここで説明を求められているのは、共通性が高く普遍的な事柄になります。
質問(4)についても、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から説明を求められており、一般的な内容になります。
平成26年、『技術士に求められる資質能力』が発表されましたが、その中に、トレードオフと技術者倫理の内容が言及されています。これが解答を作成する上で参考になります。
この内容を踏まえると、質問(3)の「解決策に共通して新たに生じうるリスク」は、複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)が発生することが該当します。
その対策としては、リスクの影響の重要度を考慮し、複数の選択肢を提起した上で、最適な解決策を提案することになります。
さらに、質問(4)の「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点」については、業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全、社会の持続性の確保に努めることを意味します。
【参考文献】
・上水道・工業用水道部門における温室効果ガス排出抑制等指針マニュアル等
・技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)
・技術士倫理要領
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